第17話親に頼む
頼まれていた額である5万を手に入れる為、結局自分は親から金を借りる人にしました。ちなみに父親は既に他界しており、母親に頼るしかありません。
当然ながら全部さらけ出して事情を説明する事は出来なかったです。お金がいる理由は職場で備品を破壊してしまい、支払いを頼まれたから。というかなり幼稚な嘘で誤魔化しました。情けない……
そんな情けない嘘にも、親は信じてくれて、5万を深く追求することなく、貸して貰えました。本当に感謝しかなかったです。
しかしその5万も何の躊躇いもなく、板熊達に渡してしまう当時の自分。書いててイラついてくる甲斐性の無さ。
しかし渡す前に何度も念押しし、今月はもう無理だからこれっきりという自分の金銭状態に対して、奴らも無理は言ってこなかったです。その月はこの支払いだけで音沙汰はなくなりました。
これでもう安心。何度目だよと言いたくなる、安堵をしつつ日が過ぎていきます。実際この期間は奴らも悪いニュースも言わず、金をせびらなかったので、ようやく事態が収束したと勘違いしてましたもの。
ですがパチンコ店の給料日に事態は動きました。
パチンコ店の給料日に自分は何時もの様に、消費者金融に月の返済額を支払っていました。
しかしこの時は仕事の内容が極めてハードだったので、心身共に疲労困憊しており、頭の回転がよろしくなかったです。
その為、あるミスをしました。それは三社の内の一社、プロミスの支払いを忘れていました。ですが、この時自分は全ての会社の支払いを終えた物と勘違いしたのです。
更に言えば、プロミスの契約の仕方が良くなかったです。消費者金融では支払いが遅延した際の報告と遅延金の要求をする際、報告手段が選べます。
電話と専用サイトによる通達と、自宅にダイレクトメールを送るタイプの2種類です。当時の自分は、サイトにアクセスするのが面倒だったので、ダイレクトメールで登録していました。
ちゃんと支払えばいいだけの事。そんな浅はかな考えで、手間を省く為にそっちにしたのです。
ちなみに遅延が発生した際はちゃんと消費者金融側から電話での連絡がありますが、当時の自分はプロミスの電話番号を電話帳に登録しておらず、更に見知らぬ番号をかけないでいました。ヤクザ絡みのもめ事の最中だったので、変な警戒心が生れていた為、プロミスからの電話を全部無視していました。
その結果、契約通りにプロミスからダイレクトメールが送られました。そしてそれを始めに見たのは、自分ではなく、親でした……
当然親は心配の余り、激怒。いつの間にか消費者金融から金を借り、しかも返済を呆けているのですから、心配になりますし、怒りもします。自分に詰め寄り、何故借りたか? 借金は他にもあるのか? 何に使ったかを聞いてきます。
自分はこの時も、情けない事に嘘をつきました。消費者金融でお金を借りた理由は遊ぶお金欲しさ。他には借りている金は無い。金の使い道は飲みやパチンコなどにと、奴らの名前は一切出さなかったです。出していればまた少しは変わってたとは思うのに……
約2時間程説教を受け、こっびっどく叱れます。20前半にもなって何やってんだか……
そして親は自分が思ってもみなかった事を口にしました。それは消費者金融で借りている金額全てを支払らうという、とんでもない事でした。
自分も最初は躊躇いましたが、キツイ毎日が楽になると思い、この話に乗りました。
最もその際、借りている消費者金融のカードを全部見せられ、いくら借りているかは、ばれましたがね。当然ながら額を見て、更に激怒でした。
何度も二度と借りるなと言われましたが、金は用意すると言ってもらえ、期待はしましたね。
そしたらなんと後日、家計的にそう裕福ではなかったですが、100万もの大金を用意してくれました。このお金で、消費者金融の借金をなくせと言ってくれました。
100万の札束をこの目で見た時は、涙が出るくらい嬉しかったのと情けなさが混合して涙腺を刺激してきましたね。今でも本当に感謝しています。
そして後日、親に借りた100万を使い、消費者金融から借りたお金全額を返済いたしました。これにより、多重債務の泥沼から一旦は脱出できました。あくまで一旦は……
◇
返済を済ませた約一週間後、板熊達から連絡がありました。
内容はまた、車で話すという物でした。電話を受けたのが、パチンコ店のバイトが始まる数分前だったので、特に追及せず、口約束だけして、電話は切りました。
そして仕事が終わり、帰宅中に板熊達と再会しました。
会ってすぐに異変に気付きました。板熊の右目付近が青く変色しており、更に膨れ上がっていたのです。
それだけではありません。口周りも切り傷が至る所にあり、顎から首筋にかけて、血が垂れた痕までありました。明らかに暴行を受けた痕跡です。見ただけで痛ましすぎて、自分が青ざめそうな程に手ひどくやられていました。
「ちょっと、何があったの!?」
あまりにも凄惨な姿に思わず声を出してしまいましたね。
「あ、ああ……ちょっとね……ここで話すのもなんだから、車の中で話そうよ」
板熊がそう言って車の中に入る様に言ってきました。自分も正直、公共の場で一目見ただけで暴行を受けた人間と話すのは抵抗があったので、その意見に賛同し、特に考えもせず、車に乗りました。
車に乗って約1分は沈黙でした。自分も話を切り出そうとはしていましたが、いかんせん声が滅茶苦茶かけ辛かったです。空気が重く感じたので。
板熊達も嫌な事があったと思わせる様に、沈黙していました。
重く澱んだ空気に耐えかね、自分は口をあけました。
「……何があったの?」
色々と聞きたかったですが、あの時はこれが精一杯でした。
「いやさ……実は例のヤクザどもにやられたんだよね……」
「……」
板熊が口を開きます。そして帰ってきた答え。正直予想してた通りでした。自分を呼び出す理由と、板熊に暴行を与える奴で思い当たる節はヤクザしかなかったので。
「なんでやられたの?」
また金をせびられるかも知れない。そう思って、ちょっと呆れた感じで自分は聞きます。
「……前の支払いの後、期限切れって言われて、ぶん殴られたんだよ。更に金持って来いって言われたんだよ。それで……」
大方の予想通りでしたね。恐らく奴らも自分から金をかっぱるのに、ヤクザを口実で使うには限界が来てることを悟っていたと思います。そこでまた殴られた後を見せつけて、お金をせしめようとしていたんだと思います。
ですが自分もいい加減うんざりしてました。もう100万以上の金を支払ったのに、子供の駄々の様な言い訳で金を要求されて、耐える方が無理でしたね。
その為、この時は強気に出ました。もうこれ以上関わりたくなかったので。
「んで、俺にまた金を用意しろと、あのさ……いい加減にしてくれよ。ガキじゃねーんだからさ。そんなんで今後も払い続けてたら、一生毟られるだけじゃん。もう警察に話つけようよ」
今までずっと拒んでいた、警察の介入。これを自分の方から提案しました。
もうこれ以上毟られるのは嫌でしたし、額も額でしたし、暴行の証拠もある。こんだけ悪どく立ち回れば、重罪になる。偽りとはいえ、自分が恐れていた強姦罪にしたって、こんだけやられれば罪が軽くなる。そう思って切り出しました。
「ちょっと待って、それはヤバイって」
芝崎が慌てて口を出します。
「なんで?」
「実はもうヤクザ共に俺達の住所が割れてんだよ……もしチクったことがばれたら、何するか分かんないんだよ」
芝崎がそう言って、自分を止めようとしました。
「でもこのままじゃラチあかねーだろ」
若干キレ気味に自分が返しました。ヤバイのは確かでしたが、ここで行動を起こさなければ、一生 このままだと本当にそう感じ、下がりはしませんでした。
「それはそうだけどさ……金で解決できるなら、その方がいいよ。俺達まだ20前半なんだからさ、これから金だって稼げるよ」
突拍子のない事を芝崎がほざきました。これから稼げるとか言いますが、今このままヤクザに巻き上げられてたら、それこそ一生そんな機会は無い。だからこそ、傷がついてでも、警察に頼むべきだと考えるのが普通です。寧ろその若さってのはやり直し易いからこそ、罪を受けて出も、警察に助けをもらうべきなのに、まるでヤクザを庇う様に使うので、頭に来ました。
「バッカじゃん。そんで、ヤクザどもにまた金出すの? んでまた殴られて、金せびられるの繰り替えだろ。もうウンザリなんだよこっちは」
今までたまりに溜まった鬱憤が爆発したのを覚えています。血管をぶち切らん限りにキレましたね。ヤクザ共もですが、どうにかして金を支払わせようとする板熊達の態度にも限界が来てました。
「……」
板熊達が黙り込みます。しばらくして口を開きます。
「本当にゴメン。でもこれで最後にするから堪えてくれ。今年さえ乗り切れば、来年から企業に就職するからさ、必ずお金を返すから」
板熊が口を開くと同時に、頭を下げて来ました。そしてこれで最後と強く強調して来たのです。
ですが、以前もそう言って結局終息出来ていない。その為、いくら頭を下げても、許しを問うても、信頼が欠けています。うっすぺらい言い訳にしか聞こえませんでした。
「いやいや、前もそう言ってこのザマじゃん」
思ったままの事を、返しました。
「これ以上は本当に迷惑かけないからさ、頼むよ」
以前同様、ラチが空かない展開になってきたのを感じました。このまま水掛け論が続くと思い、自分は行動に出ました。
「もういい、降ろして」
「え?」
「もうウンザリだから、車から降ろしてくれ。後、今後電話掛けてこないでね」
ここでようやっと奴らを突き放す事にしたのです。さっさとやればよかったのに。
板熊達はしばらく沈黙していました。ですので自分は「早く降ろせ」や「さっさとしろ」と強く突き放します。
これが思いのほか、効果的でしたね。芝崎も何を言ってももう無理だと察してか? 直に車のロックを外しました。
外したのを確認した自分は直にドアを開け、車から降ります。すると板熊も降りて、自分を引き止めて来ました。
「待ってよ、落ち着こうよ。和大雄の住所だって割れてるんだよ
。ヤバイって」
「だからこそ警察に頼むべきだろ。このままお前らに金渡したって、解決しないのはもう分かりきった事なんだよ」
引き止める板熊に対して、声を荒げて、突き放します。すると板熊が思ってもみない事をしました。
「頼むよ、俺も内定取れたばっかりだから、警察沙汰になる訳にはいかないんだよ。頼む、この通り」
そう言いながら、板熊は頭を地に付けました。いきなり土下座をして来たのです。
流石に困惑して、声のトーンを下げます。
「……みっともないから止めろよ」
そう言っても聞き入れませんでした。ひたすら、頼む、お願いだの繰り返し。段々うざったるく感じましたね。
それが何分も続いたので、自分は結局根負けしてしまいました。
「……分かったよ」
「え?」
「分かったよ……払うよ。だから頭上げてくれよ」
「ほ、本当に」
板熊が慌てて頭を上げて、目を合わせて来ます。その眼は少し潤んでいましたね。
結局その後はいつもの通り、支払う話に持ち込まれ、解散となりました。ですが、自分はこの時、嘘をついていたのです。
実はもう払う気なんて一片もありませんでした。電話をかけて来るならば、すべて無視する。もし家の近くに張り込んでいるなら警察を呼ぶ。そう覚悟してました。
もう友情とかが冷めるには十二分な額でしたし、何より、何とかすると言っておいて何度も、解決できなかった板熊には信用が既になく。酒を誘われ様が何され様が、縁を切るつもりでしたので。
ですがこの行動によって、奴らは自分にとてつもない迷惑を被ってきました。それ故、自分には、ようやく奴らと戦う意思を持つに至ったのでした。
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