第31話 欲望

火よ我が元を照らせ―――

ルークが小さく唱えると、掌にに小さな灯がともった。彼がそれを傍らのテーブルにある蝋燭に火を移すと暗かった部屋に、僅かな光が広がった。それは、ソファに寝そべる彼自身と、彼の胸の中に横たわるティータニアの肌も、ほのかに照らしていた。薄明りに光る彼女の身体は、艶めかしくて幻想的だった。

 ルークは彼女の肌のあまりの美しさに、彼は見惚れていた。彼は目の前のティータニアが現実であることを確かめるように、彼女の肩をそっと撫でた。明かりを受けてまろく光る肩は、吸い付くように滑らかだった。

「るっ……ルーク様…恥ずかしいからやめんか…」

彼の胸の中でティータニアは小さく言った。彼女は羞恥心に縮こまり、彼の掛けてくれたブランケットにしがみついていた。彼はそんな彼女が愛おしくて、クスリと笑った。

「恥ずかしいって、何が?」

「だって・・こんなところ・・・」

「嫌だったんなら、はっきりそう言ってくれればよかったじゃないか。君に嫌だって言われれば、私は何も出来ない」

ルークがそう言うと、ティータニアは何も言い返せなくなった。彼女は顔を赤らめて、益々小さくなった。


ログハウスに入るなりルークは凛とした声とはまた違う声でティータニアに近寄った。

「ティータニア…」

「なんじゃ……っん!!…」

ルークは突然、唇を合わせた。次の瞬間、彼の熱い舌がティータニアを捉える。彼女は刹那、その甘くそして激しい口付けに溺れそうになった。しかしルークはそれに構わず続ける。初めこそ苦しそうだった。だが、彼女は次第にリズムをつかみ、素直に彼を受け入れやがて彼女は、うっとりと瞳を閉じた。

「…ティータニア…君を抱きたい」

うっすら頬を赤らめながら、ルークはにやりと笑った。ティータニアは完全にのぼせあがった顔で、ルークを見つめていた。彼はそれにたまらなくなり、彼女の唇をひと舐めした。彼女が、小さな呻き声を上げた。妖艶な声だった。

「るぅ……く…さま」

「もう一回して欲しいのか?」

「はい…」

ティータニアはとろけるような眼差しをしていた。

彼は改めてティータニアの唇に自分を押し付けた。そしてさっきのように唇で舌で愛してやると彼女は恍惚とした表情で受けていた。ルークはそうしたまま、ティータニアを抱き寄せた。ティータニアもそれに倣い、ルークの背中に腕を回す。二人は互いの唇が隠微な音を立てて交わるのを聞きながら、抱擁の温かさを噛みしめあった。唇を離すと、瞳と瞳が、近い場所で交わった。

「どうしたのじゃ?」

ティータニアが聞いてきた。ルークはくすっと笑った。

「君の事を、考えてた」

「どんなことじゃ?」

「火照っているのが、色っぽくてきれいだなって」

彼女の顔が、益々赤くなった。美しい赤だと、彼は思った。

「そんなこと…言うんでない!」

「もう暫く君を抱いていないからかもしれない。とても美しくなった」

満足そうに彼女を見つめながら長い髪に口づけをする。突然、ティータニアがうっとりとした瞳のまま、彼の胸に顔をうずめてきた。いじらしく抱き付く彼女に、彼は心臓を高鳴らせた。

「ルーク様のせいじゃ…」

彼の胸の中で、彼女は小さく訴えた。

「妾はこの世界を統治するもの。しかしルーク様に1人の女として抱かれてからあんなに灰色でつまらなかった世界がこんなに美しいということを知ってしまったのじゃ。それと同時に…」

「ティータニア…」

「ルーク様がそばに居ない世界は寂しくてたまらない…」

「ごめん…」

彼がそう言うのに、彼女は首を横に振った。

「違うのじゃ!!謝罪が欲しいのではない!!妾はただ…ルーク様とひとつになりたい…」

ルークは心を打たれた。自分と同じことを、ティータニアも思ってくれていたそのことに、ルークは途方もない幸せを感じた。彼は彼女を抱き返した。彼女の髪の匂いが、鼻腔を優しく刺激した。

 君が欲しがってくれるのなら、あげるよ。それに私だって―――

衝動的にルークはティータニアの唇を奪った。彼女の唇を貪りながら、ルークはゆっくりと、体重をかけてきた。衣ずれの僅かな音と共に、ティータニアの細い身体がソファに押し倒された。溜息のような息遣いが互いから漏れ、二人の間を妖艶な空気で包んでいく。二人は夢中になり、絡まり合った。

「欲しい……」

甘えた声で、ルークは言った。ティータニアは戸惑った。

「こ、ここでか?」

「嫌か?」

「い、嫌ではないが…んっ…んん…」

ティータニアの唇が、荒々しく塞がれた。食らいつくようなキスに、彼女は息苦しさを感じた。幼い衝動のような彼の行動が愛しくて、切なくて、彼女は身震いをした。彼は自分の上着を脱ぐと、肌着ごと彼女の服をたくし上げ、彼女の肌を露にした。彼女は触れてもらえる予感に、胸を高鳴らせた。

 だが彼は、すぐには与えてくれなかった。ティータニアの目線の先には、優しく卑猥な笑みを浮かべるルークがいた。何か言いたそうにするティータニアを黙らせるのは簡単だった。小さな体には相応しくない膨らみの先を小鳥のようについばむと、彼女の口からは甘い喘ぎしか出なくなった。彼が美味そうな音を立ててそこを啜る度に、彼女の身体に甘い疼きが走った。

「あっ、あ・あっ、ああ、あ…」

ルークが夢中になって吸い付いて来るのに、ティータニアは気が触れそうになった。彼の愛撫は時に激しく、時にこそばゆく、彼女の身体を刺激した。彼女は彼に翻弄されながら、それでも幸せを感じていた。ルークに求められることが、彼女の一番の歓びだった。 狭苦しいソファでの秘事が、二人の気持ちを尚昂ぶらせる。

「る…ルーク様ぁ…もう…わら…わっ…」

彼女の胸を夢中で愛撫する彼に、彼女は言った。切なそうな声だった。

「ティータニア…」

「ルーク様を…肌で…感じたい」

「…わかった」

彼女の願いは叶えられた。彼は彼女を抱き寄せると、キスをしながら肌を撫でまわした。彼女も同じように彼を撫でまわす。熱くすべやかな肌に、二人は更に興奮した。

「ふふ…暖かいな…ルーク様」

「君もだよ…ティータニア」

やがて彼は彼女から離れると、彼女の下半身も身ぐるみ剥がした。陶器のようにきれいな肌が露わになった。彼は愛しそうに内腿をなぞると、その奥に隠されたそこに、分け入った。

そこはもう、熟れきった果実のように甘くなっていた。

「綺麗だ…ティータニア」

「い、言わなくてもいいだろう!!」

「言って欲しいんだろ?」

「で、でも…は、はぁぁあっ!」

言葉が終わるより先に、快感が与えられた。彼は、彼の知りうる全ての方法で、彼女のそこを愛してくれた。水と戯れているような音が、そこから響いてきた。彼の指は、舌は、波のように激しく、涙のように熱かった。彼女の身体が、電気が流れているかのように小刻みに痙攣し始める。

「あっあっ…イイっ…ああん…!」

今まで感じたどれよりも大きな熱の渦が、身体の奥底からこみあげてきた。彼女の身体が弓のように撓り始める。その時が近づいてきた。だが、意識が白くなりかかったその時、愛撫の全てが、取り上げられた。

二人の視線が、そこで逢った。ルークは彼女を不思議そうに見下ろし、ティータニアは訴えるような眼差しで見上げていた。彼女は肩で息をしながらじんわりと瞳を潤ませた。

「どうした?」

驚いて、彼は声をかけてきた。どうやら、彼女の身に何が起こりかかってたのか、気づいてないようだった。彼女は切なそうに腕を上げると、抱擁を求めた。

「ルーク様…妾…」

「どこか痛かったか?」

ティータニアは首を振った。

「妾……」

ルークはティータニアを抱き寄せた。そしてその身体の熱さと僅かな触れ合いに身震いする様に、察した。

「怖かったのか?ごめん…」

耳朶に息を吹きかけるような囁きに、彼女は小さく悲鳴を上げた。

「ティータニア、何をして欲しいか言ってくれないか?」

彼は続けて、彼女の耳朶に囁いた。羞恥心に、彼女の頬が紅潮した。

「お詫びのつもりなんだ。君が本当にして欲しいことを、言ってくれ」

その時、彼の心の中に、嗜虐心のようなものは一切なかった。彼は本当に、彼女が望むことをしてあげたいと思っていた。切実な彼の眼差しに彼女の心も動かされた。彼女は彼の耳に唇を寄せると、最後の理性を振り払った。

 ―――ルーク様が、欲しい―――

それは、慈悲のように与えられた。ルークが侵入してきたその瞬間、ティータニアは身体で幸せを感じた。それは彼も同じだった。自分自身が彼女の甘い海に沈んでいくのを、幸せの中で感じていた。

 ルークはこみ上げる想いの全てで、律動を繰り返した。彼女の匂いが辺りを優しく支配する。二人とも、今自分たちがしていることに酔いしれた。狭いソファの上で、二つの身体が折り重なるように交わり合う。スプリングが悲鳴のように軋む。

「る…ルークさまぁ!!!」

「ティータニアっ…!」

身体中が、ルーク様でいっぱいだよ…私も……おれもだよ、ティータニア…本当はそう言いたかったのに、言葉が口から出なかった。名前を呼びあうので精一杯だった。ルークが打ち付けるたびにティータニアは甘い喘ぎを響かせ、突き上げたり、いじらしく捏ねたりすれば、別の生き物のように身を捩じらせて尚更彼を求めた。二人はお互いの様に、気持ちを益々高まらせた。

ティータニア…ティータニア…可愛いわが君…!!

ルーク様……!!

やがて彼は彼女を抱きかかえた。二人に限界が近づいていた。

そしてその瞬間――――

二人の中で風が舞い上がり、

彼らは一緒に、白い世界を見た…


いつの間にか、辺りが暗くなっていた。カーテンを閉め忘れた窓から暗闇が入り込み、二人を包み始めていた。ルークが詠唱で火を灯すと、あられもない二人の姿が闇に浮かび上がった。ソファの下には、脱がされた洋服たちが、生き物のように横たわっていた。

「嫌だったら、本当にそう言ってくれればよかったじゃないか」

ルークは再びそう言った。ティータニア彼の肩にしがみつくと、小さく言った。

「い、嫌じゃ、なかった…から…」

「次はちゃんと、ベッドに行こう」

 悪戯っぽく彼が囁いた。彼女は益々恥ずかしくなって、彼の胸に顔をうずめてしまった。彼はそんな彼女が愛おしくて、輝く肌ごと彼女を抱きしめた。彼女は彼の胸板の熱さに感動し、ふっと微笑んだ。

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