第9話多重債務②

 自分の残り預金40+サラ金経由の30=70万を持って、予め連絡を取っていた芝崎と合流する自分。

 親友と自分のピンチを乗り切れる現金を手に入れたこともあり、この時の自分は浮かれていました。


「おっす芝崎。例の者、用意できたぜ」


「おお!? マジか、スゲーな。よくこんな短期間で」


 そりゃ金ないと言われてから、たった3日で70万も用意できる20前半の奴なんてそうはいないので、当然の驚きと反応でした。おかげで鼻も天井知らずで高々となります。


「はいよ。これで終わりにしてくれよ。もうこれ以上は俺も限界だから」

 

 気分こそいいが、限界ギリギリのお金なので本心を言いつつ芝崎に現金の入った封筒を2つ渡します。

 受け取った芝崎は現金を確認する為、両方の封筒から札束を取り出して合わせ、1枚1枚、丁寧に数えます。


「……あれ、和大雄さぁ、これ80万入ってるけど」


「あ、忘れてた」


 そう、この時生活費用の10万を、別に分けとくのを自分は忘れていました。


「悪いけどそれは今後の生活費なんだ。返してくれ」


 今後の生活も繫っているので、流石に返金する様に言いました。だが……


「あー悪いけどさ、俺も生活費無いから幾らかもらうよ」


 悪いとか言っといて表情は悪びれる事無く、平気で芝崎はそんな事をほざきました。


「はあぁ!?」


 流石に激高する自分。恐らく表情はブチ切れてたでしょう。

 

「何言ってんの? マジそれ通ると思ってんの?」


 声には明らかにキレた元を混ぜて発言しました。実際、本気でこの返しにはキレましたので。金が無いのはこっちも同じなのに、本来、芝崎が支払うべきお金を自分が支払って尚、金をよこせと言う。しかも生活費に使うと、キレない方がおかしいと思います。


「何キレてんだよ!? しょうがねーだろ。あの場は後先考えられなかったんだからよ!? 有り金全部使ってんだよ、なくてあったりめーじゃあねぇか!? そもそもお前さぁ勘違いしてない? 俺達があの場で心血注ぐ思いで金を出したから、今お前は娑婆ここにいんだよ」


 まさかの逆ギレ。これにはマジで手が出そうになりました。が、一番言われて弱い部分を言われました……

 確かに考えればシャバの飯を喰らっているのは二人のお蔭だ。こう一度でも思ったら、後はいつもの流れです。

 このまま喧嘩をして警察を介入させるのは嫌でしたし、これが原因で芝崎が嫌気を指して警察に逃げて警察を介入する事も考えられました。何より生活費がなく、苦痛に耐えかねて、警察に助けを求める事も考えられたのです。

 今現在なら、どうぞ駆け込んでくれ。と思えますが当時はそれが出来ませんでした。警察を介入させたくないと、一番思っていたのが当時は毟られていた自分なのがこの詐欺の一番厄介な部分だと今は思います。

 ですがこの時は反論します。たった数分前に手に入れた、反撃の素材があったからです。


「サラ金使えよ。すぐ金手に入るぞ。そもそも、その金だって、サラ金でこさえたんだから」


 そう、素材とはサラ金。この時の自分はまだサラ金がすぐに金貸してくれる施設としか思っていたので、こんなド無知極まりない返しをしました。

 まぁ分かってる人はいると思えますが、こうやって返されました。


「いやサラ金から借りられる金も全部渡したんだよ。それに俺はもうブラックリストだから金借りれないの」


 当然の様に、金は全部出していてもうない。そしてもう借りれない。テンプレートの様な返しでした。

 本来なら、ATМにまで連れて行き、金が出せないかを証明しろと言いますが、後に付け加えられた言葉で返せなくなりました。ブラックリストです。

 ブラックリストに関しては当時の自分も耳にはしていましたが、全容を把握していませんでした。ただサラ金からもう審査すら受けられない状態だと勘違いしてました。

 つまり、この言葉を鵜呑みにした時点で、芝崎を許したも同じになるのです。ですから引いては行けないのに、なのに……


「金も借りれないのか……」


 信じてしまう無知な自分。書いてて無知は本当に罪だと、しみじみ思います。

 そして結局、それ以降は強くは言えず、彼を許してしまいます。とは言え自分も素寒貧、いやマイナスなのでそれより酷い状態なので、全額は払えないので、4万だけ渡してしまいました。

 

 その後は揉めるのも嫌だったので、もうこれ以上は自分も出せない事、そして来月には必ず返すように言って別れました。


 さて、今回彼を許してしまった理由のブラックリスト。実はこれ、しっかり勉強してれば詐欺だと分かる、下手な嘘。言わば隙だったんです。

 実は消費者金融にはブラックリストなんて物は存在しません。あるのは『個人信用情報』と言われる、ヤクザ等の法的に認められていない金融機関以外ならどの機関でも視聴できる共用情報のみです。実はちゃんとした手続きを取れば、自分自身の情報も見る事が出来ます。

 この『個人信用情報』はちゃんと返済したり、期限通りにお金が支払えなくても、事情をしっかり話した上で、前に話した遅延損害金の支払いをしていれば、そうそう傷がつきません。傷が至る所についた支払い能力に信用性のない情報が、皆さんが思っているブラックリストに該当します。これを通称『ブラック情報』といいます。

 問題はこの『ブラック情報』になるまで。確かにリボ払いで契約したのに、期限通りの支払いを何度も出来なければ、傷がつきます。正し、支払い能力がちゃんとある事が分かれば傷がついてもブラックリストに該当する『ブラック情報』にはならないのです。

 なるのは一度の支払いが3か月以上の遅延を行った者、自己破産や個人再生といった、法的手段で借金を減額、もしくはチャラにする債務整理と呼ばれる処理を取った者達のみです。

 そしてこの条件に一つでも入れば、短くても5年、長ければ10年は『ブラック情報』扱いになり、消費者金融から貸し借りは出来なくなるのです。

 仮に契約中のお金があってもまず引き出せません。遅延損害金により利息が上乗せされ、お金を下そうにも業者から差し押さられており、下せないのです。

 そして債務整理をした人間は最低でも5年以上は『ブラック情報』に入っており、法的に認められた金融機関からお金を借りることなど、できはしないのです。

 

さて、この時自分は20代前半。そして芝崎とは同級生同世代。お分かりいただけたでしょうか?

 要するに芝崎が『ブラック情報』になっているなら、サラ金から借りれる金なんて1円たりともなく、「全部出した」発言には矛盾が孕むのです。仮に本当に過去にブラック情報になっていても、20前半の歳で傷がクリアになっている訳が無いのです。だって消費者金融が使えるのは20歳からですから。

 本当に下手な嘘ですね。でも騙された自分が悪いのです。アコムで契約する時にこの話をちゃんと聞いていれば、これ以上の被害は抑えられたのに、情けない話です。


 皆さまがもし、消費者金融にどうしてもお金を借りる事になった場合は、係の人の話をよく聞き、そして分からない部分はしっかり質問しましょう。

 消費者金融の人間は、多少の傷でも法的な抜け道を探し、契約出来る様にしてくれます。これは親切心とかではなく単純に商売だからです。その為、利息とか遅延金に関してはかなりほがした説明をしてきます。要注意です。

 特に金利に関しては、年収に対しての金利の説明をしてくれますが、実際の額はまず口にしません。結構な額だからです。

 それを誤魔化す様にかは分かりませんが、リボルビング方式による一回の返済にかかる金利はしっかり説明してくれます。


 引っかからない為に、説明します。

 利息の計算方法は、利息 = 利用残高 × 実質年率 ÷ 365 × 利用日数です。

 窓口の説明では、必ずと言っていいほど利用日数が30日(1か月)の場合で説明して、リボ払いの全額返済時でかかる総金額は質問したりしないと濁す言い方で説明されます。


 先の自分の場合で算出してみましょう。

 まず利用残高は40万。実質年率は約10%。これに1年を割り×30日します。

400000×0・10÷365×30=で1か月の金利は約3287円。およそ3300円です。

 こうやってみると40万の金利としては安く見えるでしょ。ですが金利だけでは返済なんて一生出来ないので返済金も支払います。

 月の支払金を13300円にして計算しましょう。先に計算した通りにまず金利の3300円を引きます。すると返済金は1万円になります。さてこれで40万返済しようとしたら何年かかります? 1年で返済額は12万ですので、最低でも3年4か月もかかるのです。これに金利の3300円を同じ年月分計算しましょう。およそ14万円です。40万の3分の1以上の額を支払う事になるのです。

 仮に1か月以内に全額返済できるのに金利が14万かかるなんて聞いて、払う馬鹿なんてこの世にいますか? だからほがすのです。ノーと言わせ無い為に。

 確かにリボルビング方式は、1か月の負担が少ないです。しかしその実、一括返済より大幅に損する作りになっているのです。

 ですので仮に皆さまが消費者金融からお金を借りる時が来たら、必ず金利に関してはシビアにみていきましょう。そして出来る事なら一括返済で行いましょう。リボ払いの場合、金利は1か月事に支払いが生じるので、一括の方が損はしません。


 さて、話が少し逸れたので元に戻します。芝崎に分かれた後はそのまま家に帰り、何事もなく1日が終わりました。

 ホテルの1件からここまで大体1週間。70万預金あった人間が、たった1週間足らずで50万近いマイナスになった訳ですが、この時の自分は、解放されたことに喜んでいました。

 それから3日後、事態が急変します。仕事終わりの深夜1時に、今度は板熊から電話で「やっぱり用意できなかった」というクソ舐めた事を言われました。

 とにかく警察の介入を避けたかった自分は結局、支払う事になります。

 そして話を終えて直に五香駅駅前のアコムに向かい、ATМを利用します。そこで今度は前回述べた一番目立つ位置にあった『契約限度額の変更』をタッチしました。そしてそこで再審査を行います。とは言えこの時画面には上限可能金額が表示ており、約10万が限界でした。

 渋々10万に変更(この時に金利も上がってます)し、それを引き出します。30には程遠い額なので、かなり頭を抱えましたね。

 そんな時、携帯電話を見てみると見たことが無い電話番号から留守電が一件入っていました。

 誰からだろうと思い、留守電を再生します。


≪もしもし、和大雄様のお電話番号で宜しかったですか? 私プロミスの稲辺(仮名)という者ですが、本日はご融資の件でお電話をさせて頂きました。もし和大雄様が金銭でお困りでしたら、当社はご投資という形でお力添え出来る用意がありますので、よろしければ一度ご連絡お願いしたく、お電話させて頂きました。折り返しのお電話、お待ちしております≫


 これが内容でした。そしてプロミスもまた、消費者金融です。

 ご投資というのは、つまりまた金が他社から借りれるという事です。

 これが多重債務という泥沼に入るきっかけになったメッセージでした……その日は既に深夜だったので電話は掛けませんでしたが、朝10時頃には、なんの迷いもなく電話をする愚かな自分の姿がありました……

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