第13話 世界の歴史 (後編)
「あら、目が覚めたの?おはよう」
ドアの外から現れ、微笑みながら俺にそう言ってきたのはビチコとは対照的な・・・そう女の子と言うよりは女性と言った方が正しいのだろう。
長い綺麗な黒髪でモデルのようにスタイル抜群な気品漂う"大人のお姉さん"だった。
「あ、えっと、あの・・・」
その女性に一瞬でも目を奪われてしまって、言葉がでなかった俺はすぐに後ろを向いて涙を拭いた。
さっきまでずっと泣いてたこと、バレちゃったかな。
泣いていたことが恥ずかしいとか、変に心配されたくなかったのか、それはわからない。ただ、必死に隠すように目を擦るだけだった。
「そうだ、お腹空いてるでしょ!ちょっと待っててね、すぐに何か作るからね」
そう言うと彼女は慌ててキッチンの方へ行ってしまった。
大抵の人は誰かが泣いていたら何があったか気になって聞いてみるだろう。
しかもそれが小さい子供ではなく成人している男性だったら
しかし彼女は何も聞いてこなかった。
その優しさに今はほんの少しだけ心が救われたような気がした。
———
それからしばらくしてテーブルには今までに見たこともないようなご馳走が並べられた。
「冷めないうちに食べちゃいましょ」
本当に頂いてもいいのか少し悩んだが、とにかくお腹が空いていたので「いただきます」とボソッと言って出された料理にがっついた。
美味しいなんてもんじゃない、これまでに口にしてきた物の中でも"母親の料理を食べているとき"と同じくらいに俺の舌と胃袋は喜んでいた。
がつがつと料理を
「ねえ、そろそろ名前聞いてもいいかな?」
初めて彼女から俺に対する質問がきた。
喋ろうと思ったが、口にたくさん物を含んでいたため、慌ててグラスを手に取って水で流し込む。
ゴホ、ゴホッ!
やばい、早く飲み込もうとしすぎてむせてしまった。カッコ悪すぎる・・・!
そんな俺を見て彼女はクスクスと笑っている。
「ふふっ、そんなに焦って答えようとしなくてもいいのに」
彼女が笑うといつの間にか俺も不思議と笑顔になってしまっていた。
「やっと笑ったね、やっぱりキミには笑顔が似合ってるよ」
口にする言葉全てに優しさが感じられて、とても温かい気持ちになった。
「それはそうと、私はクラリス・コールターって言うの キミの名前も教えてくれる?」
「はい・・・
今日一番の笑顔と元気な声ではっきりと伝えた。
それから俺はクラリスさんにこれまであったことを話した。
ミルクと砂糖が少し入ったコーヒーを飲みながら。
別の世界からきたこと、ビチコのことや鳴海のことも・・・全て聞いてもらった。
俺の話を「うんうん」と
「ひとつ質問してもいいですか?」
「いいわよ、答えられる範囲でならなんでも答えるわよ」
「ここは・・・この世界は俺のいた世界とは違います、一体ここはどこなんですか?」
するとクラリスさんはコーヒーを一口飲んで、息を吸って吐いた。
これから話してくれるということだろう。
「まずこの世界の他にもいくつかの世界が存在するらしいの。
良男くんがさっき別の世界からきたと言っていたけど、それも珍しい話じゃないのよ。それほど多くはないと思うけど、良男くんと同じように別の世界から来たって人は実際に他にもいるの。
そのうちの何人かに話を聞いてみたところ、どうやらみんな良男くんがここにやってきたのと同様に"時空の渦"を通ってここに飛ばされてきたらしいのよ。」
「なんだって!?」
驚きだった。俺の他にもあの"時空の渦"によってこの世界にきた人がいたなんて。
しかしそうなると色々とわけがわからないことだらけになってくる。
だってそうだろ、そもそもこの世界はカミサマに俺が望んだ世界のはず・・・俺に都合のいいように創られた世界じゃなかったのか?
クラリスさんはコーヒーをもう一口飲み、ゆっくりと話を続ける。さっきより重要な話みたいだ。
「この世界は"スヴァンフォルム"と言って、様々な世界がある中でもその中心だと言われているわ。
なぜなら・・・遥か昔、人類がまだ存在していないと言われている頃に、全ての世界はひとつだったらしく、そのとき世界には2つの種族が存在していて、穏やかに暮らしていたそうよ。
しかし、互いに助け合い暮らしていたはずの2つの種族はやがてお互いを憎み合うようになってきて・・・それはもう激しい戦いだったみたい。
一方の種族は"脚力"で
両種族とも全く譲らない激闘の末・・・どちらの種族も絶滅し、世界はバラバラになった。
それが終末の日———"ラグナロク"と言われ、そのきっかけである2つの種族が争った場所がまさに今いるこの"スヴァンフォルム"なのよ。」
「って・・・一気にたくさん話しすぎちゃったかな?ごめんごめん」
クラリスさんは舌をペロっと出しながら、許してと言いたそうな困ったような笑顔を向けてきた。
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