クラスメイト
たなちゅう
プロローグ 総会話時間《プレイタイム》
一言も話さないまま一ヶ月が経った。
「市村くんおはよう」
正確には毎日あいさつだけを繰り返している。
私は最後列の席に座ると、隣に座る友人と「今日も眠いね~」などと当たり障りのない会話を始めた。もし私が市村くんよりも教壇寄りの席だったら、あいさつを交わすことすらなかっただろう。
少しずつ学校の雰囲気にも慣れ始めていつの間にか「おなじみのメンバー」なんてものができあがる。後ろの席だと誰と誰が仲が良いのか分かりやすい。右手側には音楽とアイドルについて語る男子グループ。クラス内ではあまり冴えない。左には少しずつ勢力を拡大する女子グループ。
輪を重んじる女子にとっては死活問題だが、時としてその輪が私と市村くんとの距離を遠ざけた。
市村くんも同じバスケ部の友人が寄ってきて楽しそうに話している。身長が一八〇センチあるせいで、相手が子供みたいに見えた。釣った眉にぱっちりとした二重まぶたは威圧感もあるが、笑うと以外とあどけない。
肩幅の広い大きな背中は最前列に座るには目立つ。幸い授業中はたくましい背中を眺めることができた。
割と熱心に先生の話を聞くタイプ。授業が終わっても積極的に質問する。私と同じCクラスだから成績は月並みだが、私とは取り組む姿勢が違った。
おかげで中休みでも話しかける暇がない。元より用事が無いのだけれど。
「あ、ホームルーム始まるね」
朝のチャイムが鳴り響き、みんながこぞって席に着く。計ったように担任の先生が扉を開けて入ってきた。
「起立」
日直の女子生徒が号令をかける。
「おはようございまーす」
眠そうな声が響く中、市村くんは声を張ってあいさつする。後ろにいても太くて低い声が聞こえくると、大したことではないのに尊敬できた。
そうでなくても彼は『特別』な存在。私にとっても、この学校にとっても。
結局、朝の接触時間はわずか二秒。一日を通しても最初で最後の会話だった。
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