第20話 確信

 以前にも述べましたが、本来誓約書は入社した企業などに対しての取り決めを全うする事を誓う物です。ヤクザの様な反社会勢力に対して書くのも貰うの本来はあり得ないのです。

 ですので誓約書なんてマトモな物ではなく、アニメやドラマのヤクザがよくやる「一筆かいてもらおうか」程度のレベル。今回もそれです。

 でもこの一筆てのは中々効果的なんですよ。良い意味と悪い意味で自分は思い知らされました。



  要求された50万を用意した自分はその後、板熊達に用意できたと伝えました。しかし渡すのは誓約書が入ってからだと言ってあります。

 なのでしばらくは連絡が無い。そう思っていると、たった半日で連絡が来て、用意できたと言ってきました。

 反社会勢力相手に誓約書を用意してと言ってから半日で手に入るなんて、おかしいと思いましたね。いくら何でも早すぎです。

 とは言え、この時は報復を恐れていたので渡そうとはしていました。なので板熊達が指定して来た受け取り場所に足を運びます。受け取り場所はJR東松戸駅周辺。この駅は夜には人混みが少なく、また街灯も少ないので暗くて目立たない場所。奴ら詐欺犯からすれば、受け取り場所としては優れている場所でした。


  時間帯は深夜。電車も動いてないので人の姿なんて殆どいません。そんな暗い駅周辺で奴らと落ち合いました。

 またいつもの様に車に乗せられ、そこでやり取りする事になりました。


「んで金は用意できたの?」


 板熊は挨拶とかもなく、不仕付けで聞いてきました。完全に舐めてる証です。


「ああ」


 自分は用意した50万が入った封筒を奴らに見せつけました。


「ありがと、んじゃもらってくよ」


 板熊は見せつけた金を何の躊躇いもなく持って行こうとしました。配慮も遠慮もない動作で、かなりムカつきましたね。


「ちょっと待って、その前に約束の誓約書をだせよ」


 板熊の無礼にイラついていたのもあり、自分は声に威圧を乗せて言いました。

 板熊達はちょっとだけ戸惑いました。板熊達は自分を金ずるとしか見てないので、初めて何かを要求されたのだから、戸惑ったのだと思います。

 

「ああ、これね」


 しばらく間をおいてから、誓約書が渡されました。

 誓約書は手書きでしたね。内容は今後危害を与えない事と金銭の請求を行わない事、それを同意する事が記載されていました。

 正直、誓約書なんて大層な物にも呼べない物です。字も汚かったですし、印鑑もサインもなかったですから。

 しかし危害を与えない事と請求しない事を誓うとはっきり書いてますし、手書きです。後々反故にしてきても執筆鑑定をタネに対抗できるする事が出来るので、誓約書としての効力はちゃんとありました。


「んじゃもらってくよ。はいお金。これで最後だからな」


 50万という大金を罰当たりにも、板熊達に放り投げ、自分は誓約書を折りたたんでズボンのポケットに入れようとしました。


「待てよ、その誓約書は俺達も必要なんだ。持ってくなよ」


 ポケットに入れる直前に、芝崎から抑止されました。


「なんでよ?」


 当然自分は尋ねます。そもそも金出してるのは自分なので、貰っていってもおかしくないはずなのに、そんな事言われる筋合いがないので。


「それないと俺達もヤクザから身を守れないんだよ、返せよ」


 結構もっともな反論をしてきました。一理あります。なので芝崎の要求を飲む事にしました。正し……


「んじゃ返すけど、コピー取るから、コンビニによらせてよ」


 このまま誓約書を持ってかれたら、自分は身を守れないので、そう要求しました。

 そしてこの要求は多分。奴らには想定外だったのでしょう。直に「分かった」と返事は返しましたが、声には覇気もなく、明らかに戸惑いを感じ取れました。

 これは自分の憶測ですが、奴らは多分誓約書を見せるだけにして、誓約書そのものは回収して、それ以降は自分に誓約書が無い事をタネにまた金をだまし取る予定だったと思います。

 ですがコピーを取るなんて頭の回った事をやるなんて想定してなかったと思います。馬鹿なカモにしか見られてないので。

 なので奴らはとてつもない愚を犯したんです。


「コピー取る前に俺らもちょっと予定有るから、少し車降りていてくれない?」


 自分はそう言われ、車から降りました。唐突に用事があるなんて言われたので多少は戸惑いましたね。

 この時、異変がありました。車を走らせると思っていたので降りないと思っていた、板熊、芝崎の両名が車に降りていたのです。

 不思議に思っていると、芝崎が車の助手席のドアを開け、車内を見せない様に壁の様に立っていました。

 かなり不審な動きです。何をやってんだ? 当然そう思いました。

 そしたら異変はまだ続きます。芝崎の後ろ。つまり車内から、白い煙が上がってきたのです。

 最初は煙草の煙だと思いました。二人とも喫煙者だったので。ですが明らかに煙の量がでかい。煙草の煙の様な筋に沿った煙でなく、周りに広まっていく煙です。

 まさかと、思い、芝崎を退かし、車内を確認しました。


「ちょ、ちょっと何すんだよ!?」


 芝崎がほざきましたが、その場は無視しましたね。そして自分の思ったまさかはそのまさかでした。

 案の定。板熊が、車内で誓約書を焼いていたのです。


「何やってんだよ!?」


 自分は吠えます。言うまでもなく感情は怒り状態。ブッチギレ状態不可避でした。


「チッィ」


 板熊はあろうことか舌打ちを噛ましました。腹正しい行為です。

 そして履歴書を焼き、それを見られて行った舌打ち。この二つで自分はようやっと目が覚めたのです。そして確信しました。自分が騙されている事が。


「いやさ、もうヤクザの事は忘れたかったから……これあると嫌でも思い出すじゃん」


 信用皆無。そして詐欺師と見ている自分に対して、この矛盾と無知がハイブリットした返しを板熊はしてきました。大馬鹿ですね。つい数秒前の発言も覚えてない鶏程度の知能しか無い事が分かりました。もっとも自分はそんな鶏程度知能に金をむしり取られていたのですからもっと大馬鹿です。


「はーん、あっそう」


 適当に返しました。本当はだまし取られた怒りがこみ上げるはずですが、ここ最近ヤクザに脅されていたので度胸が完全に委縮しており、ある可能性を考え、冷静に受け答える事を自分は思いついたからです。

 その可能性は「殺されるかも知れない」という考え。だって小学校からの友人を騙して金を得ようとする相手。冷酷非道な相手です。口封じに自分を殺しに来ても不思議ではない。

 なので板熊達の痛ましい程、無知で馬鹿でノータリンな言い訳も「そだね」とか「はいはい」みたいな感じで、適当に流してやりました。

 幸いにも向こうは自分の事をマヌケなカモにしか見てなかったので、恐らく「信じて貰える」と思い、凶行には出ませんでしたね。他にも理由があったとは思いますが、もし自分が書いた通り、本当に信じて貰えたと思っていたなら、板熊達は底なしのマヌケですね。


 とは言え自分に疑心が蔓延っているとは思ったのでしょう。無反応に申し訳ない程度の添え物にしかなってなかった、返しだけならそう思われても仕方ないですが……

 奴らは以前うまくいった、『酒飲みに行こうぜ作戦』に出ました。ですが自分は「仕事あるからパス」の一点張りで丁重に返してやりました。書いてて思いますが、当時の自分、超カッチョイイっすわ。

 数分間、奴らも粘って誘いましたが、自分は断固誘いには乗りませんでした。しばらくして、奴らも諦め、その場は解散。自分は奴らか解放されたのです。酒に負けない和大雄……我ながらかっこいいですねぇ。

 

 そして今回の毟りが最後の毟りとなります。あのド無知なカス共から毟られことが終わり、自分はようやっと反撃に出るのです。


 しかし……若すぎました。知らな過ぎました。

 自分の行った反撃は、低火力、高燃費といったゲームで言うとこの「ネタ技」の域を出ない、お粗末なお返しでした…… 


 

 

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