第7話保身の為の愚行③

 結局、芝崎の分も幾らか負担する事になりました。その事を板熊に相談し、折半する形にしてもらおうと板熊に電話を掛けます。さすがに約70万近くは支払える額ではなかったので。

 言っても、折半ですら+17万近くですから約45万。アルバイトで生計を立てている人間には、血反吐を吐きかねない額には変わりないですがね。


 電話を掛けると割と早くに板熊が出ます。


「もしもし、どしたの?」


「ああ、板熊、悪いねこんな時に。実はさ、芝崎がオケラみたいでね、支払えないらしんだよ、例のお金」


「ああ、それね。俺も知ってるよ」


 板熊の返事は非常にあっさりとした物でした。自分が考えていた物とは全然違う、気の抜けた返事。まるでその事を分かっていたかの様。

 最初は戸惑いましたが、芝崎が自分より先に、板熊に連絡を入れたんだと思い、深くは考えず、話を進める事にします。


「んじゃ話は早いね。実はさ、俺も正直35万すらギリギリで、追加のお抱えなんて無理なんだよ」


「ああ、まぁそうだろうね」


 これまた気の抜けた返事。まぁアルバイトで飯を食べてる人間相手に、そこまで期待はしてなかったと思います。だからこその返事だと思いました。


「んで、悪いんだけど板熊も芝崎の分、幾らか出して欲しいんだよ」


「ああ~はいはい。うん。それは無理」


 あっさりとそう答えました。


「はあぁ!?」


 瞬時に激高したのが分かるほどにキツイ声質で吠えます。理由もなく無理なんていわれて、はいそうですか。なんて言えるほど、余裕はなかったので。強気に叫びます。


「ふざけんな!? 元はといえばお前がヘマこいて、こうなったのに無理とか許されるか!? こっちだって金が無い中用意してんだ!? 無理で片づけられるか!?」


 この時、時刻は20時。当然、家族の者も、帰宅しており、自分の大音量の罵声に気づいて、様子を気にかけます。


「ちょっと、どうしたの?」


 一回から、自分の部屋がある二階全体を響かせかねない声量で母が訪ねて来ます。ヤバイと思い、慌てて部屋を出て「なんでもない」と返し、早急にその場を鎮静化しようとします。


「何でもないなら、そんなバカみたいな声出さないでよ!? 近所迷惑でしょ!?」


 まぁ無理ですよね。母は自分の声量に加え、明らかに何かあるのに、何もないと返した事に腹を立ててました。


「ちょっと降りてきなさい。ちゃんと説明しないとわからないでしょうが!?」


 ぐうの音も出ない正論。実際自分も説明がなかった板熊に対して激怒したので言い返せなかったです。


「ちょっと今、都合悪いから後で電話するわ」


 板熊にそう伝え、返事を待つ間もなく電話を切り、親を落ち着かせる為に1階に降りていきます。


 約一時間後、親になんとか事情を説明せずにその場を収められたので、再び板熊に電話を入れます。


 しばらくして、電話が繋がり、板熊が出ます。


「もしもし、やっと落ち着いたの?」


「ああ、ゴメンゴメン。今は問題ないから、さっきの続き。払えないって、何で?」


 親とのいざこざの後なので、声を抑え、平常な何時もの声質で尋ねる自分。

 今度は抑えなくてはいけない。そう自分に言い聞かせて、板熊の返事を待ちます。


「いやさ、正直俺も金が無いんだよ。300万の内、俺ももう100万支払った後でさ、金融業者からなんとか35万は用意できるけど、それ以上はもう鼻血もでないよ」


 要するに払えない理由は芝崎と同じでした。一番最初に提示された額、300万。それを支払う為に二人は既に全財産を払ったと言うのです。

 考えてみれば当たり前。最初の提示の時、自分は十分の一である30万しか支払っていないのですから、残りの額が誰が払ったかなんて、直に浮かびます。

 浮かんだからこそ、何も言い返さなかったです。ここで反論しても板熊からしてみれば、芝崎は許すのに、自分は許されない。なんてのは、そうそう納得する訳ないと理解してしまったからです。追及しても不毛な水掛け論が待っているのは明白でした。

 その為、ため息を吐き、ただ悩むしかなかったのです。芝崎を許し、自分が受け持つと言った時点で、自分が70万受け持つと宣言したも同意義だと知っていまい、途方にくれました。


――無理だ。


 脳裏にはそれしか浮かびません。冷静になって考えども、考えども、自分の手では支払える額ではない事に行きつき、無理という、答え以外の答えに辿り着かない。

 しかし、1人が支払いを放棄し、ヤクザから危害を加えられたら……或いは警察に垂れ流して、捕まりでもしたら……どんどん悪い方に考えがめぐります。


 こうなると、もう止まりません。坂道を転げ落ちるかの如く、傷つきながら落ちてゆきます。止まる頃には、まともな思考なんてありはしなかったです。

 まともで無いからこそ、自分が何とかしないといけないと思う責任感を感じます。正し、責任感と言えば聞こえは良いですが、内容的には子供が悪さしたのを親にばれない様にする為に何とかしないとと思う気持ち、そんな低次元な発想と同レベルの代物。前に話した隠ぺいから生まれる責任感です。


 結局、「何とかする」と言ってしまい、電話を切ってしまいました。

 ここで電話を切った事は、結局板熊を許した事にもなり、今後金が無いと言われたら、自分が結局はしょい込む事を認めてしまったも同意でした。

 実際、今後の毟られたパターンは……

①板熊、芝崎が金が無い、支払えないと言う。

②理由を尋ねても、前の支払いで金が無い、或いは金融業者に借りたお金に当てる分しかないと言う。

③俺も無理だと言っても、警察にチクられる。ヤクザに殺されると言われ、脅える。

④結局自分がしょい込む。


 大体この流れです。責めたくても恩義と自分の保身が邪魔をして、結局言い返せなかったです。

 とは言え、こんなのが何回も続く訳ではなく、いずれボロが出て、気づくことが出来たのですが、それは順々に話していこうと思います。


 させ、毟られる口実を作ってしまい、実質70万の支払いを承認した自分。

 当然おいそれと支払える額ではないので、資金集めを始めます。次回からは、その資金集めの話がメインです。

 闇金以外の者は大抵手を出しました。サラ金と言われる金融業者からの多重債務。旧人に頭を下げてお金を借りる。更には新宿2丁目で売り専のゲイバーで働きもしました。


 今後はそれらの詳しい内容や、その結果どうなったかを話していきます。 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る