第10話 残り時間
すれ違った女の子に本名で名前を呼ばれる。
僕はこの姿で上坂祐ということを言ったことはない。なのにこの人は僕の正体を知っている。
「人違いなんじゃないですか?私、波崎ですよ」
相手を試すつもりで否定をしてみる。
「そんなウソつかなくったって私にはわかるんだよ?」
この発言とともに冷や汗が出てくる。
一体何なんだこの女。
否定しても無駄だ、そう思った僕は諦め、彼女について聞いてみる。
「...どうして僕が上坂ってことがわかったんですか?」
「そりゃもちろん、私が君を女に変えた本人だからね」
混乱する。え?女に変えた?こいつが?僕を?
しばらくこいつの言っている意味が分からなかった。
「どうやって僕を女に変えたんだ?」
「それは簡単には答えられない質問だね、まあ言っておくと私は死神」
余計混乱する。一体どうなっているんだ。
「君、生きてる頃に人を車から守ろうとして死んだろ」
それは覚えている。僕の死因だからな。
「君が事故から守ったの私なんだよね。つまり私は君に助けられたのよ」
「そんな僕に助けられた死神が僕に何の用なわけ?」
「結論から言うと私は車で轢かれた程度では死なない、つまり君の命は無駄になったわけ」
嘘だろ…命張って守った人が死神な上に死なないなんて。守るために捨てた命はなんだったのだろう。
「まあ命懸けてまで助けた人が死神で、しかも死にませんじゃ、君が犬死をしただけで可哀想だろ?報われないだろ?だからこの波崎桜の身体に憑依させた。もう少し生きてもらいたくてね」
僕の死はなんだったのだろうか。わからなくなってくる。いや、そのお詫び的な意味で生き返らせてくれたんだとは思うけど。
「いろいろ疑問はあるかもしれないけどここから本題、君がこの姿で生きるのも時間制限があってね、それについて話に来たわけよ」
この死神のマシンガントークは続く。
「いくら死の神といえど、人を勝手に生き返らせたらまずいのよ。人間界の均衡が保たれないだろ?だから君には近々死んでもらうよ」
おお!死神らしい言葉だ。って違う、死んでもらう?殺されるのかこの死神に。
「近々っていうけどいつ死ぬんだ?」
「んーそうだなぁいつ死にたい?」
こんなに軽くいつ死ぬかなんて聞かれてもこっちが困る。というか生かせておいたら均衡が釣り合わないんじゃないのかよ。
「別に僕は一度死んだ人間だ、いつ死んでもいい。なんなら今死んだって構わないぜ」
強気に出てかっこつける。
「え~今から殺すの?それはちょっとだるいなぁ。そうだ夏休み中に死ぬってことでいいんじゃね?」
なんだこのやる気の無さ。仕事しろ。
「結局このまま夏休みまでは生きてていいんだな?」
「ああいいよ。まあ、休みが終わる頃には約束通り死んでもらうけど」
なんだか死ぬことへの恐怖が無くなる。一度死んでるからかな。
話をしていると日は暮れて、空は夜空へと変わりつつあった。
「要件はこれで終わり?今日はもう暗いから帰らしてもらうよ」
僕は再び墓地から出ようとする。するとまた引き止められる。
「待って、夏休みなら暇だろ?私も今日から夏休みでな、良かったら休みの間遊ぼうぜ」
死神って意外とホワイト企業なのか。
「じゃ、これ私の携帯の番号とIDね。追加しといてね」
この死神の名前は
「用があって呼び出すかもだからよろしくね~」
そう言って死神はどこかに消えてしまった。
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