性的情動変換装置

祝い酒

「退院おめでとう」

「あ、ありがとう」

「これに懲りて薬はもうやめることだね……」

「……さすがにね。もうしないよ」

■■■は苦笑した。

「そりゃそうか。まあ、なにはともあれおめでとう。退院祝いを用意したんだけど、どうだい」

◆◆はグラス二つと酒瓶を取り出し、目の前で揺らした。ちゃぷ、と中身が波打つ。

「おー、新品だ」

「未開封って言ってくれ。まあ、開けよう。ええと、■■■の退院を祝して?」

グラスに透明の液体を注ぎ、◆◆は■■■に渡した。次いで、自分の分も注ぐ。■■■は首を傾げた。

「ええと、なんだっけ。乾杯?」

「乾杯?」

「……」

「……」

二人は顔を見合わせ、グラスを控えめに掲げた。

「いやあ、盛り上がらないねえ」

グラスに口を付け、■■■が言う。

「そりゃなあ、ぼくと■■■で盛り上がるわけないだろ」

「一気飲みとかする?」

「病院に逆戻りしたいならもっと別の事にしたが良いんじゃないか?」

「違いないね」

つまみの煎餅やナッツを齧りながら、二人は飲み続けた。無くなったら注ぎ、注いだらまた飲む。三杯目がなくなったころ、◆◆がグラスを置いた。

「腹減ったな、なんか作るか」

「キッチンドランカーってやつだ。手伝おうか?」

「酔ってるならやめておいた方が賢明だ。そこで待っていてくれ」

◆◆は台所へ立った。



「これはなに」

「焼いた餃子だ」

焼いた餃子はきっちり三個ずつ竹串に刺さっていた。

「なんで焼いた後で串に刺したかなあ……」

串餃子はぷよぷよとした皮が歪み、ところどころ裂けている。

「……食べやすいかと思ったんだ」

「君も結構酔ってたんじゃないか?」

「認めざるを得ない」

二人はもたもたと餃子を食べた。味は過不足なく普通の餃子だった。

「ああ、これで最後だ」

瓶の残りは二人のグラスをちょうど満たした。◆◆は袋へ空いた紙皿と包装とをまとめて、空き瓶と一緒に台所へ捨てに行った。入れ替わりに水を持ってくる。

「……」

ぐっと残りを呷り、◆◆はぼんやりと言った。

「退院祝いに一発、どうだ」

「ああ、うん……いいんじゃない、かなあ」

「……言ってることわかってる?」

「うん、つまり、歯を磨かなくちゃならないってことだ。◆◆はそういうところうるさいからねえ」

赤い顔のままケラケラと笑い、■■■は洗面所へと消えていった。


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