第2話 逃走

 俺はここから逃げ出そうと、扉に手をかけようとした瞬間、けたたましいベルの音が鳴り響いた。どうやら先程、俺が屋根を壊した時に発せられた轟音を敵襲と勘違いしたらしい。よく見ると天井から少し煙が出てるし、そう見えてもしょうがないっちゃしょうがないが……。

 だがこのままぼーっとしていると、ここに人が集まり事情を聞かれて逃げられ無くなるのも事実。俺は2、3人と戦闘になるかもしれないと云う覚悟を決めて扉に手をかける。


「おい、そこのお前。今のはお前がやったのか?」

と、さっきまで誰も居なかった俺の部屋の後ろから、いきなり声をかけられた。

 少しびっくりしつつも急いで振り返る。そこには月明かりの影になっていてもはっきりと分かってしまう程の長い揉み上げを携えている男が立っていた。


「おい、もう一度聞くぞ。そこのお前、今のはお前がやったのか!?」

俺は黙って頷いた。本当は否定したかったのだが、あまりにも威圧的な態度だった為、男の姿が一瞬、訓練兵時代に俺にだけ特別メニューをプレゼントしてくれたトラウマ軍曹と重なってしまい、反射的に頷いてしまった。鬼軍曹の口癖「軍曹のいうことは絶対」がここに来てようやく発揮されてしまったわけだ。コイツが敵国のスパイかもしれないのに……。


「ほんとにお前がやったのか?」

と男は念を押すように一歩前に出て聞いてきた。


 一歩前に出てきてくれたおかげで、相手の顔と服装が月明かりでよく分かるようになった。歳は恐らく20代後半、服装は……この近辺ではあまりみない服装だ。ツヤツヤテカテカした黒色っぽい上着を羽織っているし、耳から金属っぽい材質で出来た球状の物がぶら下がっている。痛くないのだろうか……?


「おい! 聞いてんのか!」

と男が怒鳴り声を上げた。声量に驚いた俺はコクコクと二度頷いた。


「あーめんどくせーなぁ……なんで俺の時に限って、こういう事件が起こるんだよ……」

と男が小さな声で悠長にぼそぼそと呟いているが、もうサイレンがけたたましく鳴り響いてから数分は経っただろう。もうそろそろ誰かがここに駆け込んで来てもおかしくはない。


 俺は焦った。これじゃあ逃げられるものも逃げられなくなりそうだ。2人3人なら対人訓練で練習した為なんとかなりそうだが、4人を超えると正直きつい。この男もどこからやってきたとか、何で俺の部屋にいきなり入ってきたのか……と色々と気になる所はあるが、ここは逃走を優先してコイツを放っておいて逃げるか……。と考えた直後、

「あー、めんどくさいから説明は省く! お前俺と来い!」

と想定外の言葉に俺の思考が一瞬止まる。

 来い? 何処に? なぜ? その疑問が口から出てくる前に、少年は言葉を続ける。

「お前、能力者。お前、この世界に居場所ない。だから俺と来る。OK?」

そういうと同時に、男はズボンのポケットから何やら黒い物体を取り出し、床にたたきつけた。物体は生物が潰れたような気持ちの悪い音を立てて床に吸い込まれるように溶けていき、床に直径1.5 m位の黒い染みができた。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は首藤すどう 瑛空えく。で? お前の名前は?」


と、突然の自己紹介に戸惑いつつも、

「えーっと、俺の名前は嘉陽田かようだ 蜻蛉えんば。嘉陽田でも蜻蛉でも好きな方で呼んでもらっても構わないですが……」

「把握、よろしくな蜻蛉。じゃ、早速だがお前をエルドラドまで連れていくからな」

と言いながら俺に近づき、彼の右手は俺の右手首を掴んで引っ張ろうとする。

「ちょっと待てちょっと待て。落ち着け、エルドラドってどこだ? そんな地名は聞いたことが無いぞ。あと俺はお前について行くとは一言も言って無いからな」


 冷静に考えれば、俺が逃げようと思った瞬間にどこかに連れて行ってくれると云う提案はあまりにも都合が良すぎる。そう、まるで俺の心を読んだみたいに……。だとすると、これはもしかして罠なのでは無いのだろうか? 連れて行くというのは捕虜として連れて行くということなのだろうか。というよりそもそもこの力は何なんだ。手から閃光を出せる人間なんて聞いたことも見たことも無い。

 あぁ……駄目だ。全然冷静になれない……。落ち着こうとすればするほど疑問で頭がこんがらがる……。

「エルドラドは俺が住んでいるところだ。行くとは言ってないって言われても、無理矢理連れて行くから問題ない」

無理矢理連れて行くと言われたら、ぐぅの音も出ない。

 でも正直、彼、須藤はこの力について何か知っているようだった。場合によっては捕虜とかになるのを覚悟で付いて行き、色々教えてもらうのもありか……?


「俺を連れて行ってどうするつもりだ? 捕虜か? 拷問か? 残念ながら、拷問の訓練は受けてるから、口は割らないからな!」

と、それとなく彼の目的を探りつつ、捕虜や拷問をしても無駄なことを伝える。ちなみに拷問訓練は痛いのとか精神的苦痛とかが嫌だったので殆ど欠席した。故に拷問が無駄と云うのはハッタリである。


「へっ、さっき簡単に頷いた奴がよく言うぜ」

どうやらハッタリだということはお見通しらしい。

「質問に答えて無かったな。連れて行ってどうするつもりだ、って云う質問だったか? いや、別にどうもしねぇよ。普通に飯食って普通に寝れる、そんな生活を約束するだけだ」


 怪しい。うまい話には必ず裏があると言うが、この話は明らかに怪しすぎる。俺は視線を須藤からそらさずに、左手でドアノブを探しながらこう聞いた。


「それだけか?」

「そうだな……少し位、お前の力を利用させて貰うかもな」


 ほらみろ、やっぱり俺の力を用いて何かしようとするんじゃないか! 少し位と言ったが、絶対少しじゃない。骨の髄までしゃぶる気満々だ。

 俺は須藤が回答し終わった直後、彼が話している最中に見つけたドアノブを左手でゆっくりと回しつつ、逃走体制に入ろうとする。


「おいこら! 逃げようとするんじゃねー! 逃げたらどうなるか分かってるんだろうな!」

と須藤は俺の右手首をギュッと握りしめて逃げられなくし、どこから取り出したのか分からない長剣を反対の手で構える。

「ちょっと痛い、痛いって! 逃げないから! そんなにきつく握るなって!」

 しかし、これは予想外だった。丸腰の相手ならどうにかなると考えていたものの、武器を持たれたらかなり不利になる。俺も何か武器になるものを探すべく、右と左を確認するが……。


「軍曹殿! ご無事ですか!?」

「軍曹殿! 今他の人の声が!」

「軍曹殿! 扉を開けて下さい!!」

「軍曹殿!」

「軍曹殿!!」


 うっわ、もう最悪のタイミングでやってきたな……。

 俺はゆっくりと回そうと思っていたドアノブをガッチリと掴み、扉を開けられないように力を入れる。なんとなく、この状況を見られるのは不味いと判断したからだ。

 ……っと、そうだ。ふと思ったんだが、天井が壊れているこの事実を須藤がやったことにすれば万事解決するのでは無いだろうか? この天井は俺ではなく、須藤が破壊した。その後もう一度隙をみて、俺はゆっくり逃避行に移ればいいのだ。と思い、俺はドアノブから手を離そうとする。


「あ、そうだ。そのドアノブ、もう離してもいいぞ」

と須藤。言われなくてもそうするつもりだったのだが……。

「あ、開かない……?」

おかしい。確かに俺はドアノブを離した。しかし一向に扉が開く気配は無く、俺を呼ぶ声とノック音だけが、激しく鳴り響いている。

「あ、あれ……?」

と今度はこちらから扉を開けようとする。ドアノブを回してドアを押すが、ピクリとも動かない。

「え……? あれ……?」

と言いながら須藤の方を見るが、もう俺を襲う気は無いようで俺の右手首から手を離し、剣を地面に置いてニヤニヤとこちらを眺めている。


「あのな! このドアお前らから見て引き戸だから押しても開かないのは知ってるよな!?」

と俺は須藤から視線をそらさないようにしつつ、大きな声を張り上げてドアの向こうに居る奴らに伝える。

「軍曹殿! ご無事ですか!!」

「軍曹殿の声が聞こえたぞ!!」

「軍曹殿!」

「軍曹殿!!」

あー、うるさい。うるさい。

「お前らから見て! 引き戸だからな!! 押しても開かないからな!!」

ともう一度叫ぶ、多分あいつらには聞こえていなかったと思うから。

「軍曹殿! さっきからやっているのですが! 全然開きません!!」

はい? 全く言っている意味が分からない。という視線を須藤に向けると相変わらず、奴はニヤニヤとしている。そこで俺は全てを悟った。

「あー、お前ら。ちょっと静かにしといてくれ。話をつけてくる」

「軍曹殿? 話ってなんですか? もしかしてやっぱり敵襲ですか!? 敵軍がそこにいるんですか? 軍曹殿! 軍曹殿!?」


「結構部下に慕われてるんだな」

といつの間にか座っていた須藤。俺は彼の正面に腰を下ろしながらこう返す。

「自分が楽をしようとしたらこうなっただけだ。望んで慕われたわけじゃない。それよりも……だ。扉が開かなくなったのは、須藤の仕業、いや須藤の力。と云うことでいいのか?」


 正直あいつらが須藤に脅され、束になってドアを抑えていると云う可能性も無いわけでは無いが、そんな確率は殆どないだろう。むしろ、須藤も俺と同じような普通では考えられないような力を持っており、その力を使って扉を開けられないようした、と疑うほうが自然な流れだ。


「ま、そういうことだ。あのまま突入されたら落ち着いて話ができないと思ってな」

「俺は正直、今のところはアンタについていく気は無い。諦めて帰ってくれないか?」

ともう一度自分の意見を主張する。

「じゃあ仮に俺がこのまま帰ったとして、蜻蛉、アンタは今からどうするんだ? 時期を見て逃げ出すか? それともこのまま軍人を続けるのか?」

「正直、時期を見て逃げ出そうとは考えてる。が、アンタにそれが関係あるのか?」

「無いね。関係ない。だけど、戦場からの逃亡者って殺されるんだろ? どうやって逃げ切るんだ? さっきの力を使って逃げるのか? 10人、100人から?」

「アンタには関係無いだろ」

図星をつかれ、ムスッとしながら返答する。


「分かった、じゃあ話を少し変えよう」

と言い、須藤は近くに落ちていた木材を手に取った。

「これに蜻蛉のさっきの力を使ってみてくれないか?」

「なぜ?」

力を使う意味、意図、理由、全てに置いて分からない。

「まぁまぁまぁまぁ、力を出す練習だと思ってさ」

怪しい。明らかに怪しい。

「事によっては力を持つ者同士、アドバイス出来るかもしれないしさ」

と、須藤は笑いながらそう言った。明らかに怪しい提案だが……アドバイスをしてくれると云う事実に少しだけ心が揺らいだ。なぜなら2発目に力を使った時は1発目より威力が落ちたからだ。もしかしたらその原因を教えてくれるかもしれない。


「分かった。やってみよう」

俺はゆっくりと立ち上がって右手をまっすぐと伸ばし、延長線上に須藤の持っている木材があるようにする。そして少し力むと――。

「………………」

「………………」

「あれ? ちょっとまって。おっかしーな……えーっとさっきはこんな風に、伸びをするようにして……」

と右手を上に上げて伸びの体制を作る。そうすると……。

「な、ほら! 出た出た」

2回目と同じように、何かが弾けたような音と同時に手と天井からむき出し状態の木材に光が繋がって一瞬で消えた。

「だから、このポーズのまま、木材を正面に捉えて……」

伸びの体制のまま、上半身を折りたたみ、木材を右腕の延長線上に捉える。そして力むと……!

「ほら出た!」

力が出たかどうかは確認し辛い体制だったが、視界が一瞬白く染まったのと、パチッと云う可愛らしい音がなったことで、力が出た事が分かった。。

「…………」

「どうした? 須藤。アドバイスとか、感想は?」

「いや……なんというか……」

と須藤は言葉に詰まりながら、話を続ける。

「格好が……ダサくね?」

格好が……ダサい?

「ほら、なんで正面に打つのにお辞儀しながら打つんだ? 格好悪くね?」

確かに言われてみれば……。

「それと威力が弱くないか? 本当にそれで天井を吹き飛ばしたのか?」

「それは俺も聞きたかった。なんで1発目はあんなに威力が高かったのかを……」

「……取り敢えず格好の改善だ。さっき気になったんだが、力を出る時は左手をギュッと握ってるんだわ。だから今度は正面を向いたまま、右手を伸ばして左手を握ってやってみ?」

というアドバイス通り、俺は右手の延長線上に木材があるように伸ばし、左手をギュッと握りしめて、力を込めてみた。


 するとパチッという可愛らしい音とともに、俺の手と木材は一瞬の光で繋がった。

「おー、出来た出来たー!」

格好を変化させても光が繋がったと云う安堵感からか、心臓がバクバクと音を立てていた。そこまで緊張していたのかな? 俺。

「はいはい、おめっとさん。次は手を逆にしてやってみないか? 左手を伸ばして、右手を握るんだ。出来るか?」

言われた通り、俺は左手の延長線上に木材があるようにを伸ばし、右手をギュッと握りしめて力を込めてみた。

 やはり、パチっと云う可愛らしい音とともに、俺の手と木材は一瞬の光で繋がる。

「おー、やるじゃん。次は威力の改善だな。って大丈夫か?」

「いや、普通に大丈――」

とここまで言いかけて俺の体は足で支える事ができなくなり、その場に倒れた。



「なんだ……これ……」

体がだるい。吐き気がする。動悸や息切れが凄い。体全体がピリピリする。

「ふぅー……やっとおきたか……」

とまるでこうなる事を知っていたかのような須藤。

「なんか……したのか?」

正直、喋るのもままならない状況だが、気合で何とか質問する。

「いや、別に俺は何もしてない。ただ俺は最初に言ったよな? アンタの居場所はここには無いって」

そんな事言ったっけ? よく覚えてない……。

「まあいいや。今のアンタの状況を教えてやるよ。魔素欠乏症だ」

と須藤はわざわざ立ち上がって、俺を見下ろしながら言う。

「魔素……欠乏症?」

「そ、魔素欠乏症。略して魔欠。アンタはちから……能力を短時間でたくさん使ったろ? 能力って云うのは無から有を生み出すものじゃ無い。体内の魔素を消費して、生み出してるんだ」

と須藤はその場でくるくると歩きながら説明する。その歩いた事によって起きる震動が更に俺の気持ち悪さを刺激するので正直やめて欲しい。

「体内の魔素が失われたらどうするか? 答えはかんたーん。呼吸によって大気中に存在している魔素を補給すればいいんだ!」

とここで、須藤は俺の顔を覗き込むように座り込んで笑いながらこう続ける。

「あれれー、でもこの世界には魔素が大気中にないぞー。どうやって補給すればいいんだろうねー?」

答えは出ている。これは悪質な誘導だ。まさか、須藤の奴は最初からこれを狙ってたと云うわけか……。

「アンタの……国に……行くしか無い……と……」

「ピンポーンピンポーン、大ー正ー解ー!」

「仮に……このまま……魔素を補給しなければ……どうなるんだ?」

死ぬのか? 最悪そうなるんだろうな。と思う。

「正直、そんな事態に陥った事が無いからよく分からねーけど、ずっとそのままなんじゃねーの?」

と須藤。そりゃそうだ。須藤の話を信じるとするならば、向こうの国では魔素がありふれているそうじゃないか。よほどの事がない限り魔素が補給出来ない状況になるはずがない。答えが分からなくて当然なのだろう。

「分かったよ……ここまで追い込まれちゃ……仕方ないか……」

とここで俺は大きく深呼吸を2、3回繰り返して。

「ふんっ!!」

と力を入れ、倒れた体を根性で無理矢理座らせた。


「いや、無理しなくていいから寝とけよ……」

腰より上がフラフラして手を支柱代わりにしなければまともに座ることも難しいが、これだけはきちんと彼の目を見て聞きたかった。

「……分かった。行ってやるよ。アンタの国に。どっちみち戦争だらけで何時死ぬか分からないこの国には嫌気が差してたんだ。最後に聞くが、アンタの国だと俺の命の安全は保証されてるんだろうな!」

「あぁ、医療技術もこの国よりかなり良いという事は保証できるし、お前の力じゃよほどの事をしないかぎりは命を落とすこともないって事も断言できるぜ!」

と笑顔で親指を上げながら答える須藤。一応納得の出来る回答を得た俺は、彼の目を見つめたままこう聞く。

「なら、俺は今からどうすればいいんだ?」

「よし、じゃあそこの穴に飛び込んでくれ」

と黒い染みを指差す須藤。ここに飛び込むの? そもそも月明かりじゃよくわからないんだけど、そもそもこれ穴なの? その前に穴に飛び込んで国を移動するとかそんな技術があったら、戦争のセオリーとか俺の知ってる常識とかが破綻しないか?

「あー、もしかして、肩を貸さないと歩けないか? 根性で座ったから行けるかなーっと思ったんだけど……」

俺の沈黙を別の意味で解釈した須藤が手伝おうとするが、そうじゃないんだ。

「俺の事……騙してない?」

「いや、別に?」

さも穴に飛び込んだら国の移動が出来ることを当たり前のように返す須藤にカルチャーショックを受けながらも、

「自分の国から別れる時位、自分の足で歩かなくてどうするんだよ。大丈夫だ助けなんかいらねぇ」

と言い、気合で立ち上がり、穴に向かってふらつきながらも一歩一歩と歩き始める。

「ん、そうか、頑張れ。……ところでさっきからこの建物揺れてね?」

そう言われてみれば確かに……。でもそれは須藤が歩いてるからじゃなかったのか?

「それとなんか変な音が……ドーンとか云う何かを破壊する音みたいな……」

音の出処は……目の前の……壁? なんでここから?

 と云う回答は物理的に分からせられる事となる。目の前から飛び散る壁。あるのは直径30 cm位の小さな穴。そこから顔を覗かせるのは訓練兵達。

「軍曹殿!!」

「よくぞご無事で!!」

「屋根伝いに渡ろうとしたんですが、見えない壁に遮られてて行けなかったんですよー!!」

と口々に言いたいことを言うスタイルに半分呆れるが、その付き合いも今日までだ。

「やっべ! 壁は考えて無かったわ!!」

と後ろからかなり焦った須藤の声が聞こえる。

「おい、急げよ時間が無い!!」

時間が無いのは分かったが、最後だし、少しお別れの挨拶でもしとくか。

「まあ……お前ら……なんつーか……突然で悪いんだが、俺は今日でいなくなる事になったわ。えーっと……俺が居なくなった後の新しい教官とも上手くやっていけよ。そして……俺がこんなことを言うのもおかしいんだけど、国よりも自分の命を大切に――」

「時間が無いって言ってんだろ!!」

と突然の後ろからのドロップキック。無理矢理穴に落とされた俺が最後に見たこの世界の風景は、訓練生達を押しのけて一心不乱に穴を大きくしようとしている、訓練兵時代お世話になった揉み上げの長い鬼軍曹の姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る