第四十一章 森石、合流する
ロイドは首をねじ切った金髪のサイキックの男の遺体を
「ロイドさん、どこに飛ばしたんですか?」
手塚治子が恐る恐る尋ねると、ロイドはそのガラス玉のような目を彼女に向けて、
「知らん方がいい」
それだけ言うと、また空を見上げた。
「次が来るぞ」
ロイドの声にハッとした片橋留美子が、
「今度は私が相手をします」
ロイドは留美子を見やった。留美子はロイドにダメ出しをされると思ったが、
「任せた。俺はちょっと出かける」
そう言うや否や、瞬間移動をした。留美子は治子を見て、
「行きます」
そう言い置くと、
「来たわよ、留美子」
治子が
「はい」
留美子は治子が指し示してくれた方角に目を向けた。そこには、まだ米粒くらいの大きさにしか見えない人間らしき者が迫って来るのが見えた。
「敵はサイコキネシスを使っている様子はないわ。どうやって飛行しているのかしら?」
治子は右手の人差し指で楕円形の黒縁眼鏡をクイッと上げて呟いた。留美子の顔に焦りの色が浮かんで来た。
(物理系のサイキックじゃないと、ちょっと大変かも……)
後ろ向きな考えをしてしまいそうな自分を戒め、留美子は接近して来る敵を凝視した。
「女の子?」
治子が言った。留美子はギョッとして治子を見た。治子も留美子を見て、
「間違いないわ。相手は小学生の女の子よ。ロイドさんが貴女に任せた理由は、それかもね」
留美子は顔を引きつらせて、
「そ、そうですか」
そんなやり取りをしているうちに、敵の女の子はその姿形をはっきりと確認できる大きさにまで近づいていた。
「恐らくだけど、彼女はあのラテン男と同じ系統のサイキックみたいよ。気をつけてね、留美子」
ラテン男とは、敵だったカルロスと名乗った異能者の事だ。彼は、物質の温度を操れるサイキックだった。
(あの無駄に陽気だった男と同じ系統?)
留美子はもう一度飛行して来る相手を見た。それはどう見ても小学校低学年の女児だった。ピンクのワンピースを着ており、ローズレッドの靴を履いている。どうやらハーフらしく、髪は金色、目は青だ。先程のハリネズミ髪の男と違い、染めている訳ではない。
「何だ、先に行ったお兄さんがあっさりやられたらしいから、どれほど凄い異能者がいると思ったら、子供じゃないの」
その小学生はいきなり毒を吐いた。留美子と治子は思わず顔を見合わせてしまった。
「子供って、貴女だって子供でしょ!」
留美子がムッとして言い返すと、その小学生は大声で笑いながら着地し、
「ジョークよ、ジョーク。そのくらい、わかりなさいよ、おバカさん」
「お、おバカさん?」
あまりにも不遜な態度のその小学生に温厚な留美子も切れそうになった。
「名前を教えてくれるかな、お嬢さん?」
治子が冷静に質問する。すると小学生は治子を見て目を細め、
「教えないよ、お姉さん。教えたら、そこから私の深層心理に入り込むつもりでしょ? そんな見え透いた罠にかかる程、私も愚かじゃないわ」
治子は思わず舌打ちした。
(見抜かれているわ。この子、本当に小学生なの?)
治子は彼女に対していろいろ仕掛けているのだが、表からわかる情報以外、全く読み取れないで、驚愕していた。
(もしかして、天馬翔子と同じ力?)
かつて戦った二代前の理事長である翔子のように無関係な人間を操る
「違うって、お姉さん。私自身、紛れもなくサイキックよ。但し、見た目より年は上だけどね」
治子は自分の思っている事を覗かれていた事に衝撃を受けた。
(
彼女の額に汗が滲む。
(これはさっきのチャラ男とは違うわね。強敵だわ)
留美子はそんな治子の葛藤を知らずに、
「だったら、遠慮は要らないわね!」
いきなりサイコキネシスを発動し、小学生に見える女に波動を飛ばした。すると女はクスリと笑い、
「やっぱりおバカさんね。そんな単純な攻撃が私に当たる訳ないでしょ?」
そう言うと、女はスーッと飛翔し、遥か上空に行ってしまった。
「バカにしてェッ!」
留美子は波動を操り、女に向かわせた。女は留美子を哀れむような目で見て、
「燃えちゃいなさい」
次の瞬間、留美子が炎に包まれた。
「留美子!」
治子が絶叫した。女は留美子の放った波動を難なくかわして、
「はい、一丁上がりね」
嬉しそうに笑った。ところが、
「はああ!」
留美子はサイコキネシスの波動で炎を吹き飛ばし、ほんの少しの火傷だけですんでいた。
「一度見た能力にはすぐに対応できるのが、異能者として生き残る一番必要な事なのよ、おバカさん」
留美子はフッと笑って女に言い返した。その言葉は、かつて留美子が天馬翔子に教わったものだった。
「くう!」
女は歯軋りした。
「ならば!」
次に彼女は留美子の足元のアスファルトを加熱した。
「無駄よ!」
留美子は加熱されたアスファルトをサイコキネシスで剥がし、女に向けて飛ばした。
「おのれえ!」
女は細かく分かれて飛んで来る破片を苛つきながらかわし、
「だったら、これならどう!?」
今度は留美子の足元から身体の周囲を一瞬にして冷却した。留美子は氷に閉じ込められたが、
「二番煎じよ!」
そう叫ぶと、サイコキネシスで粉微塵にしてしまった。すると女の顔つきが変わった。眉間に皺が寄り、どうやら年相応の顔になったようだ。
「ならば、あんたには防御のしようがない力でいくわ!」
女は
「くう!」
留美子はなす術がなく、地面に膝を着いてしまった。
「留美子!」
治子が駆け寄ろうとしたが、
「あんたもよ!」
同じくサイコメトリーの力で脳を攻撃された。
「ううう……」
治子はその場に
「死んじゃいなよ!」
女はけたたましく笑い、叫んだ。その時、不意に彼女の力が霧のように消えてしまった。
「何!?」
女は何が起こったのかわからず、目を見開いて周囲を見渡した。
「遅くなったな、留美子ちゃん、治子ちゃん」
そこに現れたのは、森石章太郎と天翔学園理事長の慈照寺香苗だった。
「お前は、
女はすでに小学生のような風貌を完全に失い、鬼の形相で森石を見た。森石は彼女を見上げて、
「そうだよ、見た目は小学生のおばさん。気持ち悪いから、年相応の格好をしなよ」
女はその言葉が
「やかましい! 貴様、一体何をしたんだ!?」
森石はニヤリとして、
「俺の力をお前が留美子ちゃんと治子ちゃんに放っている力にぶつけて、消したのさ。どうだ、参ったか?」
得意満面の顔で言ったので、助けてもらったにも関わらず、留美子と治子は森石を白い目で見てしまった。
一方、ジェームズ・オニールとロイドは、瞬間移動を小刻みに繰り返しながら、首相官邸に接近していた。
「この行動は私一人で十分だ。君はかすみさんのそばにいてやれ」
ジェームズが立ち止まって言うと、ロイドは、
「一人でメディアナの首を獲りに行くなど、正気とは思えないぞ、ジェームズ。一人より二人の方がいいだろう?」
ジェームズは苦笑いして、
「好きにしてくれ。骨は拾ってやれないぞ」
ロイドはフロックコートの襟を直して、
「それはお互い様だ」
二人は再び瞬間移動を始めた。
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