黄金の果実
「なにこれ、篭?」
◆◆は■■■が持ってきて机の上に置いたビニール袋を見た。凸凹のある袋からは編み目と籐の取っ手が透けて見えた。
「じゃん。果物の盛り合わせだ」
■■■は袋から篭を取り出した。
「なんでまた」
「入院した時にオレンジ剥いてもらったっていうのに、同じこと出来ないの不公平だと思って。ほら、桃だよ」
「桃だね」
「本物だ」
「見ればわかる」
「見舞いと言えば桃だ」
「それは缶詰だろう。しかも風邪ひいたときのやつ」
◆◆の疑念をよそに、■■■は力強く頷いた。
「そう。今回は風邪じゃない。そういうわけでアップグレードして生桃だ」
「そうか……そう、ううん?」
◆◆は首を捻った。いまいち納得しがたい理屈だ。■■■は桃を眺めまわした。うぶ毛の生えたきめの細かい紅色の実は甘い色香を放っている。■■■は◆◆に問うた。
「食べる?」
「食べる。チーズを散らしてサラダにしよう」
「チーズあったかな」
「ある。生ハムもある」
■■■は篭の中を覗いた。
「……残念だけどメロンはないよ」
「見ればわかる。洋ナシがあるから、それを使おう」
「美味しいの?」
「ぼくの作るものがまずかったことがあったか?」
◆◆は口を歪めにやりとした。
「ないね」
「そういうことだ」
二人は顔を見合わせ、からからと笑った。
「きみのお見舞いだっていうのに、全部やらせてしまってすまない……」
皿の上の桃をもちもちと食べながら申し訳なさそうに■■■は言った。◆◆はフォークでチーズを割いた。
「いや、食べてくれるだけ上等だ、■■■。入院中、剥いたオレンジの半分以上をぼくに食べさせただろう。忘れたとは言わせないぞ」
「えっ、あれ、そうだっけ」
「そうだよ、わかったらリンゴを食べてくれ。ぼく一人じゃとても食べきれない」
ウサギの形に切られたリンゴが皿の上に並んでいた。
「器用だね」
「お見舞いと言ったらやっぱりこれだよ」
◆◆はウサギの一羽を楊枝で刺し、くるくると回して口へ入れた。瑞々しい果実はしゃくりと小気味良い音を立てた。
「黄金のリンゴって飾り切りされるのかな」
■■■がウサギの耳を見ながらそんなことを言った。
「待って、黄金のリンゴって何?」
「なんか絵画のモチーフに出てくるやつ。ええと、ジョナゴールド?」
「ジョナゴールドは金じゃない。金色なのはゴールデンデリシャス」
「林檎博士だ」
「よしてくれよ、そんなんじゃない」
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