第6話保身の為の愚行②
板熊に現金を渡し、私はそそくさと家に帰り、床に就きます。
前日遅くまでパチンコ店のハードな仕事を行い、お酒が入っている状態で一睡もしてなかったんだから、安心できれば眠くもなります。
既に、この一件は片付いた物だと心の奥底では思っていたのでしょう。熟睡でした。眠りについたのが大体午前7時位に対して、目が覚めたのは午後20時位でしたので、貴重な休日を丸一日費やした事になります。
目を覚まし、寝起き特有のボケた頭で辺りを見渡し、煙草を探します。すぐ目の前にあったのでだらだらと煙草を一本取り出し、火をつけます。煙草を嗜みながら、携帯をチェック。すると着信履歴がなんと10件もあるではないですか。
何事だ? と思い、慌てて履歴を確認。相手は10件全て、板熊でした。
緊急の要件でもあるのか? 先の一件の事もあり、気を構えずにはいられません。煙草を吸い終わり、深呼吸して心を落ち着かせ、板熊に電話を掛けます。
しかし電話はかかりません。再度かけ直しても、流れて来るのは長いコール音と、1分たったら流れる「お繋ぎ出来ません」のアナウンスだけ。大体5~6回ほどかけて、この繰り返しだったので、電話をかけるのをやめます。口の中の気持ち悪さから歯を磨きたくなり、洗面所に向かう事にしました。
顔を洗い、歯を磨き終え、再び寝室に戻ります。すると携帯の着信音が流れていました。予想通り、相手は板熊でした。
慌てて携帯を手に持ち、電話に出ます。
「もしもし。どうしたの? 」
「おお、和大雄。いやさ、あの後の事を教えたくてね」
板熊はあの後、現金をかき集めヤクザに手渡した事、そして芝崎の身柄を解放してもらえた事、口封じとして3人で合計300万円を後に支払う事で今後は互いに関わらない約束を立てた事を教えてくれました。
それを聞いて一安心する自分。3人で100万なら一人頭35万程なので、今後の生活に支障はきたせど支払えない額ではないので、問題ないと思いました。
しばらくしてお互い、厳しい額だけど、頑張ろうと誓いを立てて、電話を切りました。
◇
後日、仕事終わりに板熊、芝崎と再会。板熊の頬は相変わらず、腫上がっていました。
そして二人からある物を書いて貰う様頼まれます。誓約書です。ヤクザの方から書けと言われたと申してました。
本来誓約書は会社に入社した際、会社に対して求められる人間である事と社会的且つ企業的に問題ある行為を行わない事、仮に行った場合、会社の定めた処理に対して異存なく受ける事を約束する物です。
個人、ましてや反社会勢力相手に業的処理もないのに誓約書を書くなんて本来あり得ません。なのに書けと言うのです。
理由は今後口封じとしての支払いを異存なく行う事、それに対して警察などの法的機関への介入を行わない事、最後にこの誓約書を記入すれば、今後の安否は保証するという事でした。契約書というよりは念書に近い理由です。
私はこの二人を信用していたので、書くことにしました。内容は上に書いた通り、支払いを異存なく行う事への誓い。法的機関への介入への禁止。そして上記を破った場合、如何なる処理に対しても異存なく受ける事。などがA4用紙上に記載されており、守られるのであれば以降の身の安全は保障される。と最後に書かれていました。
明らかにPCで書かれた物でした。そこに私は直筆で誓いますや同意します等を記入していきました。
それを書き終えると、今後どうするかの話を軽く行い、解散しました。話の内容もきっちり三人で支払う事で揉める事無く決定されました。
これで一安心だと思っていました。しかし事態は急変します。
更に後日。芝崎から電話がありました。
その内容は「金を支払えない」というふざけた内容でした。私は激怒します。声を荒ぎ立てて芝崎を罵倒しました。
だが芝崎はこう言います。「捕まった時に場を収める為に全財産支払った」と。
これに何も言い返せなかったです。彼をまだ信用していたので彼のおかげで今我が身はあると思ってしまったのですから。
やむ負えずこう述べました。
「じゃあ俺が出すよ」
と。何とも馬鹿な事を言ってしまいました。
そしてここで芝崎を許してしまったが故に、お金をかっぱがれる口実を与えた事をこの時の自分はまだ理解していなかったのです……
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