第9話 夏日

僕が死んで、女になってから約三か月、いつの間にか夏休み前になっていた。せみも鳴きはじめ、制服も夏服になった。

期末考査を終え、勉強から解放されたクラスのみんなは少し早くから夏休みムードだ。

「夏休みはどうする?」

こんな言葉が教室中で飛び交う。

「海でも行かねぇ?」

チャラい男子が提案する。

「あ~それいいねぇ~」

それに乗っかるバカ女。

海?高校生同士で?バカじゃねぇの?精々、市民プールでその沸いてる頭を冷やしてきやがれ。

リア充は嫌いだ。現実を見てるのかこいつらは。

心の中でディスる。すると僕の方にも誘いが来る。

「波崎さんもどう?海行こうよ」

波崎さんはクラスの中で美人だしチャラい男子から誘いがかかるのも無理ない。

その答えはもちろんNOだ。

「ごめん、私夏休みはちょっと課題とか進路のこともあるしパスね」

もちろん嘘八百だ。

「そうか~波崎さんマジメだかんな~やっぱだめだったか」

こんな頭が緩いやつと海なんて行ってたまるか。

僕は僕なりの夏休みがあるんだ。

テストが終わったので授業も午前で終わり、僕は下校をする。

明日で夏休み前の学校も終わりだ。

そういえばこの前、妹に教えてもらった僕の墓にはまだ行ってない。

今日の午後も特にすることがないので自分の墓を参ることにした。変な感じだ。

死んだ人間が自分の墓なんて見ることができるものなのだろうか。そんな光景は普通じゃありえないと思ったので墓参りに行くことにした。

墓に着いた。『上坂家』、僕の墓だ。近くのスーパーで買った仏花を供え、蝋燭ろうそくに火をともし線香に火を点ける。墓の前に立ち、手を合わせ拝む。

用が済んだので帰る。全くの他人が人様の墓を参って、身内に見られたらややこしくなるので早足で墓地を出ようとする。

すると目の前に女の子が立ちふさがる。この子も墓参りだろうか。

まあ僕には関係ない、さっさと帰ろうと女の子の肩を過ぎようとしたときだった。

君久しぶり。」

今の姿、波崎桜ではなく、本名の上坂祐で名前を呼ばれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る