浴場

「手首、治らないね。捻挫?」

湿布と包帯の巻かれた手首を、気遣わしげに■■■は指した。

「ああ、いや、腱鞘炎、かな。筋を痛めちゃったみたいでさ」

「安静にしてなくちゃだめだよ」

「安心してくれ、箸より重いものは持ってない。あー、そうだ、そのことで頼みがある」

「できることならなんだってするよ。何?」

「髪を洗ってくれ。力が入れられなくてどうにもすっきりしないんだ……」

「いいよ、まかせてくれ」


「どう?」

わしわしと頭を掴み、髪を掻き混ぜながら■■■は聞いた。ズボンは履いたまま、裾がロールアップされている。◆◆は肩にかけたタオルの端を握り、背を丸めたまま身震いした。

「……勃ちそう」

「うん。……うん?」

「人に頭触られるのがこんなに下半身に響くとは思わなかった。っていうかおまえ、髪洗うの上手いな。くらくらする……」

「のぼせてない? 大丈夫?」

「湯には浸かってない、あー、いったん手を止めてくれ……」

「どうかした?」

■■■は手を止めた。◆◆は嘆息した。

「イきそう……ちょっとどころでなくヤバい」

「だしなよ、やりにくいなら、その、外で待っててもいいし……」

「嫌だよ、そんな人待たせた状態でナニこくの……」

「……ここでする? それとも続ける? いいよ、別に出しても」

「ええ……」

「……それくらいで渋るような関係でもない気がするんだけど、そうでもない?」

「いや、僕のことなんだと思ってるんだよ……」

「友達?」

「なぜ疑問形」

「うーん、きみ以外にも友達いるけどこんなことしたりはしないよ」

「ああ、まあ、そうだな……」

「それで、どうするの。手でしようか?」

「やめて。髪を洗うのに手を汚さないで、頼むから」

■■■は目を瞬かせた。

「そこ気にするんだ」

「それは、まあ、その……濡れたものを触った後、手を洗った後に一度乾かさないとなんか気持ちが悪いっていうか。洗っただけじゃなんかまだ残ってる気がして……」

「そういうもんかな。あ、ちょっとそこの手桶取ってくれる?」

「ああ」

◆◆は身体を捻り、掴みにくいであろう方の左手で手桶を掴んだ。

「はい……■■■?」

「あ、えっと、ありがとう……右手、そんなに悪いの」

「や、まあ……それなりくらい、かな」

洗っていた手の水を切って、■■■は◆◆のタオルを取り払った。

「ちょっと、何するの」

「あー、ええとね」

■■■はバスタブの足を組んでふたに座り、つま先をタオルで拭いた。

「とりあえず……そうだね、目を瞑ってなよ」

言いながら、拭いた足先で■■■は◆◆の陰茎を掴んだ。そのままやわやわと揉み込む。ふと思いつき、目の前にある頭へと手を伸ばした。髪に指を通し、腕で顔を挟むようにして優しく撫ぜる。

「うう」

べちゃり、と濡れた感触に目を向けると、◆◆の口から唾液の糸が引いていた。

「……気持ちいい?」

◆◆はかざした手で顔を隠したまま、是とも否ともつかない返事をした。

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