第20話 もう来ない約束なのに
「サユリ。もう寝たのかい?。頼むから返事をしてくれ」
その晩、またケンジに呼びかけられた。山村との後、丁度アパートに戻ったところ。
さすがに疲れていたせいか、どうにでもなれと投げやりにケンジに応答した。着替えもせずキッチンに座り、どおっとうつ伏せで。
「…」
「サユリ…」
「もう、来ない約束なのに」
「ごめん。君が危険なんだ。僕のせいで…」
「どういうこと?」
「君は狙われている。君は能力が高すぎるんだ。この世界のことを君はまだ知らないけど、知らなければマズイかも知れない」
佳菜子が言った『寄りを戻したい男の古典的な』言い訳ではないか。疑りながら聞くゆりこに、ケンジは矢継ぎ早に話す。
「いいかい、僕以外のヤツが君にアクセスしてきても、絶対に応えちゃいけない。彼らは君を利用しようと考えるだろうから」
「彼ら?。わたし以外の交感能力を持った人を知ってるの?」
「ああ。サユリ、僕はずっと君のような人を探していた。やっと出会ったんだ。でも、君をこの世界に連れて行くのは良くないと思っていた。危険だと。それに…」
ゆりこは少し混乱した。ケンジの言っていることが本当だとすると、ゆりこのこれまでの認識は違っていたことになる。
まず、彼は自分以外の交感能力者に接触していたこと。そして彼は、自分の知らない世界があることを知っている。おそらくそれは、レイコから聞いた世界。
「わたしの知らない世界…?」
「そう。君の知らない世界。それに、僕は君を独り占めにしたかった」
「だから、わたしの方から会いに行きたいと言っても教えてくれなかったの?」
「まあ、そういうこと。でも、君にミセス・マーガレットを紹介しようと思うんだ。彼女なら君を守ってくれる」
「ミセス・マーガレット…」
ちょっと変? だと思った。ミスターやミセスなどの敬称はふつう、ファミリーネームで使うもの。"マーガレット"はファーストネームではないのか。
「僕たちはもう恋人じゃない。これからは友達として。それじゃダメかい?」
ため息をつくゆりこ。彼とのことをあきらめたとき、ハトの置時計も思い出の服もすべて押入れにしまいこんで忘れようとしたのに。
「お願いだから、友達として僕を信じて欲しいんだ。いいかい?」
「危険なことに巻き込まれるのは困るわ。でも、そんなに危険なことがあるのかしら?。あなたと話したりするだけ、他の人には応えなければいいんでしょう?」
「それだけじゃないんだよ、サユリ。だから、やっぱり君はもっと知らなければマズイと思う。君は"超高感度交感能力者"なんだ」
「超・・高感度・・?」
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