第三章 ファーストコンタクト
森石章太郎とロイドを乗せた車が天翔学園高等部に向かっている頃、敵も動いていた。
「厄介な二人が接近中だ」
一人が言った。もう一人が、
「ロイドと森石ですね。心配要りません。そちらはすでにリーダーが捕捉していますよ、クロノス」
クロノスと呼ばれた者はニヤリとして、
「ガイアがか? 奴が自ら動くとはな。そうは思わんか、忠治?」
「ええ。私も驚きましたよ」
忠治と呼ばれた者は肩を竦めた。クロノスは忠治に背中を向けて、
「では、持ち場に戻る。お前も戻れ」
「はい」
忠治はクロノスに頭を下げ、反対方向へと歩き出した。
かすみ達は授業中であったが、彼女は森石とロイドが近づいて来るのを感じていた。
(ロイドは意識的に接近を知らせて来ている。敵に対する挑発行為かしら?)
いつも過激な戦い方をするロイドであるから、かすみはそれが心配だった。
(敵を挑発し過ぎると、思ってもみない
かすみはロイドと森石の身を案じていた。
(かすみちゃん、また怖い顔になってる。何か起こるんだろうか?)
かすみの表情の変化に気づいた風間勇太は不安そうに彼女の顔を見て、もしかすると明日からは見られないかも知れない太腿を見た。かすみは気づいていないが、勇太も相当なスケベである。只、親友の横山照光のスケベが群を抜いているので、目立たないだけなのだ。
そのロイドと森石が乗る車は、天翔学園高等部から数百メートルのところまで来ていた。
「む?」
ロイドが閉じていた目を開いた。森石は歩行者を確認しながら路地を左折し、
「どうした? 動きがあったか?」
「何者かが俺の心の中を覗こうとした。お前も覗かれそうになっていたぞ」
ロイドは辺りを警戒するように視線を動かした。森石はピクンとして、
「覗かれちまったのか?」
「いや。そこまで強く仕掛けて来た訳ではない。俺のガードが堅いのを理解したのか、すぐに
ロイドはそう言いながらも眉間に皺を寄せて警戒を解いていない。
「何!?」
森石は前方に突然現れた直径一メートルはあろうかという火の玉を見つけ、仰天した。
「
ロイドは慌てた様子もなく呟いた。
「おい、こっちに近づいて来ているぞ」
森石は付近に人も車もいないのを確認してから停車した。火の玉は確実に二人に近づいて来ていた。
「何のつもりだ?」
ロイドは右手を前に突き出し、火の玉を凝視した。次の瞬間、火の玉はロイドの
「次が来たぞ」
ロイドが言う。
「え?」
ふと外を見ると、数十メートル先の角から、どこを見ているのかわからない目つきの買い物帰りの主婦、 散歩の途中の老人、交通誘導をしていたはずの警備員がふらふらと歩いて来るのが見えた。
「おいおい……」
森石は顔を引きつらせた。明らかに何者かに操られているのがわかるからだ。
「排除するぞ」
ロイドが助手席のドアを開いて外に出た。
「おい、無茶な事はしないでくれよ。後始末が大変なんだから」
森石はロイドの容赦のない攻撃を知っているので、慌てて車から降りた。
「あああ!」
主婦はレジ袋から大根を取り出して振り上げ、老人は突いていた杖を振り上げ、警備員は誘導棒を振り上げて襲いかかって来た。
「はっ!」
ロイドは三人を次々に
「また違う攻撃か?」
ロイドは周囲を探り始めた。森石には能動的な能力はないが、辺りを見渡した。
「飛べ!」
ロイドはいきなり森石を突き飛ばし、自分も横っ飛びをした。次の瞬間、二人が立っていた場所にタクシーが落ちて来た。タクシーの運転手は無事だったが、目を白黒させている。何が起こったのか理解できていないのだ。
(アポーツ、か……)
ロイドは気づいていた。今までの攻撃は全て同じ能力者によるものであると。
(
敵の能力の高さに不覚にも震えてしまいそうになった自分に気づく。
「な、何だ?」
森石はタクシーに気づいて目を見開いた。
「退いた?」
ロイドは拍子抜したように呟いた。
(俺達を試しただけなのか? それ程余裕があるというのか?)
次にバカにされたのがわかり、怒りが込み上げて来た。
「敵は?」
森石は周囲を警戒しながらロイドに近づいた。ロイドは森石を見て、
「いなくなった。どうやら、試されたようだ」
「試された?」
森石は取り出そうとしていた拳銃から右手を放し、ロイドを見た。
「今の接触で、相手は四つの力を見せた。やはり、ショウコやコフジ以上の能力者が来ているようだ」
森石の背中に冷たい汗が流れ落ちた。
「そんな凄い奴だったのか……」
ロイドは車に戻りながら、
「急ごう。カスミが危ない」
すると森石はニヤリとして、
「何だ、やっぱりムチムチが好きなのか?」
ロイドはガラス玉のような目を森石に向けて、
「貴様と一緒にするな」
そう言い放つと、助手席に乗った。
(瞬間移動できるんだから、勝手に行けばいいのに)
森石は肩を竦めて運転席に戻った。
かすみはちょうど授業を終えたところで、ロイドと森石の身に起こった事を感じ取っていた。
(凄い……。天馬翔子や小藤弘より上だわ)
かすみも背中に汗を掻いていた。
「ハーイ、皆サン、席二着イテグタサイ」
茶髪で青い目の白人男性が教室に入って来た。途端に女子達がざわつき始める。
「ハロー、エヴリバディ」
白人男性は教壇に立つと爽やかな笑顔で挨拶した。
「カッコいいなあ、ワトソン先生」
女子の一人がウットリとした顔で呟いた。かすみ達は一斉に立ち上がり、挨拶を返した。
「ハロー、ミスター・ワトソン」
二十代後半くらいのすらりとした長身。しかも、甘いマスク。女子達が騒ぐのも仕方がない。天翔学園高等部には外国人講師が五人いる。その中でもマイク・ワトソン講師は女子達に絶大な人気がある。
「どうして女の先生はいないんだよ」
男子の一人がボソッと呟いた。五人いる講師は全て男なのだ。
「デハ、前回ノ続キデス。ページフォーティセブン……」
ワトソンはニコニコしながら教科書を開いた。嬉しそうに教科書を開く女子達を見て、男子達の幾人かが舌打ちをする。
(ロイドと森石さん、ここまで来られるかしら?)
かすみは授業どころではなくなっていた。
「ミス道明寺。読ンデグタサイ」
ぼんやりしていたせいか、当てられてしまった。それを羨ましがる女子がいる。かすみはハッとして立ち上がり、教科書を持つと読み始めた。
日本の領海ギリギリの公海上に豪華客船が
「それで、どうだった?」
船の中央にある特別製の部屋の中で、クーフィーヤ(頭に被る装身具)を身に着けた浅黒い肌に白い髪と豊かな口髭を伸ばした細身の老年の男性が、大きなソファに寛ぎ、国際電話にも使える携帯電話で話していた。彼こそ、国際テロリストのアルカナ・メディアナである。
「大した事はありません。私が
相手が応えた。メディアナは眉をひそめ、
「だが、カスミ・ドウミョウジは得体の知れない力を使うと聞いた。くれぐれも油断せぬようにな」
「もちろんです。ご安心を。我らはメディアナ様の親衛隊です。ショウコ・テンマやヒロシ・コフジのようなヘマはしません」
相手は落ち着いた声で応じた。メディアナは目を細めて、
「頼んだぞ、ガイア。私の信頼を裏切らんでくれよ」
「はい」
メディアナは通話を終え、近くに控えていたSPに携帯を渡した。
(カスミ……。その力、何とか手に入れたいものだ)
メディアナはソファに身を沈め、目を瞑った。
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