第14話 居候
昼ごはんを食べ、ファミレスを出る。
時計を見ると一時半過ぎを指していた。ファミレスに長居し過ぎたようだ。
「ふ~食った食った」
西谷が酔っぱらったおっさんの様に腹を触りながら歩く。
「お前、人の金だと思って遠慮無しに注文しまくるんじゃねぇよ」
食に興味のない僕からしたら食事に六千円は使い過ぎだと思った。
「奢るって言ったのはそっちだろ」
「そうは言ってもだなぁ」
呆れる。というかこのお金は波崎さんの財産であって僕のお金ではない。
冷静に考えれば悪いことをしている。その上こんなやつの奢りに使うなんてなおさらだ。
「もう外に用が無いから上坂の家行っていいか?」
そういえばこいつを家に居候させる話をしたんだった。
「まだ昼で帰るのは一日がもったいない気はするけど僕も用がないし帰るか」
意見が一致したところで帰ることにする。
家に帰るまでの道でふと、さっきの会話の内容を思い出す。
「ちょっと気になったんだけど、さっきのこの姿でいるのは仕事をしていないときって言ってたよな。あれってどういう意味?別で服でも持ってるのか?」
しかし、彼女を見る限り服などの荷物を持っている風には見えない。
「ああ?そんなこと言ったけな」
少し恍ける。
「いいから話してくれよ。気になるじゃねえかよ」
僕の心の中で好奇心が高まる。
「まあなんだ、簡単に説明すれば今のこの姿はフェイクってわけよ。別の姿が腐るほどあるってことさ」
「フェイク?それじゃあ君の本当の姿は?」
「さあね。中身はおっさんかもしれないし美少女かもしれない。それはお前の想像に任せるよ」
「なぜ他の姿に化ける必要があるんだ?」
「そりゃ、仕事のために決まってんだろ。まあ、仕事っていうのは死ぬ人間の査察だ。無論、査察に当たっては今の格好ではTPOが合わない。
例えば、会社に勤めているサラリーマンの査察をするならば女子高生のような関係のない恰好はできない。つまり私がターゲットに近い恰好をして観察するわけよ。もちろん本人と話したりもするけどね」
なんとなく話が分かった。でもこの話を聞くにつれてこいつの本性が分からなくなってきて謎が深まるばかりだ。
「お前もなかなか苦労してるんだな」
相槌を打つかのように言う
話をしていると家に着く。
「着いたよ」
「わかってる。前にも来たことくらいあるからな」
玄関のドアに鍵を入れ開ける。
同居人がいないせいか静まり返ったこの家。空いている部屋。カーテンで暗くなっているリビング。インスタント食品で埋まっているゴミ箱。毎度ながら少し悲しくなる家だ。
「お前こんなとこで生活してんのかよ」
「仕方ねぇだろ。僕は男だし家事なんてしたことないから精々部屋の片付けくらいしかできねぇんだよ」
西谷は自分の家のようにソファに座りくつろぐ。
「まあ住ませてもらうなら少しは家事手伝うよ」
失礼ながらこいつが家事をできるとは思えない。火を使わせれば火事になりかねないかもしれない。
「手伝おうとしてくれるのはありがたいが気持ちだけ受け取っておくよ」
「なんだよ~さては信用してないな」
当たり前だ。
まあそんなわけでしばらくこいつを家に居候させることにした。
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