第12話 世界の歴史 (前編)


「おはようございます!主様♪」


俺はその声で目が覚めた。


「あ、ああ おはよ。」


目覚めたばかりで頭がボーッとしているせいか、少し気の抜けた感じで挨拶をした。


辺りを見渡してみるとそこは薄暗い部屋の中だった。

部屋の中には1本のロウソクが立っていて、今にも消えかけそうな小さい火がゆらゆらと揺れている。


ここは一体どこなんだ、俺の部屋じゃないとなるとビチコの部屋か?


「主様ぁ?浮かない顔してどうしたんですかぁ?まーた変な事考えてたんじゃないですかぁ~?エッチだなぁ~」


色々と考えている俺を茶化すようにビチコはそう言った。


「ち、違うって!俺はそんなこと考えたりしないっての!」


決してそんなことを考えていたわけじゃないのに、何故か焦って言葉を返してしまった。

これじゃあまるでビチコの言う通り、俺がエッチなことを考えていたみたいじゃないか。

頭の中ですぐに言い訳を考えると、ビチコの方に目を向けながら苦笑いして言う。


「そもそも俺はエッチなこととか考えたりしないし、興味とか・・・まあその、ないから!」


自分は紳士ですということを必死になってアピールするが、それも虚しい言葉となる。

なぜならそのとき俺が見たビチコは"悲しそうな表情"を浮かべるだけだったからだ。

なんだよ、なんでそんな悲しそうな顔するんだよ。やめてくれ。


しかしどうしてだろう、その理由が俺には分かる。



———もう、会えないから



ロウソクの火が消えた。


眩しい、世界が眩しい・・・そうか朝が来たのか。

俺はなぜかベッドの上にいて、窓に映る太陽の光に照らされて目が覚めたのだろう。


「さっきのは・・・夢か」


前にいた家とは違うところの様だが、ビチコは今日は起こしてくれなかったのか。

もしかしてまだ寝てるのかな?俺の方がビチコより早く起きるなんてことは今までになかった。

俺はいつもビチコの明るい声で起こしてもらっていたから、たまには俺が起こしてやるか。

そうと決まれば布団にくるまってる場合じゃないな、ビチコが起きちゃう前に俺が起こして驚かせてやろう。


どこで寝てるか知らないが、名前を呼べば起きるだろう。


「ビチコー、朝だぞー!」


返事どころか物音ひとつしない。


「ビチコ~!!いい加減起きろ~!!」


今度はお腹におもいっきり力を込めて叫んでみるが、俺の声以外の音はまるで聞こえなかった。

なかなか起きないビチコにしびれを切らした俺は、家の中を走り回って模索した。

ここがどこで誰の家でどんな人が住んでいるかもわからない家の中を、がむしゃらに走り続ける。

ビチコの名前をひたすら叫びながら———


どうしてだろう、急に視界が曇ってきたのは


どうしてだろう、頬が温かい


どうしてだろう、涙が止まらないのは


「くそ・・・くそっ!!」


必死に目をこすり涙を拭くが、拭いても拭いても止まってくれない。

本当は知ってた、ビチコがもういないことなんて。

起きてすぐに気づいてた、あの鳴海との戦いが夢じゃないことくらい。

それでもビチコが死んでしまったことを認めたくなかったのは、俺がそのことを認めてしまうとビチコはもう戻ってこないような気がしたからだ。


バカだよな、俺。


からになった頭で何度も何度も目を擦りながら、自分が寝ていたベッドに戻り座った。

再び窓から差し込む太陽の光を浴びるが、そのときは特に気持ちのいいものだとはとても思えなかった。

こんなときにでも日は昇るんだな、そう考えると少しだけ俺は太陽が憎くなった。

俺はなにも考えないようにした。


なにか考えると辛くなるだけだからだ。


ビチコと一緒に過ごしたのは2週間程だが、

いつの間にか俺の中でビチコはそれほど大きな存在になっていたのだろう。

するとどうだろう、家の外から足跡が聞こえてくる。

足跡は徐々にこっちに近づいてくるが、割と小幅な音だ。


まさか———ビチコ?


そんなまさかと思いつつ、俺は期待に胸を踊らせてドアの方を見つめる。

もしビチコが帰ってきたらどうする?俺はまずどんな顔をする?

心の準備やら整理やら何もできていないとき程、その時はすぐにくるものだ。


ギィィィと鈍い音をたて、ドアが開く。

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