第20話 魔族襲来 (前編)
試練とは一体なんなのか。
少しだけ不気味な笑みを見せるティータニアの表情は、その試練が楽なものではないことを想像させるには充分だった。
「ここはヴェルフレム宮殿の最深部である"女王の間"。本来ならば人間が入ることなど許されぬ場所じゃが、今回だけは特別にここの地下にある部屋へ案内してやろうぞ。」
こんだけ広い宮殿内で更に地下まであるなんて、一体ここにはどれだけの部屋があるのだろう。
ティータニアは座っていた椅子から腰を上げると、床に敷かれた
そして何やら魔法の呪文のようなものを唱え始めると、ティータニアの手を中心に魔法陣が広がりだした。
魔法陣は
その美しさも
ティータニアは階段を一段降りると、ビチコの方をチラッとだけ見てすぐに視線を良男へ向ける。
「ここから地下へ進んで行った先の部屋はひとりでしか入れんのじゃ。
そう言われると、ビチコにも気になることがあった。
「あの・・・良男様の試練っていうのはどれくらい時間がかかるものなんですか?」
「それは妾にもハッキリとは言えんが、人によっては1日だったり1ヶ月だったりバラバラじゃ。」
ビチコの表情が曇ってくると、良男はすぐにビチコの手を握った。
「心配しないでくれ、もう二度と離さないって誓ったから・・・ちゃんと帰ってくるよ。」
唇を強く噛みしめるビチコを背に、ティータニアと良男は階段を一段ずつ下っていった。
無言で淡々と階段を下りていくと、もう光は差していなかった。
壁の横に等間隔に置かれたロウソクがここでは唯一の灯りだ。常に身構えていなければ、何か飛び出してきそうな薄暗い通路を歩いていく。気味の悪い雰囲気の中、良男は沈黙を破った。
「そういえば俺の力っていうのは一体なんなんだ?」
「あのクソジジイからは一応、お主に伝えていると聞いたんじゃが。」
「さっきから言ってるクソジジイってカミサマのことだよな?俺なんか言われたっけ、力とか。」
カミサマと会話してきた内容を必死に思い出しながら頭を掻いていると、死んでしまったときの会話が頭をよぎる。
『特殊能力は
そうだ、そういえばあのとき———
「特殊能力のことか!」
「そうじゃ、その特殊能力というのはとても希少なものでな、魔法とは違って最初から備わっている一種の才能みたいなものじゃ。もちろんお主には最初からそんなモノはなかったが、あのクソジジイの気まぐれか何かで授かったのじゃろう。」
全くあのクソジジイは何を考えているのやら、気まぐれにも程があると言いたそうな呆れた表情だった。
「そんなに凄いものだったのか・・・。それで俺はどうやったら使えるようになるんだ?」
「まあそう慌てるでない。今回お主の中で目覚めさせる能力は"
「この"
「どういうことだ?つまり俺が望めばなんでも創りだせるってことか?」
創造という言葉について考えた良男は、その言葉を聞いた人なら誰でも思うであろう当然の質問だった。
「そんな都合のいい能力じゃといいのじゃが、実際はそうもいかんものよ。なんでもかんでも具現化できるわけではなく、創りだせるのは武器だけなんじゃ。生み出した武器がどれ程のモノか・・・それも本人の創造力次第という感じじゃ。」
こうしてティータニアからざっくりと能力について話を聞いていると、2人は扉の前まで着いていた。
その扉は鉄でできており、こんな薄暗い地下の通路にも関わらず堂々としていた。
「さあ、扉を開けて部屋に入ってくるのじゃ小僧。」
良男はこれから何が起こるのかわからない恐怖感こそあったが、迷いはなかった。
重量感のある扉は押すと意外にもすんなりと開き、そこは真っ暗な部屋だった。
「ここは"虚無の間"といって、今からお主にはここでしばらく過ごしてもらう。その中では何をしても構わぬ。」
「しばらくって、どれくらいなんだ?そんなので俺は本当に能力が使えるようになるのか?」
「それは言えぬ。さっきも説明したが、"
深い闇の中ティータニアの気配が徐々に消えていき、扉が閉まる音だけが良男の耳に残った。
光も音もない空間。そんな中で良男は考える。
現実世界で生活していたときのこと、この世界に来てからのこと。
そして創造力とはなんなのだろうか。
何もない空間で ただひとりで考える。
———ヴェルフレム宮殿の外
良男が虚無の間に入るより少し前———。
宮殿から少し離れたところにある、湖のほとりに魔界からの使者が舞い降りた。
外はもう夜になっており、欠けている月の光だけが怪しく光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます