第16話 レイコさん
金曜日の昼、自席で仕事をこなす佳奈子の元に江坂がやって来た。
「佳奈子センパイ!。ゆりこセンパイがお休みって聞いて。お昼一緒にどうですか?」
「あら、早苗ちゃん。ありがとう。一緒に食べよ」
江坂はたいてい自分の席で野口や酒見と弁当を広げていた。今日は佳奈子と屋上で食べるつもりでいたのに、大雨であいにくの天気。仕方がないので、社員食堂で食べることにした。
天気予報によると、大陸の高気圧と南の湿った空気がぶつかり、などと説明していたが、今日の東京は午後から大荒れだ。それに、いつも明るい佳奈子が寂しげに見えたので江坂が訪ねる。
「ゆりこセンパイだけお休みなんですね」
ゆりこはよく、佳奈子と二人で休みを取っていたので、社内では二人で休むものと印象づけられている。
「何かあったんですか?」
「ん? さあ、大したことないんじゃない?」
佳奈子はしらを切ったが、何か知っているのは見え見えだ。話を逸らそうと話題をもちかける。
「ね、野口くんと、どうなの?」
まあ、持ちかける話題は当然、これになる。
「はい。この間うちの両親に会ってもらいました」
「そう!。あら、もうそこまで進んでるの」
「あ、いえ。ちょっと挨拶したいからって、彼が」
江坂はいわゆる「お父さん、娘さんを私に…」というご挨拶ではないと言いたいらしい。
「それで、お父さんがお酒自慢始めちゃって、なんだか知らないけど盛り上がっちゃって。昼間なのに二人で利き酒始めるし」
「気が合うのねぇ。良かったじゃない!」
「えへへ。まだ内緒ですから、お願いします」
「へいへい、分かってますよ」
あははっと笑い、佳奈子はご飯をパクパクと口に運ぶと、また思いついたように続けた。
「結婚? …は?」
「まだ決めてません…。けど」
口にあった食べ物をうぐっと飲み込み、先輩の佳奈子に即座に答える江坂。
「でも、やっぱり家庭を持つこと考えると、ちょっと大変だな〜って!」
「ん?」
「今のアパートは二人で住むには狭いし、都内だと高いし。あまり遠くなると通勤が大変だし」
「う〜ん、そうねえ」
「いっそマンション買うとなると、ローン抱えて大丈夫かな?とか。子供ができるとどちらか働けなくなるから、多分わたしですけど、そうなると収入が彼だけになって、子供のために保険もかけて、教育費もためて、そうすると殆ど貯金が残りません!」
佳奈子は早苗のバイタリティに驚き、同時に計算高さに意外さを感じ、ちょっと身体を引いた。
「早苗ちゃん、もうそんな計算してるの?」
「はい。それから、保育所も足りない状態ですから、ちょっと高いとこになっちゃいますから…」
「そう…ねえ」
「これじゃ、ワーキング・プアになっちゃいますよぅ。佳奈子センパイどうしよう!」
それを聞かれても、仕事のことで頭がいっぱいの佳奈子には答えようがない。ちょっと困った笑いを浮かべ、また食べながら答えた。
「ははは。わたしに言わないで。愛の力で乗り切ってちょうだい!」
江坂もつられて笑った。
その頃、ゆりこと清水は既に福岡に到着し、博多駅に近いファミリーレストランで食事を終えていた。清水はTシャツにカジュアルなシャツを羽織り、普段の彼にすれば割とラフな格好でいた。ゆりこは失礼のないようにとビジネスにも着れそうなブラウスとスカート姿。飛行機でも少し話したが、ここでも清水はレイコのことを少しずつゆりこに伝えた。
「今、彼女は母親と二人暮らしをしています。お母さんが病気がちなようで、それで自宅から離れたくないのだそうで」
「そうですか…。ちょっとムリを言ってしまったかな?」
ゆりこは自分の軽い発想に清水とレイコを巻き込んだことが良かったのか考えていた。ケンジとはもう、終わりそうなのだ。
「お母さんの具合はそれほど悪くないそうですが、夕方には病院に連れて行くそうです。それでこの時間にしたいということで」
「そうですか。あまり長くならないように気をつけます」
「そうですね。私も気をつけましょう」
清水は食事についていたコーヒーを飲み、ゆりこも同じようにカップを手にした。
「レイコさんですが、お仕事は何を?」
「東京にいる頃から今でも、アパレル関係の店員さんをしています。若者向けの。ですから、結構お洒落ですよ!」
「ファッション関係ですかぁ。良かった!、今日はこの格好で」
「どうしてですか?」
「だって、下手に着飾ってると、プロの目でチェックされちゃいます」
「ああ、なるほど!。ははは。今日の私は危険ですね」
レイコとの待ち合わせは、駅ビルのデパート入り口。時間に合わせてファミリーレストランを出た。ゆりこが申し出て勘定はゆりこが支払うと、清水は申し訳ないと礼を言った。
二人が待ち合わせ場所に着くと、大きな柱にもたれてレイコが待っていた。それを30メートルも先から清水が見つけ、手を上げる。
「レイコさん!」
昼時で人通りが多い中それをかき分け、清水は足早に駆け寄る。
「いやー、久しぶり!。お元気そうで」
清水は挙げていた手を差し出すと握手を交わす。
「センセーも!。うわー!、嬉しいわあ!」
「いやあ、どうしているかと思ってましたよ!。顔を見て安心しました」
「ホント!。会えてよかったね」
清水は後ろで二人を見つめるゆりこを照会した。
「彼女が電話でお話した、ゆりこさんです」
ゆりこはハンドバッグを両手に、ビジネス風だが喜びを交わす二人につられ、ニコニコとお辞儀をする。
「初めまして。島田ゆりこと申します」
「初めまして。レイコです。遠いところ、すいません。いろいろあって、なかなか出歩けなくて」
「いいえ!、わたし、九州は初めてなので、ちょっと楽しみでした。よろしくお願いします」
ゆりこに対して、さすがにレイコも落ち着いて挨拶を交わした。
「それじゃあ、静かな場所に移動しましょう」
清水は事前にホテルのロビーをインターネットで探してあった。そこへ向かうタクシーの車中、清水とレイコは現在の生活や東京の変わりようを話し、ゆりこもそれに加わった。清水が電話で「話しやすい方」と、その通り、とても朗らかな彼女に、ゆりこはほっとした。
ホテルのロビーに到着すると他に目移りするものが無くなったせいか、レイコが身につける若い女の子のファッションが際立つ。周りの男性が皆振り向くような可愛さ、ノースリーブのワンピースから伸びる白い肌にウェーブのかかった髪がとてもお似合い。ゆりこと同じような背丈だが、モデルのような彼女の可愛さにゆりこは改めて今日の服装で良かったと思った。
清水が奥のゆったりした席を選び、そこに三人で腰掛ける。
「レイコさん、今日はありがとうございました」
「いーえ、こちらこそ」
清水とレイコは挨拶ごっこをしているように笑い合う。ウェイターがやって来て、注文をとった。
「では、改めて照会します。レイコさんは2年ほど前に私の診療所に通っておられた、交感能力者です。始めはそうと気づかず一般的な診断を行っていましたが、レイコさんの方から接触を求めることができることを突き詰めていくうち、交感能力という結論に至りました」
「センセーも悩んじゃって、いろいろ調べてくれたりしたの」
「そうですかぁ。苦労されたんですね」
清水は深くうなづいた。
「やはり、目の前に幻のような交感能力者が現れたとなると、すぐには分かりませんでした。レイコさんも思い悩んだでしょう」
「う〜ん。多少…ネ」
「多少ですか? はは。まあ、では。ゆりこさんは、私のところに来て半年近くになります。レイコさんとは違い、ある人物から接触を受けて交感能力に目覚めた、ということです…ね」
「はい。わたしは自分から他の人に行けないんです」
「わたしと反対なんだ」
飲み物が運ばれて来たので、受け取りながらゆりこが話しかけた。
「レイコさんが接触する相手は、決まっているのですか?」
レイコは注文したホットティーにレモンを入れながら答える。
「決まってないの。相手が集まる場所があって、そこに行くと出会える感じです」
「場所ですかぁ…どんな感じの?」
「ひとことでは、ちょっと…。静かだけど・・でも騒々しいような…変でしょう?」
「う〜ん。そこに行くのに、くぐり抜けるような、と以前お話ししてましたね」
清水は重要な部分をゆりこに伝えようと割って入った。
「そう。くぐり抜けるというか、フワフワの壁の中を進むような感じでね。抜けるとしばらく全く音のない大きな場所に出て。それから少しずつざわついてるように感じるし、誰かに触れたように感じたりもするし」
「誰かとお話しされたこともお有りですか?」
「…」
と、そこでレイコはすこしためらったように『う〜ん』と口を閉じてしまった。清水はレイコの不安を知っている。彼女は自分の体験を人に話し、執拗にからかわれたことがあった。
「レイコさん、心配は要りません。ゆりこさんが口の固いことは、私が保証します。レイコさんも同じ境遇の方とお話ししたかったのでしょうから、私としては思い思いの体験を持ち寄って、打ち解けてくれると嬉しい」
清水の言葉でゆりこは彼女の不安に気がつき、ちょっと焦った。
「あの、いえ、すみません。私のことは話さずお聞きしてばかりで」
話をまとめようと、カップを手で包んでテーブルに目を落とした。
「実は私の場合、ある人物、男性ですが、毎日のように接触して、会話していたんです」
もう一度、レイコを見つめ直す。
「すべて、正直にお話しします。その男性が好きになりました…。それで、恋人としてお付き合いしました。感覚と会話だけで。でも、すれ違いが多くなって、うまくいかなくなって。先日、別れましょうと言いました。それ以来、何日か交信はありません」
「え? そうなんですか…」
清水は意外な結果にゆりこを見つめた。
「はい。まあ、そういう訳で…、私の場合はある特定の人と会話や…。その…。キスしたりとか、ひとりの人物とだけしか接触していないんです」
「その世界…抜けた先の世界には、沢山の人がいる感じですよ」
レイコが続けて話し始める。彼女の不安や懸念は払拭され始めたようだ。その証拠に、彼女の顔には笑みが戻っている。
「沢山の…」
「わたしの感じる範囲だから、どれ位の広さとか、面積?というか体積というか、広さは分からないですけどね、わたしの周りには沢山の人を感じたこともあって」
清水は以前、レイコから聞いている話なので納得しているように頭を縦に頷く。レイコは微笑みながら、ゆりこを見つめ直した。
「わたしは会話したことがないの。本当に。ただ、話し掛けて来るから、そこに手を伸ばしてみると誰かに触ったりできます。最初は誰も服を着ていないからビックリしたり、触られたりすると恥ずかしくて振り払ったりして。でも、あの不思議な感じは何だろうって。初めのうちは、毎日のように試して。でも、だんだん今日はいけそうだな、っていうのが分かるようになって」
安心して来たレイコは、次々と自分の言葉で自分の体験を話し始める。同じ境遇の人間と初めての出会い。それはレイコにとっても内心、待ち望んでいたものだったから。
「わたしはゆりこさんみたいに、いつでもその状態になれるわけじゃないの。本当に体調がよくて何も心配ごとがないときで。だから、月に2〜3回、できるかできないかって感じ。子供の頃から好きで持っているクマのぬいぐるみがあって、その子を見つめながらスッと行くの」
「あ、わたしは最初の頃、ハトの置時計を見つめて」
「うふふ。同じなんですね!」
「そうですね。えへへ」
やっと、ゆりこはレイコと本当の出会いが生まれた気がした。
「そのときに、なんて言うか… 目に浮かぶことがあるの。空間なんだけど、ぼんやりと浮かぶ物があって、そこに向かって進む気になれば通り抜ける空間に変わってるって感じで」
清水が補足する。
「何か目標物が浮かぶ、ということでしたね」
「言葉にするとそう言うことかな?、はっきり分かりません、センセー」
聞いていたゆりこも、重ねるように話す。
「わたしは人の呼びかけに応えるだけだから、そう言う体験はないんです」
「んん。レイコさんはこちらから、つまり外に対して発信するタイプ、ゆりこさんは受信するタイプ、とでも言えるでしょうか」
どうにか理論的に言葉を結ぼうとする清水だが、二人の交感能力者の話はどちらも抽象的だ。
「戻りたくなったときは、どうやって?」
「えーっとね。そう言う気持ち…うふふ、ごめんなさい、なんか曖昧で。電話の相手と電話を切るときみたいな『それじゃあ、またね。』という感じになったときです」
「ゆりこさんはどうですか?」
「はい。同じです」
「"抜けた" としても、切断は同じなんですね」
「あっ!、そうそう!、それがね!」
レイコが思い出したように大きな声を出したので、周りの男性がここぞとばかりにレイコに視線を投げる。
「実はね、すごく長くあの世界に居たことが前にあって。抜けられなくなっちゃって」
「抜けられない?ってことがあるの?」
「そうそう。それで怖くなって」
「どのような感じでした?」
それは清水にも初耳の体験だった。
「ごめんなさい、センセー。何でもない事だと思って、センセーに話してないの。あの世界に行って帰って来たのに変わりないし」
「いやいや、構いませんよ。あなたのお話ししたい事をお話しすれば良いんですから」
「うふふ、ありがと。そうねえ、そのときは2回、通り抜けをしたのよ」
「2回…?」
「そう。故意じゃなかったけど。通り抜けた先でもう一度集中してみたら、同じように別の空間が浮かんで、そっちに進んで」
「う〜ん」
清水が理解しようと腕組みをしたところで、話し通しでのどが乾いて来たレイコは、少し冷めてきたレモンティーをひと口飲んだ。
「1回目の場所でないと、電話を切れない…。ということでしょうか」
「そうそう。わたしの体験ではそういうことかも」
「それで? どうやって抜けることが」
「誰かが私の手を引いてくれたの」
「手を引かれた…。えーと、つまり、助け出された…という」
「そうそう。多分、誰かに助けられたんだと思う。途方にくれちゃって、空間をうろうろしていたら手を取ってくれて。そしたら最初の空間に戻ってて」
「そんな体験が…」
清水はまた腕組みし、なにやら考えているようだったので、レイコとゆりこはそれぞれ飲み物を口に運んで清水の様子を伺った。
「すみません」
清水が言葉を発し、二人が注目する。
「ちょっとトイレに行ってきます」
レイコとゆりこは顔を見合わせ、失笑した。
「なんだ、センセー。考えてるのかと思ったよ。あはは」
「すみません。ははは。我慢してたので」
清水が頭をかきながらトイレに向かうと、レイコとゆりこはもう一度お互いの顔を合わせてクスクスと笑った。
「ねえ、ゆりこさん、聞いてもいい? 彼氏のこと」
「うん!。どうぞ」
二人はもう、垣根を感じていない。ずっと前から知り合いのように話し始める。
「相手の顔とか見えないじゃない。どうして好きになったの?」
「う〜ん。なんとなく。優しそうだったし、年下っぽくて、威張ってなかったし」
「ふ〜ん。わたしもね、最近フラれちゃったんだ」
こんな可愛い女の子がふられちゃったなんて。
「あなたをフっちゃう男なんて罰当たりねえ!」
「年下の子だったんだけど、更に年下の彼女作って。もう、年下はこり凝りだわ」
「同感!」
二人で笑い合っているところに、清水が戻って来た。
「すみません!。楽しそうですね」
「境遇が似てるんだもの」
清水はコーヒーを飲み干し、時計を見た。あっという間に時間が過ぎ、レイコとの約束の時間が近づいている。
「レイコさん、今日は本当にありがとう。ゆりこさん、どうでしょう彼女の体験をもう少しお聞きしたいとは思いますが…」
「とても参考になりました。ありがとうレイコさん」
レイコは肩をすぼめてちょこっと手を振った。
「そんなそんな。楽しかったです。同じ交感能力のある人がもう一人いるのって、心強いっていうか」
「わたしも同じ。レイコさん、良ければ電話番号とメールを交換しない?」
「そうそう、忘れてた」
二人はお互いの携帯電話を取り出し、番号を教え合った。清水は満足そうにそれを見つめていた。
「レイコさん、こちらの生活はどうですか? 東京に比べると」
「まあ、そうですね、やっぱり自分の田舎だから。のんびり」
「よかった。手紙やメールより、やはり一目会うとほっとします」
「センセーも全然変わりなくて。そのシャツ、渋すぎよ。もう少し若いの選んだほうがいいと思うけど」
「え? そうですか?、適当に選んだので、ははは」
いきなりのファッションチェックに清水は笑うしかない。
「お母さんの具合は?」
「うん、大丈夫。ただね、医療費はかかるし、保障はないし。ねえセンセー、この国って、わたしたちみたいな親子は助けてくれないのよ!」
「どういうことです?」
「だから、うちのお母さんはまだ年金もらう年じゃなくて、あたしは働いていて、ある程度収入があって、形だけだと大丈夫そうな親子って、なんの補助もないのよ」
「う〜ん、そうか…」
「それで毎年、わたしから税金を持ってっちゃうのよ!。頭に来るんだけど」
ゆりこは急に、レイコが立派なオトナで自分はまだまだ子供に思えた。これまで、そんな悩みや怒りなど持ったことがない。
「大変ですね。なにか出来ることがあれば力になります。電話してください」
「あら、いえいえ。ははは。愚痴こぼしただけだから。ごめんねセンセー。でも、センセーが聞いてくれてスッキリした感じ!」
三人は席を立った。レイコのワンピースのすそが太腿のキワまでめくれ、華やかな香水の香りが辺りに広がった。この空間において、まるで関心がなさそうな男性は清水くらいではないか。
表に出ると、レイコはそこから駅まで歩いて行くというのでその場で別れることになった。
「それでは、また。手紙を書きますので」
「はいセンセー。楽しみにしてます」
「レイコさん、ありがとう。お元気で」
「うん。ゆりこさんもね。今度は年上にしようね!」
「うん。モチロンよ!。えへへ」
ちょっと華奢なサンダルでレイコは横断歩道を渡り、角を曲がる前にもう一度大きく手を振ると、ビルの陰に隠れていった。
「さて。我々も帰りますか」
「はい。先生、ありがとうございました」
「なんのなんの。私も大満足ですから」
土地勘がないので、また元の博多駅に戻ることにしてタクシーを拾った。飛行機にはもう少し時間があるので、ゆりこは佳奈子に、清水は英会話スクールのグループに、お土産を博多駅で探すことにした。
「では、お土産を探しましょうか」
「先生、別行動にします?」
「ええ。私は大人数ですので、出来るだけみんなに配れるものにしますから。20分後に、またここで会うのはどうです?」
「はい。それでOKです」
「では、戦闘開始で」
二人とも、土産物売り場へ足を踏み入れた。おいしそうなものがいっぱい並んでいるので、目移りする。
「佳奈子って、お酒以外に何が好きだっけ…。あ、それならお酒でいいかも…でも、重いから却下」
あれこれ選んでいるとき、携帯にメールが入った。送信者は佳奈子。ゆりこはメールを開き、内容を少し見るなり、急いで清水の姿を探す。明太子コーナーで物色している清水を見つけ、背中を叩いて緊急を告げる。
「わっ、ビックリした!。ゆりこさんですか」
「先生、大変!」
「どうしました?」
ゆりこは佳奈子から受け取ったメールを、清水の目の前に差し出した。
「わたしたちの飛行機が…」
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