第4話美人局②
○○室前に到着し、受け取ったキーでドアを開ける自分。頭の中はヤルことでいっぱいの状態です。お酒が入っているので理性はこの時、限りなくゼロでした。
「よっし、開いたぜ」
ロックが外れ扉を開けます。本当はこのまま扉を閉めて玄関で押し倒してやってしまおうと思ってましたが、それが出来ませんでした。
何故なら既に部屋には男物の靴と女性物の靴があったからです。
「あれ?」
正直焦りました。だってそうでしょう。キーはこちらが持っているのに既に部屋が使われているなんて想像出来る訳ありません。
しばらく戸惑っていると奥から一人の男が出て来ました。その男は自分の知っている人物でした。
「あれ、和大雄じゃん。なんだ、お前もちゃんと捕まえられたんだ」
彼は芝崎。彼もまた小学校からの親友でした。彼とは板熊との付き合いを再開した時に同じくまた付き合いを再開した中でした。
彼もまた板熊同様、筋肉質のガングロで異性にモテモテで尚且つ、よく板熊と吊るんでいたのでこの場にいた事に、なんら違和感を感じませんでした。
「ちょっと待って、今出るから」
芝崎はこの時上半身裸でジーパンだけ穿いた状態でした。所謂やることやって着替えてる最中って奴ですね。
「ああ、そうだ。その子ヘベレケなんでしょ。ベットまで運んどくから先にシャワー浴びれば?」
「ああ……うーん、そうやな」
芝崎の言われるがまま、ヘベレケ女を彼に預け、シャワー室に向かう自分。今考えてみれば、芝崎が部屋にいた理由は自分が先に間違いを起こさない為の保険だったのでしょう。
「んじゃ、よろしく」
そう言ってシャワーを浴びる為、そそくさとシャワー室に入る自分。多少お預けを喰らったが、まぁ直に出来ると思っていたので、別に何とも思ってませんでした。
そしてシャワーを浴びる自分。今日の主役になると思ってた下半身の咎を念入りに洗います。ここは別に書く必要なかったけど、実際そうしたんだから書くしかないじゃないか!!
数分後念入りに体を洗った自分。いそいそと寝室に向かいます。
「グヘヘヘ起きてるかなー」
同人誌に出てくるオークの様なゲスな表情と声質で寝室に入ると……ヘベレケ女がいませんでした。
おかしいな。そう思い、あちこちを探します。寝室は勿論。クローゼットやトイレまで。
しかし彼女はいません。玄関には靴も無かったので、この部屋にいない事を気づきます。
「なんでいないんだ?」
混乱する自分。そんな中玄関から凄まじい音が響きます。もの凄い勢いでノックする音です。ノックって言うより連打といった方が正しいかな。
「おーい、早く出ろ和大雄、大変なんだ!?」
轟音の中に混じる声を聴く自分。板熊の声です。その声はなにか焦ってる感じがノックと合わさって感じられました。
「なになに、そんなに慌てて」
気の無い返事と共に、扉を開ける自分。
「大変なんだよ。やべーんだよ。あの泥酔女が目ぇ覚まして彼氏呼んだみたいなんだよ。やべーよ」
「はぁ!? なんで?」
「酔ってて、記憶ねぇーからホテルにいた事を理解してねぇーんだよ。だから襲われたと勘違いしてんだよ」
正直、意味不明でした。こうして書いててなんでこんなのに引っかかったか自分でも分からない位に幼稚な理由です。
しかし自分も酒が入っているので冷静には程遠く、更に友人(この時は)が
こんなに血相変えてあたふたしているのだから大変な事が起きていると思いました。
「なんかヤバイみたいだね」
「みたい、じゃなくてホントにヤベーの。とにかく和大雄は帰った方がいい。後は俺達でなんとかするから」
「はぁぁ!? なんでよ」
意味も分からず帰れと言われる自分。正直なんでこんな焦っているのかが謎でした。だって彼氏が来てもこっちは男三人。別に何も怖くないし、そういう暴力沙汰の気配を感じるなら皆で逃げればいい。ここで自分一人だけ帰す意味にはなり得ないはず。
そう思っていた自分を知ってか知らずか? 板熊がその理由を述べてきます。
「馬鹿お前、相手は拉致られて襲われたと思ってるんだぞ。警察に告発されでもしたら、お前だって強姦罪に処されるかもしれないんだぞ」
この言葉に自分は恐怖しました。そう自分が知らず知らずの内に性犯罪者になるかもしれないからです。
でも、それでも自分一人を帰す理由にはならない。そう思った時に板熊が畳みかけます。
「とにかくお前は帰れ。彼氏とあいつにはこっちでナシつけとくから。無関係なんだから今の内に逃げた方がいいんだよ。俺だってお前の事を巻き込みたくないんだからさ」
板熊はこう言いました。この言い方には自分を巻き込ませない様にする男気と責任感すら感じられました。正直感動すら覚えましたよこの時は。
「分かった。帰るよ。ゴメン」
「謝るのはこっちの方だよ。とにかく早くこの場を離れた方がいい」
その言葉に何も逆らえず、急いでシャワー室に戻り、着替えてその場を離れます。
◇
家に戻り、特にする事もなく。ただボーとしている自分。
寝ようとも思いましたが、不安で眠れませんでした。もし警察から電話が繫ってきたらどうしよう? もしいきなり警察がやってきたらどうしよう? そんな不安で胸一杯で何も出来ずにいました。
気が付けば、もう朝方。既に5時位になっていました。
「はぁ~大丈夫かな~」
ただ天井を眺める様にうつろう自分。そんな中携帯から着メロが流れます。
電話の主は板熊。慌てて電話に出ます。
「もしもし、大丈夫!?」
「ああ、何とかなったけど、ちょっと面倒な事になっちゃってさ……」
「面倒な事? どうしたの?」
何か遺恨が残って要るみたいだったので聞いてしまう自分。今思えば、ここでそれを聞かなければこんな事にはならなかったと思ってます。
「ああ、実はその彼氏が○×組の奴と繋がりがあったみたいで、組の奴が絡んできたんだよ……おまけにあの女、未成年みたいでさ……それをタネに脅されちまったのよ」
この言葉には本当に脅えました。
ヤクザが絡んだこともですが、それ以上に相手が未成年だったからです。未成年者保護法では、ラブホテルや自宅などに未成年を性的な理由で誘うだけでも、強姦罪が適用されます。更に、お酒を我々が提供しているので言い逃れが出来なくなっているからです。
つまり、この時点で私は強姦罪を犯しているに足り得る事をしている事になっているのです。本当にあの時は震えました。
ちなみに後日、分かった事ですが未成年もヤクザも真っ赤な嘘。少し考えれば分かる事です。ヤクザが犯罪をタネにゆすりをかけても相手が吹っ切れて警察に告発すれば罪が重いのはヤクザの方。その職業柄ヤクザは反社会勢力と扱われる為、一般人より何倍も罪が重くなるし、恐喝罪にも適用しますからね。
更に未成年者をネタにした恐喝行為はそれを進めた者の罪は強姦罪以上です。こんなリスクは本来合理的なヤクザの者は取りません。やるとしても、使い捨ての利く下の者や関わりがあるが繋がりが薄いカタギだけ。
しかし自分はこの時寝不足に加え、お酒が入っているので、そんな冷静な事を考えられません。
「ヤバイじゃんそれ。どうしよう……」
不安で胸一杯になります。恐怖と不安に全身が押しつぶされそうになり思わず息も荒くなってしまいます。
「大丈夫、なんとか和大雄の事は隠したから気にしなくていいよ。ちょっとこっちが厄介な事になったけど」
「何? 何かされたの?」
「……口止め料に300万ほど要求されたんだけど、こっちで払うから気にしなくていいよ」
「さっ、300万!!」
その額に驚かずにはいられませんでした。
思わず声が大きくなります。そしていったん冷静になり、家族にばれない様、外に出て会話を続けます。この時もっと冷静になれたらきっと引っかからなかったでしょうに……
「だから気にしなくていいよ。こっちで何とかするから」
板熊はこの時、自分の身を守る様に言ってくれました。
しかし私はこの時、別の考えが蔓延っていました。もし板熊が警察に告発すれば自分も巻き込まれるのではないか? そう思ってしまったのです。
私は彼女とキスをして、更に肘を使って胸を弄り、あまつさえ玄関だけとは言えホテルの個室にまで運んでいます。
キスから自分の唾液が摂取されれば証拠になるし、肘から汗の成分でも付着していればそれは証拠にもなる。更に個室に運ぶ所をカメラが抑えていれば言い逃れは出来ない。既に自分は逃れられないと思ってしまったのです。
この時の考えは今でも鮮明に覚えています。人間の性なんでしょうか? 自分が窮地にいると分かった途端、後の事を全部悪い方向に考えてしまう。更に自分がやってきた事を遡り、更にダメだと思ってしまう。きっと犯罪を偶発的に犯した人がそんな感じで逃げ道がないと自分で思ってしまうから隠ぺいに走ってしまうのかと今では思います。冷静に考えれば隠ぺい行為自体が犯罪で、寧ろ悪手だと分かるのに冷静さが無いからそうしてしまうんだと思えます。
そんな事を考えている内に自分も先ほど述べた犯罪者の様になります。
「……払えるの? それ」
これも隠ぺいと同じ発想。犯罪が明るみにならなければ良いと思ったからこその心配。もし払えず、板熊が限界を越して、警察に駆け込んだらこっちも捕まる。そう思ったからこそ聞いてしまったのです。
「正直厳しいけど……なんとかするよ。自分で蒔いた種だし、責任もって自分で刈るよ。和大雄には迷惑はかけないよ」
あくまでも自分を巻き込まない様にしようとする板熊。
その男気に対して自分の保身の事ばかりを考えている。自分で自分が嫌になりました。
そしてその時、脳内では保身とこの男気に応える為に考えてはならない考えをしてしまいます。
(犯罪が明るみにならなきゃいいし、板熊との友情も壊したくないし……ここで俺がお金を払えば板熊も助かるだろうし、俺にも危害が及ばない……そうだよ。お金で解決できるなら、犯罪者にならないですむのなら、それでいいじゃないか……)
「……払うよ」
「え? 今なんか言った?」
「払うよ。俺も払う。板熊ばっかりに責任押し付けたくないし、俺にだって非がある」
「何言ってんだよ!? お前は無関係だ!? 一銭も払う必要はないよ」
「そういう訳にも行かないよ。俺だって男だ。自分のケツ位、自分で拭くさ」
「和大雄……ゴメン。正直本当は俺もきつかったんだ……助かるよ……」
「何言ってんだよ。友達だろ。助け合わなきゃ。皆で何とかしようよ」
「ありがとう……」
この時板熊の声は泣いているのが分かるほど震えた弱腰の声でした。
結局、私は自分からお金を払う事を決めてしまったのです。
この時私は20代前半。今思えばこの年齢だからこそ仕掛けて来たのだと思います。ヘタに子供でもなければ、大人としての経験も薄い年頃。子供であればこんな無意味な責任、早々に放棄出来たのに、下手に大人だから責任感を感じて逃げようとしない。
そして大人として経験が薄いから、損得や利害を冷静に判断できず、友情なんて言う馬鹿げた事を良しとして捨てようとも疑う事もしない。青二才だったって事ですね。
「今からそっちに向かうよ」
「ありがとう……本当にありがとう……駅前で待ってるから……本当にゴメン」
そのままチャリに跨り、私は彼らに自らお金を渡しに向かうのでした……
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