第9話 バーゲンセールで

 バーゲンセールの店に行くため、大勢の人の中でゆりこと佳奈子は待ち合わせた。雑踏が嫌いなわけじゃない二人は、佳奈子の希望でゆっくりと出掛けた。店のショウウィンドウにはセールの文字と共に、売り上げの一部が義援金に回されるポスターが貼られ、店の入り口には募金箱も設置されている。そして、高槻が見ていた新聞に掲載されていたものと同じ写真と、新聞社共催の文字。

「彼らが貧しいままなのに…か」

 ゆりこはなけなしの財布から小銭を取り出し、高槻を思い浮かべながら募金箱に入れた。佳奈子は彼女らしいと感じたが、佳奈子自身は投じなかった。

 バーゲンセールの品々はどれも可愛らしくて魅力的だったが、これと思うものは元が高いのでなかなか手が出せず、結局ひやかしで終わってしまった。まあ、予想したことではあったし、楽しい時間が過ごせたことでその場はよしとした。それから一休みしようとコーヒーショップに入り、やはり混み合った店内の片隅で落ち着いた。

「ふ〜。思ったより人が多いね」

「ほんと。みんな同じ事考えるんだ」

 セルフサービスの飲み物を口にしながら、二人とも息をついた。

「ねえ、佳奈子」

「ん?」

「あんた、どんどん忙しくなってない?」

「そうなんだよね〜。まあ、暇よりいいんだけどさあ」

「誰か増員の計画とかないの?」

「ま、そのうちあるんじゃないの? あんたこそ、新しい企画が難しそうじゃない」

「ただいま勉強中です」

 ゆりこが聞きたいのは勿論、噂のことだが、やはり彼女の方から相談してもらわないことには、詮索するのも嫌なもので。それには、始めに自らのことを暴露することが効果的なのだろうが、それもちょっと話しづらい。実在の人物かどうか知れない相手と恋に堕ちたなど。

「ケンジとはどうなったの?」

 ストローを吸っていたゆりこは、突然むせた。

「ゲホゲホッ!」

「ちょっと、大丈夫?」

 ゆりこはバッグからハンカチを取り出し、涙目で深呼吸する。

「ごめん。むせちゃった」

「あはは」

 笑う佳奈子を見るのは久しぶり。ゆりこもつられて笑った。二人ともなぜか出会いの頃を思い出し、ほっとした気分になった。

「あのね…」

「うん」

「変な話なんだけどさあ」

「うん」

「あいつに告白されてさあ」

 今度は佳奈子が口にしていたストローから吹き出しそうになった。

「それで?」

「結局あたしも好きになってたし…」

「そう…なんだ…」

「変よね…やっぱり」

 佳奈子は空を仰ぐようにちょっと考えているようだったが、何か浮かんだようにも見えなかった。

「変かな…んん、変じゃないよ。なんて言うか、変わってるけど…」

「いつか本当に出会えるのを信じようって」

「それ、すごく…メルヘンチックね」

「うん、そうよね。本当にそんなことあるのか、なんにも確信がないのよ」

 少しの間、二人とも言葉を無くした。

「先生にさ、その後どうですか? なんて聞かれたんだけど、どうする?」

「言いづらいの」

「あはは。どうして? だって、相手と仲良くなれたんじゃない」

 佳奈子が普通の恋愛のように受け取ってくれたのは嬉しかった。

「あんただから話せるのよ。他の人じゃ、ちょっと…」

「先生なら大丈夫よ。この間もちゃんと聞いてくれたし。何か情報くれるかも知れないよ」

「そうかなあ…相談に乗ってくれるかな?」

「一緒に行こうよ。紹介した手前で、あたしだって疎遠になるとちょっと気まずいから」

 佳菜子の言う通り、あまり日が空くと相談しづらくなる。

「そうね。あたしから電話してみる」

「うん。ヨロシクね」

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