第24話 報復?

 警察の協力があてにならなかったので結局自分は自分で何とかしようと思いました。

 ですが板熊達は電話、メールには一切答えず無視。ミクシィもアカウント停止する徹底ぶり、話す事すらかないません。

 なので自分は強硬策に出ました。その強硬策とは……相手の職場に乗り込む事です。

 以前奴らは自分の職場に押し行ってきました。そして職場故に奴らの好いように話を進めてしまいました。揉めるのは絶対避けたかったし、変な噂になるのも嫌ですしね。

 だからこそ、自分は奴らもそれは同じな筈だと思い、板熊の職場に行くことを決意しました。ちなみに芝崎の職場は分かってなかったので無理でした。

 板熊の当時の職場はJR新松戸駅の【ステップ】というパチンコ店。板熊から聞いた話では結構な役職だったらしいです。多分嘘でしょうが。

 場所と勤務する時間帯は把握していたので、板熊と接触する為、三日間ほどこの店に通い詰めました。ちなみに見つからなかった日はそのままパチンコを遊戯して帰りましたが、全く当たりませんでした。ガッテム。

 板熊に会えたのは通い始めて三日目。その日は大雨で、自分は雨合羽を羽織って店に入店しました。当然ながらめっちゃ濡れてます。傍から見たら不審者確定ですわ。

 そして肝心の板熊は何食わぬ顔で笑顔で仕事してましたね。恐らく接客業だから笑顔なんでしょうが、自分からしたら、騙した奴が笑顔で楽しそうに仕事しているだけでも腹が立ちました。本当にむかつきましたね。

 それもあってか、ちょいと感情的になりましたね。その為、第一声から既に冷静さを欠いてました。

 

「おいコラ、板熊ぁぁ!!」


 これが第一声です。しかも大声です。品性のカケラもないし、常識性も皆無です。でもそれは本当に怒ってるからです。そもそも詐欺を仕掛けた相手がのうのうとにこやかに仕事してるのなんて、誰だって許せないと思います。

 大声で怒鳴ったので、周りのお客さん達も「何事か?」と思い、自分に顔を合わせます。本来なら視線を気にして落ち着きますが、この時は止まりませんでした。怒りが先行してて、そんな冷静な対応が出来る状態ではなかったです。


「わ、和大雄……なんでここに?」


 板熊は滅茶苦茶びくついて言いました。強気な姿勢もなく、脅えたチワワみたいでした。最もそんな可愛いもんじゃないし、ゴリラのがしっくりくる相手ですが。

 多分板熊も職場では善人ぶっていたと思います。ミクシィの自己紹介で善人ぶってたから、恐らく間違いないと。

 そして板熊も自分と同じく、職場で悪い噂が立つのを恐れていましたね。なにせ自分の顔を見た瞬間、間違いなく『恐れ』の表情になったのですから。

 ……この時の自分って、下衆なんですよね……相手が自分より弱い立場にいると分かると……より困らせてやろうと思ってしまうんですよ。

 何というか、火が点いた感じになり、自分はより強く、より荒々しく板熊を責め立てました。


「なんでか分かんねーのか? テメーに騙された金を取り返しに来たんだよボケ。今すぐ警察行くぞこの詐欺師。オメーがやった事は犯罪なんだよ!?」


 先ほどよりも強く荒い口調で、板熊に吠えました。特に警察、騙された、詐欺師、犯罪などのワードは強く言いました。職場や公共で善良でありたい人間には、効力があると思ったからです。

 実際、効果はテキメンでした。周りのお客さん達は自分達に釘つけ。ヒソヒソと内緒話をしていたと思います。また板熊を見る目も店員を見る目ではなく、何か汚い物を見る目になっていたのを感じました。

 そして板熊もワードにビクつき、目線にもビクついていました。生命の危機に瀕した小動物の様に、脅えて震えてました。

 もう板熊には言い返す気力も、暴力に出る事もない。そう踏んで自分は更に攻めました。


「なにビビってんだよ。こうなる事くらい覚悟してたんだろーが!! オラ警察行くぞ!!」


 先ほど同様、吠え立てる様に言って、自分は板熊の腕を引っ張り、連れて行こうとしました。最も、本当に連れて行くつもりはなかったですがね。だって警察の対応がアレだったし……


「ちょっ、ちょっとまってよ」


 板熊は今まで見たことない程にテンパってました。本当にこのまま警察に連れていかれると思っていたのでしょう。抗う為に、腕に力が入ってました。しかし振り解こうとはしなかったですね。見た目を気にしていたと思いますが、ここまで来たら手遅れだと思うのですがねぇ……


「頼むよ、今仕事中なんだよ。だから後で必ず、必ず連絡入れて、警察に行くから、勿論お金も返すから、この場は勘弁してくれよ」


 板熊が泣きそうな声で懇願してきました。が、当然無視しました。


「ざっけんな。どうせそのままダンマリ決め込むんだろ」


 電話なんかする訳が無い。ここで逃がす事は許されない。そう思い、自分は決して板熊を許そうとしませんでした。


「オラ、さっさと警察行くぞ」


 自分は話を聞かず、また板熊の腕を引っ張ります。

 ですが、板熊は引き下らなかったです。自分を振り払いもせず、全体重と力を持って、その場に留まろうとしていました。

 そのまま泣き言の様に「許してくれ」や「必ず返す」等をほざいてました。その様は、まるで駄々っ子です。

 そして厄介なのが、それを曲げなかった事です。折れる事も、逆ギレする事もなく、ひたすら泣き言を言って留まるだけでした。

 正直、ラチが明かないし、ウンザリしてきました。ついでに呆れてました。こんなガキ見たいな奴に騙された事にも、板熊がこんな底が浅い奴だったことにも。

 場はそんな感じで約10分程、硬直してました。そして自分は疲れてきて、結局根負けしてしまいました。


「あーもう、分かったよ。後で必ず、電話しろよ」


 捨て台詞を吐いて、自分は板熊の手を離してやりました。当然ながら板熊は感謝一杯と言わんばかりの面でありがとうだの、必ず電話する等とほざいてました。


 言うまでもなく、演技でしたね。店を後にして、板熊の連絡を待っていましたが、当然ながら連絡なんてきやしませんでした。

 おまけに腹立つ事に、板熊はその後、職場に現れませんでした。きっぱりやめていたのです。もしかしたらこの一件でクビになったのかもしれませんが。

 

 しかし板熊を取り逃した事実には変わり有りません。そこで自分は次の手として、一日50件近いイタ電とメールで攻撃しました。

 当時のガラケーの料金プランのお蔭で、電話とメールはかけ放題だったので、これを利用し、ストーカーまがいの行為をしました。当然ながら、これは犯罪です。皆さんは絶対に一般人相手にやってはいけません。

 正し、相手が犯罪者なら別です。相手は警察を使えないので、咎める術が無いのですから。

 最も、咎める術はなくても、防ぐ術はありました。はい。皆さんが予想する通り、一週間そこらで着信拒否+メアド変更の大人の対応コンボを決められて、効果はありませんでした。

 結局、こんなネタレベルの報復しか行えず、自分は奴らを取り逃してしまいました。勿論、頭に来ました。

 そして犯罪行為にも強い憎悪を抱き、そして更には、人間全てが信用できなくなります。

 そして、自分は歪みます。歪んで、歪んで、その結果周りに迷惑をまき散らし、反省するに至りました。

 最後はそんな歪んだ自分について、語ろうと思います。


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