第三十九章 最強の異能者
ロイドの
(まさか、見捨てられたのか!?)
波に揉まれ、海水が傷口に沁みるのに
(俺が移動できないなんて、それ以外考えられない……)
意識が遠のきそうになったマイクはそれでももう一度瞬間移動してそこから脱出しようとした。だが、ダメだった。彼はすでにメディアナの力に支配されていた。移動できたのはほんの数メートルで、同じく海の上だった。
「ぐはあ!」
マイクは血の気が引くのを感じていた。海水が容赦なく口の中に飛び込んで来る、そして、傷口を塩分が浸蝕し、激痛が走る。
「ふあ!」
ふと気づくと、かつて溺死させた忠治こと国定修が足を引っ張っているのが見えた。
(バカな! 奴は死んだはず……。一体これは?)
何が起こっているのかわからないマイクは国定の幻覚に海中に引きずり込まれ、苦しみながら窒息死した。それは、全ての異能に関して最高ランクを極めているメディアナだからこそできるものであった。当然の事ながら、国定は存在していない。そして、マイクを海中に引きずり込んだのは、自分自身なのだ。メディアナの
「肩ならしにもならんな」
ソファに寛いでいるメディアナはフッと笑った。そしてサイコキネシスで机の上のインターフォンを動かし、
「出かけるぞ。支度をしろ」
そう告げると、ソファから立ち上がり、瞬間移動をした。メディアナがいる部屋は、並みの
ジェームズ・オニールはメディアナが動いたのを感じた。彼は自分のマンションを離れ、かすみの家の前に瞬間移動した。
(メディアナめ、かすみさんが覚醒をする前にけりをつけるつもりか?)
ジェームズは歯軋りした。その時、玄関のドアが開き、かすみと手塚治子と片橋留美子が出て来た。ジェームズはハッとしたが、目を背ける事なく、彼女達を見た。治子はジェームズを見て一瞬足を竦ませたが、かすみに背中を押されて、門扉へと続く階段を降りた。かすみは留美子と目配せし合って、それに続く。
「治子……」
ジェームズはそれだけ言うと、言葉に詰まってしまった。すると治子は、
「もういいの、ジェームズ。貴方には貴方の事情があった。そして、今はそれを言い合っている場合ではない。そうでしょ?」
クイッと右手の人差し指で楕円形の黒縁眼鏡を押し上げて言った。
「ハルコの言う通りだ。お前がここに来たのは、いよいよ外道が直接動き出したという事なのだろう?」
最後に出て来たロイドがそのガラス玉のような目でジェームズを見た。
「そうだな」
ジェームズは苦笑いをした。そして、
「ロイドの言う通り、メディアナが直接動き出した。奴は船を離れて、日本に上陸したのまではわかっているが、その先の足取りが掴めていない」
ジェームズの言葉にかすみ達はギョッとした。ロイドは目を細めて、
「慎重だな。やはり、カスミが怖いのか?」
ジェームズはロイドを見て、
「それもある。だが、奴は直接的な攻撃は好まない。何かを企んでいる。こちらが困るような卑怯な手段をな」
ロイドは目を細めた。かすみ達は互いに顔を見合わせた。
ジェームズの指摘どおり、アルカナ・メディアナは卑怯な手を打とうとしていた。彼はいきなり首相官邸に現れ、一瞬にして警備の警察官全員をサイコキネシスで八つ裂きにし、首相以下、閣議中の閣僚全員を人質にしたのだ。
「私の望みは只一つ。ある人物の身柄の引き渡しだ。どいつも、日本にとって何もメリットのない連中だ。その五人を引き渡してくれれば、ここにいるご一同の命は保証しよう」
メディアナは交渉に当たった警察庁長官に告げた。いや、それは命令にも近い威圧感を持っていた。メディアナは
「期限は今からちょうど二十四時間。それ以上かかった場合は、
メディアナの要求はあまりにも一方的で、承服しかねるものであったが、彼が一体どうやって閣議室に入ったのかもわからないし、持っていた写真をどうやって自分達の目の前や警察庁長官に送ったのかわからない以上、彼が得体の知れない存在なのは理解できた。しかも、メディアナのテロリストとしての名は世界中に轟いているので、尚更である。首相達は円卓に着いたまま、身動きすらできない状態でいた。
「賢明な皆さんであれば、私がどれほど優しい男か、おわかりいただけましょうな? さあ、早く関係各所に連絡し、行動を開始させなさい。時間はそう長くはないですからね」
メディアナの言葉により、まるで蜘蛛の子を散らすように閣僚達が動き出した。中でも忙しなく活動を開始したのは、防衛大臣と法務大臣、国土交通大臣、そして総務大臣だった。メディアナはそれらの動きをニヤリとして見つめていた。
「やはり……」
ジェームズとロイド、そして治子とかすみはメディアナの行動を政府関係者の動きで知った。
「何が起こっているんですか?」
精神的な能力がない留美子が治子に尋ねた。治子は留美子を見て、
「メディアナが首相官邸を占拠して、私達を探すように日本政府に命令したのよ」
「ええ?」
留美子は目を見開いた。
「考えたな。無関係な人間を使って俺達を拘束するつもりか」
ロイドは無表情に言った。かすみはハッとして、
「俺には関係ないとか言わないでよね、ロイド!」
念を押すように言うと、ロイドはかすみに背を向けて、
「そんなつまらん事を言っている暇があるなら、自分の力を早く覚醒させろ。お前が目覚めなければ、俺達は全滅する」
かすみはビクッとした。ジェームズは頷き、
「メディアナは二十四時間の期限を与えたようです。かすみさん、その間に試してみましょうか」
かすみはジェームズを見て、
「はい」
大きく頷き、家の中に戻った。治子と留美子が続き、ジェームズがロイドに押されるようにして中に入った。
警視庁公安部の森石章太郎は、メディアナが首相官邸を占拠したのを知り、驚愕していた。
(おいおい、奴もサイキックなのかよ? だったらどうして今まで、自分では動かずにいたんだ?)
素朴な疑問を持った森石だったが、
「お前が彼女達の居場所を知っているのは誰にも言っていない。早く出かけろ、森石。私にも庇い切れなくなるからな」
公安部長の暁嘉隆が言うと、森石は苦笑いして、
「了解しました、部長。新堂みずほの事、よろしくお願いします」
恋人であるみずほの事を頼んだ。暁は、
「わかった」
大きく頷いてみせた。森石は敬礼すると、公安部を出た。
(いよいよ親玉登場か。それにしても、まさか奴までサイキックだったとはな)
森石の背中は冷たい汗で濡れていた。その時、彼の携帯が鳴った。相手は天翔学園の理事長である慈照寺香苗だった。
「どうしましたか、香苗さん?」
森石がごく冷静に切り出すと、
「どうしましたかじゃないでしょ、森石君! 道明寺さん達が大変な事になっているのよ!」
香苗はテレビのニュースで首相官邸が占拠された事とかすみ達の身柄引き渡しをメディアナがしたのを知ったようだ。
「今、そちらに行きますよ」
森石はそう言って通話を切り、廊下を走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます