第12話 他愛もない一日
僕は死神、
「おお、ここがゲーセンというやつか」
「ゲーセンすら来たことないのかよ」
呆れながら話す。
死神がまず向かったところはクレーンゲームだ。
「この猫のぬいぐるみかわいいな。どうしたらもらえるんだ?」
「そのクレーンで景品つかんで手前の穴に落とせば貰える」
なんでこんな当たり前のことを説明しなければならないんだ。というか死神のくせして猫のぬいぐるみなんかに興味あるのか。
100円を入れ、クレーンを動かす。最初はもちろん落ちない。
続けてもう一回、100円を投入する。しかしぬいぐるみは上がるもののすぐに落ちてしまい、穴に落とすことができない。熱中し、数回目の挑戦というところで
「ちょっと代わって」
見ているとじれったくて、つい僕がプレイしてしまう。
僕はぬいぐるみについているタグを狙い落とすことを試みる。
すると作戦はうまくいき一発でゲットすることができた。
「ほら、やるよ」
取れた景品を死神に渡す。
「あ、ありがと」
浮かばない表情で受け取る。もしかして自分で取りたかったのかな。
でも取れるまで待っていると時間がかかりすぎる。
他のゲームを勧めることにしよう。
「他は何がしたいんだ?」
「じゃあ、あれやってみたい」
指した先はプリクラ。
「え、あれやるの?」
「何かまずいのか?」
まずいも何もプリクラなんて撮ったことないし、何より恥ずかしい。
撮るのが嫌なので逃げようとするが死神に捕まり、台まで連行される。
「別にいいじゃん、やってみようよ~」
強引に連れ込まれ写真を何枚か撮る。撮った写真が印刷され、取り出し口に出てくる。
「うわ、なんだこれお前ずっと真顔じゃん」
「当たり前だ。恥ずかしくてこんなもの撮れるか」
これだからプリクラは嫌なんだ。女子高生はこんなものを撮って何が楽しいんだ。僕には到底理解できないね。
もう死神もゲーセンに飽いてきた様子だったので出る。
「次はどこか行きたい場所あるの?」
「いや、今日はもういい、公園で休もうよ」
死神に連れられ公園のベンチに座る。
特に話す話題がない。気まずい。ベタな話だが憑依させられた経緯について聞いてみる。
「西谷は何故僕をこの身体、波崎桜に変えたんだ?この子とは何か関係があったの?」
「桜とは友達...みたいなものかな。事故で死にかけたんだか桜は生き残った。
意識以外は」
「それで、空いたこの身体だけ僕に与え生かしてるわけね。でもなんで彼女なんだ?他に訳があるんじゃないのか?」
死神は表情を暗くし、あまり言いたげではなさそうな顔をしながら話す。
「桜は本来死ぬべき人間だった。でも桜とは仲が良くてね、殺すのが惜しくて生かしてしまった。それは死神にとって罪深いことさ」
「仲が良かった?死神と人間なんて普通会うもんでもないだろ」
僕は疑問に思い、訊いてみる。
「死神はまず死ぬ人間を査察するんだ。それから本当に死ぬべき人間かを
見極める。本人に接触し、どんなやつかを調べたりするわけよ。でも今まで、死ぬほどこんな仕事してるけど桜だけはちょっと違った。元気なのに孤独で、悲しい人間だった。他にももっと辛い人生を送っている人間はいる。それでも桜だけは他とは違った。そんな淋しい人間と見てるとつい手を差し伸べたくなるというか、そうした結果、桜と仲良くなってしまってな」
「それで殺すことができなかったのか。でも意識が死んでるんじゃあ、
生かした意味がないじゃないか」
「私は桜を生き返らせる」
「どうやって?」
「今生き返らせてる途中なんだ。でもそれには時間がかかる。それと犠牲も
必要だ」
犠牲?こいつは何をそこまで波崎さんに拘っているのだろう。
「聞いていいかわからないけどその犠牲って?」
「人間の命とでも思っておけばいいんじゃない?」
「なんだよその曖昧な答えは」
「うるさい、あまり話に深入りするな」
死神は怒ったのか、ベンチから立ち上がり、ゲーセンで取れた猫のぬいぐるみを抱えながら歩き出す。
「おい、どこ行くんだよ」
「今日はもう帰る、付き合ってくれたありがとな」
そう一言言ってまたいなくなる。
「なんなんだよ...」
愚痴をこぼし、僕も家に帰る。
後味の悪い別れ方だった。
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