第12話周りの人にお金を借りる②

 店長にこっびっどく怒られ、ようやく己の過ちを理解した自分。猛省し、二度としないと心に誓いました。

 しかし既に遅かったのです。自分はお金を手に入れる為に、形振り構わず声をかけた事により、お金に対してだらしがない無計画な人間という認識をスタッフの皆様に自分から無意識にとはいえ擦り込んでしまいました。

 結果、この職場での自分の評価はガタ落ち。親しく話せた人からも距離を置かれ、非常に居づらい職場にしてしまったのです。

 詐欺の件が落ち着くまではこの職場にいましたが、結局長くは続かず、数か月後にやめました。自分で蒔いた種なので、そうなるべきだとは分かりますが、親しんだ人達から急に距離を置かれるのは辛かったですね……


 ですが自分の犯した愚はこんな事ではカタが付きません。自分はもう一つの職場、派遣勤務の倉庫現場でもスタッフの方から金を借りようとしました。そこはもっと酷い事態になっていました。


 派遣勤務先の倉庫はスーパーなどで置かれるインテリ家具等を管理する職場でした。テーブル然り、机然り、大きくて重いので一人では運搬できません。

 ましてや大切な商品ですので、傷1つ付けることも許されません。なので何人もの方が一丸となって慎重に運ばないといけません。

 つまりこの職場も『連携』が必要なのです。そして連携は信頼なくして生まれません。

 更に言えば、派遣社員である自分に対して、現場の責任者が甘く見るなんて、パチンコ店の店長と違い、ありえない事です。パチンコ店の場合、アルバイトといえど会社の一員には違いありませんでしたので、多少甘く見ないと他のスタッフにも影響します。対して派遣社員の場合、問題ある人間に関しては替えが効くので切ればいいだけです。寧ろ切らないと示しがつかないのです。派遣という立場からか? 勤務に対してやる気のない人間が多かったので、この現場の責任者の方はよく問題ある人を派遣の大元に報告して、来させないようにしてました。替えは幾らでもいましたので……

  

 極めて給料の良い職場だったので重宝してました。やめる気は全くないほど。

 ですが既に自分は問題を起こしていました。そして自分が幾らやる気があっても、現場の人達には、関係の無い事でした。

 それを理解できたのは仕事のシフトを入れようと派遣本社に電話を入れて連絡した時でした……


――問題を起こした者は送れない。


 そう言われました。既に信用に関わる重大な問題を自分がやっているからこそ言われた言葉です。

 この言葉は本当に傷つきました。自分で言うのもアレですが、自分は仕事が出来る部類の人間だと自分は思っていました。そんな中でクビになるなんて思ってもみなかった事ですからね。


 パチンコ店と派遣の一件で自分は痛い思いを嫌ってほどしました。月のお金に関わる事なので痛恨と述べるほどの傷です。

 そして20前半にしてやっっと学んだのです。お金とは『信用』だということを。

 消費者金融は返済能力の無い者には契約しません。それは『信用』がないから。

 友人達だって、貸そうにも理由も都合も分からなければ『信用』出来ない。だから貸せないのです。

 こんな当たり前の事を自分は20前半という結構な年齢で初めて学びました。本当に情けない。

 両親も学校の先生も、必ず教えていたはずです。お金に対する信用の問題は、生きていれば必ず経験する事ですから。

 なのに自分はそれを真剣に聞こうとも覚えようともせず、痛い目を見てから反省して学んだのですから……毟られてもしょうがないのかもしれませんね。

 しかしこの学びはこの一件に置いて、自分が抜けだせるきっかけにもなりました。


 後日、板熊に要求されていた5万を以前と同じく、芝崎の車の中で渡した時でした。板熊は「足りなくなった」と言ってきました。

 板熊の要求金額は20万。いきなり4倍になります。

 当然自分は板熊を責めますが、前回同様、ただ謝るだけでした。増えた理由も板熊達がお金が無くなったと何時もの流れでした。

 その時も自分は早朝に派遣の仕事(別の現場)があったので、早く切り上げたい気持ちがありました。ですが。


「いやいや、お前らが払うって言ったんだから、筋を通せよ。払えないから頼むなんておかしいだろ」


 そう言って、自分は奴らに反論しました。この時ばかりは引き下りませんでした。

 やっと学びましたからね。お金とは『信用』だと。そして自分はこの2人に対する『信用』が無くなっていたからです。

 しかし彼らも引きませんでした。


「警察沙汰になったら、皆やばいんだから助け合おうよ」


 板熊はそう言って返します。助け合うとか……何様だと思いますね。その時もそう思いました。だからこう返しました。


「助け合うとか言う前にやれる事やってから頼めよ。芝崎だって、こんないい車あるなら売るなり、担保にして金を借りるなりしてから頼めよ」


 自分が以前から思っていた事です。詐欺だと疑って無かったのは自分の甘さですが、これでも当時の自分にしてはマシな反論だと思いたい。

 ただこの返しはそれなりに効果がありました。二人ともだんまりになり、首を下に傾けてました。目は渋柿食べた様に締められてます。険しい表情のお手本。てな具合です。

 それを見ていた自分は二人とも反省して、お金を出すと思いましたとも。内心鬼の首を掴んで「してやったぜ!?」とか思ってた具合です。

 そんな浮れてた自分に対して二人はこう返しました。


「……分かったよ。和大雄の言う通りだ。やれるだけの事をしてから頼むよ」


 正直驚きました。本当に効果があったのですから……

 自分は多少キョドりましたが、負担が減ると思い、喜んでもいました。その為こう言ってしまいます。


「頼むよ。でも本当に厳しい時は俺も何とかするから」


 まったくもってド甘。こんな事では毟られて当然ですね。

 そして結局彼らの言葉を信用してしまい。その場は解散しました。何故突き放さなかったのか……若気の至りなんてレベルじゃ済まされない不始末具合です。

 その甘さ、食われました。奴らは当時の自分よりも一枚も二枚も上手でした。そして金が『信用』である事を知っていたのです。

 ここで食い下がらず、素直に引いたのは、自分が板熊達を信用してない事を分かったからだと思います。その為奴らは手を変えて来ました。



 車とのやり取りから約3日後。翌日が休みの日でした。仕事が終わり、帰宅中に板熊達に呼び出されます。

 自分は正直、あんまり会いたくはなかったですが、どうしても会いたいと言うので何時もの様に自宅付近のコンビニに向かいます。

 コンビニ着くと、何時もの車があり、板熊達もいました。そして板熊達と軽く挨拶し、車に乗ります。

 この時自分は二人を信用してませんでした。ですので、また金が無いと言っても出さないつもりでした。

 それを察していのか、車に乗ってすぐに奴らは想定外の行動をしてきました。


「はい和大雄。この前借りた金。なんとか見繕えたから今のうちに返しとくよ」


 なんと芝崎が運転席から上半身を傾け、お金を渡してきたのです。

 これには当時の自分も驚きます。帰ってくることは無い金だと思っていたので。 最も、なんで帰ってこない金だと思ったか? 当然信用が無かったからです。ですから奴らは払ったのだと思います。

 渡された額は5万。今までの支払いから考えれば全然な額ですが、大金には変わり有りません。おいそれと稼げる額ではない。


「……どうやって稼いだの?」


 当然疑問を感じる自分。そう返しました。

 芝崎は言葉を詰まらせる事なく、直に返してきました。


「いやさぁ、俺も板熊と同じ様に、ゲイバーで働き始めたんだよ。池袋にある所なんだけどさぁ、仕事入れまくってなんとかしたのよ」


 以前板熊が何とかすると言っていた時に働き始めたと述べていたゲイバーに働き始めたと言う芝崎。若干信用出来ませんでした。

 ですが手元には金がある。言葉なんかよりも遥かに説得力のある物です。額も5万と現実味のある額でした。

 ただ自分からしてみれば、今回のヤクザの一件を何とかして欲しかったので、そっちがどうなったか気になりました。そしたらそれを察したのか、板熊がこう言ってきました。


「ああ、ヤクザどもの件は安心しなよ。俺も働きまくって何とかしたし、親にも幾らか借りたから」


 自分が言葉を出す前に、そう言って来たので、自分は「ふーん」とだけ返してしまいました。更に。


「俺もこの車は仕事で使う奴だから、売る事は出来なかったけど、知り合いから車を担保として金借りれたからさ」


 芝崎も板熊に乗っかり、金の出どころを伝えます。そして板熊は更に畳み掛けて来ます。


「んでさ、今まで和大雄には迷惑かけまくったからさ、今日はその詫びをしたかったのよ。これから飲み行こうよ。勿論俺らが全部出すから」


 まさか、そんな事を言うなんて、当時は思いもよりませんでした。

 ただ、今なら分かります。奴らは自分が疑い始めているのを分かっていました。だからこそ信用回復を行ってきたのです。

 今思うとやり方が上手かったと言わざる得なかったです……最初に御託を並べず、現金で表して来たのは物の道理を知っている証でした。

 結局自分は2人の言葉を鵜呑みにします。追及せず、飲みに行くことにしました。返済の為、重労働と禁欲を重ねていた当時の自分は久ぶりにお酒が飲めると、喜んでいました。

 そして車は走り出します。より栄えた場所に移る為に。その中で自分はせっかくこの泥沼から抜け出せる糸口になった板熊達への不信感が、繁華街に近づくにつれ、削れっていたのです……




 

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