入院
医院にて
「……」
「その後の経過はどうだい。包帯取れたんだろ」
「包帯じゃない、カテーテル」
持ってきたオレンジを剥きながら◆◆は肩をすくめた。
「行間を読んでくれ。で、それ、勃つのかい」
股間に据え付けられたそれはサイバネティクスだ。そう◆◆は聞いた。■■■から。◆◆は■■■の家族でもなければ親戚でもない。法的には赤の他人だ。だから、◆◆は■■■の体にどんな変化があったのかを具体的には何も知らない。■■■に直接聞くことだけが◆◆にできる全てだ。
問いに対し、■■■は目に見えて狼狽えた。
「いや、その、どう、なんだろう……どうしよう、勃たなかったら」
勃つ、勃たない、という話になるということは、性的な情動が挙動に変換されるタイプではあるらしい。この言い方からして、心因性の勃起不全になることを気にしているのだろう。なることを? なっているかもしれないことを、だ。この男はいささか神経が細すぎるきらいがある。◆◆は剥いたオレンジの皮をサイドボードに置き、肩をすくめた。
「別にいいよ、そうなったらなったでどうとでもするさ。ぼくが抱いてもいいんだし」
「えっ……それは、困る……」
即答。◆◆は、なぜだ、と問おうとして口を開いた。目を合わせた■■■は赤面し、さっと俯いた。答える気はないのだろう、これはそういうときの顔だ。こういうときは聞くだけ無駄だ。どうにも煮え切らない様子の■■■へ◆◆は内心舌打ちをした。
「……よくなかったかい」
「ああいや、う、ううん、その、ど、どう……なんだろう」
ぼそぼそと口の中で呟き、■■■はふい、と横へ視線を逸らした。頬は相変わらず赤いままだった。この様子を見るに存外満更でもなかったのかもしれない。だとしたら何を拒むことがあるのか。頬杖をつき、◆◆はオレンジを口に運んだ。酸っぱいような甘いような、形容しがたい生のオレンジの味がした。
「……きみも食べなよ。遠慮してないでさ」
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