第11話周りの人にお金を借りる①

 車で再度の支払いを頼まれてからおよそ3日ほどして、板熊から電話がありました。内容はいつも通りの「金が無いから用意して」でした。

 この辺りから、彼らも配慮が無いと言うか、見境が無いと言うか、遠慮知らずに言ってくるようになりました。

 しかし自分も、この時は反論しました。無責任すぎるとか、身勝手すぎるとか色々言ってやりましたよ。詐欺師なんだから責任なくて自分勝手なのは当たり前なのに……

 反論したお蔭なのか? なんとか支払額を10分の1である5万で決着させます。

 今までの額からすれば大きく下がりました。それでも一か月の給料の4分の1に相当する額です。十二分に大金。おいそれと支払える物ではございません。ましてや自分は100万近い借金を持つ多重債務者。消費者金融だってもう使えません。


 どうするか……悩んだ挙句、最低な物を選びました。板熊達以外の友人、知人からお金を借りようとしたのです。

 この選択は後で痛い目を見ます。それも致命な程にこっぴどく。


 そんな痛い目にあうなんて思いもしてない当時の自分は親しい友人から、片っ端に連絡を取り、金を貸して欲しいと頼みました。

 しかし頼む時に、警察に介入されたくないのと、自分が犯罪者扱いされるのが嫌で、ヤクザに支払うと言う具体的な理由は喋れませんでした。おまけに切羽詰まってると必ず言って良心に訴えかける様に頼んでました。

 理由を聞かれても、どうしても言えない、話せないとしか言えません。それで5万を貸してくれなんて言われても、誰だって貸す訳ありません。

 当然貸して貰えなかったです。そこで今度は職場の人から借りようとしました。一番やってはいけない事です。なのに何の迷いもなく頼みまくります。

 パチンコ店のアルバイト仲間から、派遣先の倉庫の人たちにと見境が無く、頼み続けます。

 結果何とかパチンコ店のアルバイトのリーダー的存在の先輩から5万を借りられる事になりました。しかも金利とかは一切いらないとまで言ってくれました。

 自分はこの先輩に大いに感謝します。そして明日にでもお願いしたいと頼み、電話を切ります。




 次の日、アルバイト先のパチンコ店の休憩室で、先輩からお金を借りる事が出来ました。返済も給料日後で大丈夫と言われ、かなり安堵してました。

 正し先輩から、「必ずこれっきりにしろ」や「金輪際、ここで金を借りようとするな」と威圧的に言われ、ガキだった自分は少しへこんでました。申し訳ない気持ちとかはなく、怒られてへこんでいるだけです。ガキもいいとこですね。


 そんなネガティブな状態で仕事をすべく、事務所に向かいます。

 事務所に向かいタイムカードを打刻し、仕事を始めようとした時でした。


「おい和大雄。ホール出る前にちょっとこっち来い」


 そう言って来たのは、お店の店長でした。店長はちょっとコワモテ系の方なので苦手でしたし、怖かったです。

 そんな店長に呼び出しを受けたので、自分はしぶしぶ店長についていきます。

 ついていくと休憩室につきました。休憩室はその時、誰もいなかったので店長と二人きりでした。正直怖かったです。


「とりあえず席座れ」


 店長が休憩用のパイプ椅子に座る様に指示され、自分はその椅子に座ります。

 しばらくして、自分の真正面にパイプ椅子を置き、店長がそこに座ります。距離にして1mしか間が無いので、ビビりました。

 緊張+ビビり状態の自分の前で店長が、第一声を上げます。


「お前、うちのスタッフ達から金借りようとしたろ」


 高圧的な声でした。更に自分はビビってしまいます。

 しかし返事を返さないと、後が怖いので自分は小さく頷きながら「はい」とだけ返しました。

 すると店長が怖い顔を更に強張らせて言いました。


「馬鹿野郎!! 職場で金の貸し借りなんてやっていいと思っているのか!? 周りの事を考えろボケ」


 怒鳴り散らしてそう言ってきました。マジでビビりました。

 しかし当時の自分にはなんでこんなに言われるかが分かっていませんでした。その為、きょどって「はい」としか返事が出来ませんでした。

 その後もコワモテ店長から説教を受けます。自分は終始オドオドしていましたね。


 店長は何度も言っていました。

 

 職場は1人で仕事する場ではない。

 だからこそ連携が大事。

 連携にはチームワークがいる。チームワークには信頼が不可欠。

 金の貸し借りは信頼をなくす。借りようとも、返そうとも、頼んだ時点で無くなる。何故なら借りれなければ、お前は貸してくれない者の評価を落とす。その時点でチームの輪に1つひびが入る。貸さない方もお前を情けない奴だと思う。また1つひびが入る。

 例え貸した人がいても返してくれるか不安になる。結果ひびがまた1つ入る。

 そして周りは、お前をそういう人間だと思い、信頼できなくなる。

 

 高圧的な言い方で、何度も言われました。

 言われている内に、自分のやった事が如何に愚かな行いだったかを理解しました。そして猛省しました。

 店長の言う通りで、職場での金の貸し借りは、職場全体で自分の評価を落とす者でした。当然でしょう。金が無いのは金銭感覚がおかしい証拠です。もしくはどこか抜けている証拠です。

 そんな人間に大事な仕事を任せられる訳が無い。そんな人間と仲良くすれば、いずれはお金を貸せと言われると思うのが普通なのです。だからこそ近寄りたくなくなる。連携が必要な職場で、避けたい人が出来た時点で大問題なのです。

 当時の自分は言われるまで、そんな簡単な事を分かっていなかったのです……本当に情けない。

 言われて初めて愚に気づき、反省します。反省してると思い、店長も言葉を和らげて、二度としない事と、スタッフ全員に謝る事を約束に、説教をやめました。

 正し、その日は反省文を書くように言われ、それを書いて、スタッフの皆さま全員に謝罪する事になり、仕事はさせてくれませんでした。当たり前です。クビにしない分、店長は優しい人間だと今は思います。


 猛省し、親しい人からお金を借りる事を自分はやめます。

 しかし手遅れでした。やってはいけない愚のツケをこの後、自分はイヤってほど味わう事になります。


 

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