第4話 能力の見極め
「いつつつつ……どこだここは?」
気がついたら室内で俺は尻もちをついていた。
「あー、ここがエルドラドだ。お前が望んでいた……な」
「はあ? こんな埃っぽい所がか?」
「いや、それはここがそういう部屋だからだ。案内するからついてきてくれ」
***
「なあ……ここは一体エルドラドの何処なんだ? 倉庫らしき所から出たら内装がめっちゃ豪華になってるように感じるんだが……」
「あー、ここは宮殿だ。宮殿、城、城塞。分かるか?」
「宮殿くらい分かるさ。んーっとつまり……」
「そういう事。今からお前には宰相に会ってもらう事になる」
「宰相……宰相……。ごめん、宰相ってなんだ?」
「え? お前もしかして宰相の意味を知らねぇの……?」
「あーまぁ……今初めて聞いた単語なもんで……」
「まー簡単にいうと国で一番偉い人だな。そう思っておけば間違いはないぜ」
「うぃーす」
しばらく歩いたら、詰め所みたいな狭い部屋で待っておくように須藤に言われたので大人しく待っておくことにした。
「待ったかー?」
と5分ほどして須藤が扉を開けて入ってきた。60~70歳に見える老人を1人連れて。
「その人が……えーっと……宰相?」
「いんや、この人は宰相じゃねーぞ。見た目はそれっぽいがな」
「じゃあこの人は……」
「あー、儂はお主……えーっと嘉陽田蜻蛉の能力を見極めに来ただけじゃよ」
「ん? 俺の?」
「そうじゃよ。お主意外に嘉陽田蜻蛉という人物がここにおるのか?」
「いや……いませんけど……」
なんか調子狂うなこの人……。
「つーか、何で俺の名前を知ってるんですか? 須藤が教えたんです?」
「あー、そういや説明して無かったな。因みに俺は教えてねーぞ」
「説明?」
「簡単に言うと、お前の存在は数ヶ月前から知ってたんだわ」
「知ってた……?」
「そう、麻呂って云う占い師がいるんだけど、そいつが近々『嘉陽田蜻蛉って奴が別の世界で能力を発症するから死んでも連れてこい』って言ってたんだわ」
「俺を? 理由は?」
「なんか戦力になるとか役に立つとかゴチャゴチャ言ってて面倒くさかったから理由はそこまで詳しく聞いてない」
「はあ……そんなんでいいの?」
「いいんだよ。なんだかんだ言ってアイツの占いは結構正しいんだから。未来予知みたいなもんだし」
「ん゛ん゛ん!」
と突然、老人の咳払いが部屋に響く。
「儂はどうしてここに呼び出されたんじゃったか……?」
「あー、待たせて悪ぃな荒巻。早速やってくれ」
「やるって能力の見極めを?」
「それ以外に儂に何をしろと?」
「えーっと……」
駄目だ。考えても面白い冗談が思い浮かばない……。
「じゃあお願いします。俺は一体何をすればいいんです?」
「いや、別に右手か左手を出してリラックスしてくれればいい。そしたら後は儂が勝手にやるから」
「じゃあ……」
と俺は荒巻と呼ばれていた老人に対して右手を差し出す。
「んー……」
と言いながら荒巻は俺の手をもみほぐし始める。本当にそれは必要な行為なのだろうか。
「ふむ……」
「何か分かりましたか?」
「いや……ゴツゴツして大きい手をしておるなと思ってな」
「そんな事はどうでもいいでしょう! 俺の能力は一体何なんですか!?」
やっぱり、手をもみほぐす行為は関係無かったのね。
「あー、能力は雷を出す能力じゃな」
「雷……? 雷ってあのピカッ! ゴロゴロ……の」
「恐らくそうじゃろう。それとこれは麻呂から聞いたんじゃが……。お前さんは能力の強弱調整に凄く苦労するそうじゃ……」
「強弱調整?」
「そう、強弱調整。今のお前には出すか出さないかと云った二択しか出来ん状況なんじゃよ」
「え? でも試しに出してみた時はきちんと弱めに出せてましたよ。一回目は天井が吹き飛びましたけど……」
「試しに……?」
と言って荒巻は須藤を睨む。
「あー、2回目が弱かったのは魔欠になりかけてたからだな。だから最初よりパワーが落ちたんだ。今もう一度能力を使ったら、天井が吹き飛ぶ威力は無いかもしれないが、壁くらいなら1枚吹き飛ぶかもしれねぇな。……って荒巻悪かったってそんなに睨むなよ!」
「あれほど麻呂に能力使用前に連れてこいって言われておったのに……」
「その件に関しては悪かったって。俺だってそこは一応反省してるんだからさ。ま、無事に連れて来れたのでチャラって事で」
「で……強弱調整ってどうやればいいんですか? このままじゃこの能力はほぼ使い物にならないってことなんですよね?」
「そうじゃな……。儂の知り合いにそういう何かを飛ばす系の能力者がおるんじゃが……。彼は握りこぶしを握る強さで変えておるって言っておったな……」
「握る強さ……?」
「そうじゃな。なのでしばらくは利き手から能力を出すことを意識し、逆の手は握りしめることだけに意識を集中してみてはどうじゃ?」
「つまり、右手から雷を出し、左手を握り締めるようにしろと?」
「そうじゃな。それをお主の発動条件としておけば少しはやりやすくなるんじゃないかのぉ?」
「なるほど……」
「ま、ここからはお主の努力次第じゃろうて。さて、須藤。儂の仕事はこれだけかの?」
「あぁ、ありがとな荒巻。また用事があったら頼むわ!」
「年寄りなんじゃから少しはいたわってくれんかのぉ……」
と言って荒巻は部屋から出ていった。
***
「んで……須藤……少しいい?」
「いや、駄目だ。能力の試し打ちはまだ早い」
「いや、まだ何も言って無いんだけど……」
「その顔を見りゃあ分かるぜ。新しいおもちゃを手に入れた直後の子供みたいな目をしてたからな。だが今日一回魔欠で倒れてんだ。無理はするもんじゃ無い。それに……」
それに?
「もう一人、面会してもらいたい人がいる。最初に言った通り、宰相と会ってもらいたいんだわ」
「いや……それは覚えてるんだけど、いまいち俺が宰相と会う理由が分からないんだ。それについて説明してもらえるか?」
「知りたいか?」
「一応」
そんなにもったいぶって言うことなのか?
「簡単に言うと麻呂が言いふらした所為で、お前は期待の新人みたいな扱いになってるんだわ。もう城塞内の噂の的。そんなに噂の人物なら宰相も一度は会ってみたいって言い出したのが始まり」
「え? それって俺が超有名人って事?」
「そういう事。おっと恨むんなら俺じゃなくて麻呂を恨めよ」
「うっわー何かすっげープレッシャー感じて来た……」
「おう、頑張れよスーパールーキー。それとそろそろ時間だから移動するか」
***
「なあ……須藤? 俺の能力は雷を飛ばすってやつだったけど、須藤の能力って何なんだ?」
先程の部屋とは対象的な豪華な部屋に案内されたはいいが、まだ宰相が到着していなかった為、時間つぶしも兼ねて、俺は須藤に質問した。
「あ? 俺か? 言うわけ無いじゃん」
「え? 何で?」
「何でって……お前それ本気で言ってる?」
「本気だけど……何か問題が?」
「あのさぁ……。自分の能力を晒すって事は自分の切り札を晒すって事な訳。つまり、手の内がバレちゃうわけよ。なので自分の能力は極力他の人に晒さない。これ常識……って言ってもこの世界に来たばっかりだからしょうがないか……」
「つまり、俺の能力は須藤にバレてるって事だから……」
「ま、そういう事だ。俺に逆らおうなんて考えない事だな」
「うっわーすっげー何か損した気分……ってちょっと待って。もしかして俺が期待の新人として噂になってるって事はもしかして俺の能力もバレて……」
「あー、大丈夫だ。それはない。ただ、破壊系の能力者だって事は噂になってる」
「何だよ破壊系って……」
「いやお前天井とか破壊したじゃん。そういう区分けで破壊系」
「なるほどね……。っていっつも天井破壊してる訳じゃ無いし。練習して強弱調整出来るようになるから問題ないし。……ってそうだ。須藤の能力の区分けは何? 破壊系?」
「おっしっえっませーん」
「そこを何とか……」
「いやですー」
***
「おっと、宰相様のお出ましだぜ」
と須藤が言うと同時にコツッコツッといった特徴的な足音が室内にも聞こえてくる。
「む、すまん。遅くなった」
という台詞を、キィイという特徴的な音を立てる扉を開けて発したのは、明らかに平民では無い立派なドレスを着た黒髪の女性だった。
「あー……えー……須藤? この人が?」
「そうそう、この国の宰相。いわゆるトップの……」
「
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ふーむ……」
「あの……なんでそんなにジロジロと……」
「いや……普通だな、と思ってだな」
「普通?」
「いや……普通という言葉は忘れてくれ。かなり噂になってたから、アクが強い一癖も二癖もあるやつが来るのかと思ったら、案外普通で私が拍子抜けしただけだ」
「そうですか……」
「じゃあ須藤、私はこれから会談があるから、後の説明をよろしく頼む」
「え? もう行くんですか?」
「当たり前だ。私を誰だと思っているんだ?」
「へいへい、この国で一番偉いお人ですよー」
との返事を聞くか聞かないかのタイミングで沙緒さんは走りながら部屋を出ていった。
「あー、つーわけで……だ」
と須藤は部屋の端にある、豪勢な彫刻が掘られた椅子に腰掛ける。というより、この部屋……天井の灯りは色々なキラキラしたものがついているし、壁にも模様が隙間なく書かれている。
「ここってもしかして……王室?」
「あー、そうだよー」
「じゃあ、今須藤が座っているその椅子は?」
「ん? 玉座」
「いいのかよ、勝手に座って……」
「んー、別にいいんじゃ無い? 今本人居ないし。それにお前に説明するように頼まれたし」
「そうなの……か?」
「そうなの、そうなの。んじゃ、これ渡すね?」
と須藤は玉座に腰掛けたまま、手を伸ばして何かを俺に渡そうとしてくる。当然、玉座に腰掛ける為に部屋の端に移動したので、俺には全く届かない。なので俺は須藤の近くまで歩いていき、手に持っている何かを受け取った。
「これは……」
大きさは手のひらに乗る位の長方形。縦が大体150 mm横が70 mmと云った具合だろうか。厚さは大体3 mmと紙にしては厚い。
「お前の身分証明書みたいなもん。無くすなよ」
「身分証明書って……これが?」
「そ。正確には身分証明書だけじゃなくて部屋のカギになったり、財布代わりになったり、あと、最近だったら少ない文字のメッセージ……あー……手紙も送れるようになったとか言ってたな」
「こんなもので?」
「そそ、この国……って言っても普及したのはつい最近だから、まだ発展途上だけど、この国では基本的皆がその『カード』って奴を使って生活してる」
「はぁ……こんなものでねぇ……」
「今のお前にとっちゃあ信じられないかもしれないが、この国ではこれが常識なんだ。まー、その常識とかは明日からおいおい説明して行くとして、今日はもう休め」
「休め?」
「そそ。お前を連れてくる時、元の世界は夜だったろ? 外が明るいから睡魔なんて無くなってるかもしれないが、多分お前の前の世界の時刻だと、今深夜くらいだと思うからな。だから、帰って休んで明日に備えたほうがいい」
確かに睡魔は無いが、ここに連れて来られる前の世界の時刻は確かに夜だったな。もしかして起床してからもう20時間位は経ってるんじゃ無いか?
「いや、でも休むってどこで?」
「あー、すまんすまん。忘れてたわ。そういやお前の部屋を説明するのを忘れてたわ」
と言って、須藤は玉座から立ち上がった。
「ちょっとこの建物からは離れだけど、お前の部屋は準備してあるんだわ。今からそこに案内するな」
と言って、須藤は蝶番から異音を発する扉を開けて、王室を後にする。俺は当然彼についていくしか無い。
「おい、見ろよ。すっげーきれいな夕日だな」
と須藤は窓から差し込むオレンジ色の光を体中に受けながらそう発した。
「ほら、蜻蛉も見てみろよ」
と俺に外の景色を見るように伝える。
俺の目に飛び込んで来た景色は、夕焼けを背景にした普通の兵隊ではない一般人が、ただ楽しそうに歩いている風景だった。恐らく、須藤には見慣れた風景なのだろうが、俺にとってはその景色は凄く新鮮で……
「平和って……いいな」
俺は思わずぼそっと呟いた。
「だろ? 来てよかっただろ?」
と須藤は俺の脇腹を肘で突っつきながら聞いてくる。
「あぁ……よかった」
俺1人だけ平和な世界に来てしまった為、仲間の事を考えると少しだけ良心が痛むが、日頃の行いが良かったのだと思って割り切ろう。俺はそう、自分を納得させた。
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