第13話 夏半ば

夏休みが始まってから何日が経つのだろう、今は夏真っ只中だ。外に出るとものすごい熱気が漂っている。外には出たくないような気温だ。

「暑い」

僕はソファに寝転がりながらアイスを口にし、怠けた体勢でつぶやいた。

まるでおっさんのようだ。

僕は夏休みの課題の8割を終えていたため怠けた生活を送っている。しかも夏休みもまだ前半、しばらくは楽して一日を終えることができる。

とは言っても夏休みなんて友達がいなければ滅法つまらない。

家に引きこもっていても嫌気が差すので、気分転換に外に出ることにした。

クーラーの効いた部屋から出るのは抵抗があるが家にいても何もない。時間をただ浪費するだけだ。

家を出ると朝の予報でも言っていた通り蒸し暑い。

とりあえず目的がないので本屋に寄って雑誌か漫画を見ることにした。

ずらりと並ぶ漫画の新刊や雑誌、それに目を向け自分のお気に入りの漫画を探す。

見ている漫画は少年向け雑誌のものだ。女になっても趣味は変わらない。

本をレジに持っていき会計を済ませる。

本屋を出る前にふとCDコーナーに目をやると死神、西谷にしやがいた。

ヘッドフォンを耳にかけ視聴コーナーに立っている。

邪魔したら悪いかと思い、見て見ぬふりをして本屋を出る。

すると西谷もCDに飽きたのだろうか、こっちに向かって来る。

最後に会ったとき変な別れ方したしちょっと絡まれると気まずいと思ったので早足で逃げようとする。

西谷は僕に気付いたのか、大声で僕の名前を呼び、追いかけてくる。

「おーい!上坂祐!待ってくれよ」

なんで本屋で大声が出せるんだこいつは。マナーというのを知らないのか。

というか僕の名前を呼ぶな。しかもなぜフルネームなんだ。

こいつの知り合いだと周りに人に思われたくない、僕は店を出ると猛スピードで逃げた。

どのくらい走っただろうか、後ろに追いかけてくる姿はない、振り切ったようだ。

一息つき、近くの公園のベンチに座る。すると

「なんで逃げんだよ」

「うわっ!」

突然西谷が現れ話しかけられる。僕は驚いて変な声が出てしまった。

「どうして逃げたんだ?」

逃亡した理由について迫ってくる。

「なんでって、そりゃ本屋で名前を大声で呼ばれたら誰でも他人のふりして逃げたくもなるさ」

正直に白状する。

「まあ、それで僕に何の用?またどこか行きたい所でもあんの?」

「そうだなぁ腹減ったから昼飯食べに行こうぜ。もちろんお前の奢りな」

なんだこの死神。会うたびこいつには驚かされる。死神っていうのはこんなにも器が狭いのか。

「まあ奢りでも何でもいいけどさ、何食べたいの?」

「焼肉かなぁ」

「冗談は止してくれ」

焼肉ぅ!?ふざけるなそんな金持ち合わせていないし、こいつなんかにそんな金払ってられねぇよ。

「冗談だってば。そうだなぁ、ファミレスでいいや」

「なんでちょっと妥協気味なんだよ」

上から目線なのがどうも気に食わない。

「まあ、奢ると言った以上奢らないわけにはいかない。男に二言はないのだ。」

「いや、お前今女だろ」

痛いところをついてきやがる。

西谷の希望通りファミレスにやってくる。

「おお!ここがファミレスなのか」

「来た事無ぇのかよ」

こいつはどんな生活を送っているのか少し気になった。

「じゃ、私このお子様ランチセットな」

笑わせに来てんのかこいつは。見た目女子高生みたいなやつが普通、お子様ランチセットなんて頼まないだろう。

「バーカ、そいつは子供じゃねぇと頼めねぇんだよ。他のメニューにしろよ」

「なんだよちょっと試しに言ってみただけだっての」

本当か?もしこいつが一人で来ていたら間違いなくお子様セットを頼んでたぞ。

「お前は何にするんだ?」

「僕はパスタだけでいいや」

そこまでおなかは空いていない。なんなら食べなくてもいいくらいだ。

テーブルの呼び出しボタンを押し店員に注文をする。

「私はこのハンバーグ定食で」

「僕はパスタお願いします」

しばらく一人でいたせいで一人称が僕に戻っていた。

頼んだメニューが来るまで少し話すことにした。

「お前普段どこに寝泊まりしてるの?」

「公園とか?」

ホームレスかよ。

「それじゃお前風呂とかに入ってないのか?」

「まあね、でもこの姿でいるのは仕事をしていない時だけさ」

作業着でもあるのか?いづれにせよ汚いだろ。

「止まる場所無いんなら家来いよ。僕以外住んでないし。一人は退屈なんだ。」

「おお!マジで!?助かる」

ここまでオーバーな反応をされると思わなかった。

そんなこんなで頼んだものが来る。

西谷は数日何も食べていないのか物凄い勢いでハンバーグを口にする。

まるで野生に生きる動物の様だった。

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