第3話 移動
「いっつつつ……」
気がついたら一面砂漠の場所に投げ出されていた。
尻もちをついている俺とは対象に、エクストはきちんと両足で着地して辺りを見回していた。
「眩しいなぁ……」
と呑気に遠くを見ながら呟く須藤。俺の心配事など全く知らずに。
「あのさ……ここがお前の言ってたエルドラドなのか?」
辺り一面砂、砂、砂! 気温は暑いし、人の気配は俺と須藤以外全くしない。もしかして俺を騙したのか? と云う疑いを持つが、あの目は嘘を付いているような目では無かった。……と思う。
「いんや、ここはエルドラドじゃねーぞ」
と笑いながら答える須藤。じゃあ何でここに連れて来たんだ? と云う質問をする事を察してかエクストが先に答える。
「取り敢えず、エルドラドに来る前に一旦こっちの世界に来て貰ったんだわ。なんせ、今の技術じゃ一発でエルドラドに行けないからな」
ん? 世界? 須藤はエルドラドって国に俺を連れて行くとか言ってたような気がするが……世界……? 世界……!?
「世界? 今世界って言ったか!? 言ったよな!? 世界の移動って何だ!? つーか――」
「まぁまぁ、落ち着け落ち着け」
と俺の肩をポンポンと叩いてくる須藤。
「お前の気持ちはよく分かる。何にも知らない土地にたった一人で来たんだもんな。心細いよな。辛いよな。でも大丈夫だ。俺の言うことを聞いておけば――」
「いや、そうじゃなくて……」
俺は国を移動、要するに亡命するつもりだった訳だ。それなのに世界を移動って、移動って……意味が分からない。よく考えて見れば、黒い穴の中に飛び込むだけで国単位での移動できるなんて、俺の居た国ではありえない技術だった。その時は他の国は発展してるんだなーとか思ったが、よくよく考えれば、いや、よく考えなくてもおかしいのだ。そんな物が存在してみろ。確実に戦争は変わってるはずだ。前線なんて必要なく、敵国の中枢に黒い穴で移動して火をつける。それだけで敵の戦力を大幅に削れるはずだ。しかし、俺の知っている限りではそんな戦略を使われた事も無いし、使った事も無い。
「――おーい、ごめんて。そんな面倒くさそうな顔するなって。ちょっとからかっただけじゃねーか……」
少し考え込んでいたんだが、どうやらそれを怒ったとエクストは勘違いしたらしい。
「いや、それはいいんだ。それよりも世界の移動って何なんだ? どうやった? それについて教えて欲しい」
「分かった、分かった。それについては後で教える。それよりも……だ。立てるか? 魔欠の症状は少し楽になったか?」
魔欠? あぁ、言われて気が付いた。別に吐き気もしないし、動悸も無い。至って正常だった為、特に気にしていなかった。
「もう大丈夫だ。普通に動ける」
と俺はいつの間にか差し出されていた須藤の右手を握って立ち上がった。うん、立ち眩みも特に無いな。
「そうか、この辺りはどうやら魔素が薄いっぽいような気がしたから回復に時間が掛かるかと思ったが、只の杞憂だったっようだな」
それと、と須藤は一呼吸置いて話を続ける。
「もう一回移動するんだが、心の準備はいいか?」
「移動って……今度は何処へ?」
「そんな心配そうな顔をするなって、今度の目的地はちゃんとエルドラドだから。こんな砂だらけの場所じゃねぇから安心しろ」
と俺の心情を察してか、笑いながら言う須藤。
「いや、別に心配――」
とかしてる訳じゃないし。と云う強がりは、目の前に急に迫って来た暗闇に吸い込まれ、最後まで言い終える事は出来なかった。
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