第8話 予想してたけど…
季節は夏を迎え、ショートパンツとTシャツでやはり、休日のゆりこは朝から洗濯と掃除でパタパタと動き回った。掃除機をかけ終わると洗濯物を確認してトーストを焼き始める。そしてもうすぐ、彼に会える。あの告白から初めての週末デート。もう、彼とはハッキリ恋人同士なのだから…。小さなアパートの隅にあるベッドをチラと見て、目を逸らすようにコーヒーをずずっとすすった。佳奈子とは明日、二人がお気に入りにしている店のバーゲンセールに出掛けることにしている。これまで、彼女に対して隠しごとが無かったせいで、ケンジとの仲はちょっとだけ後ろめたい気持ちがあった。
朝食を済ませ、キッチンの腕枕で待っていると、彼が呼びかけた。
「サユリ、会いたかった」
「うん」
彼はすぐ、ゆりこの頬を撫で、おでこをコツンと合わせた。
「いいかい?」
「うん…」
この間と同じように、ゆりこの頬を軽く持ち上げて唇を重ねた。ただこの前と違い、唇を外してうつむいたゆりこの頬にもう一度キスし、そのまま耳元にキスした。彼の吐息で身震いしたが、隠すように抑えた。彼の髪を感じ、彼もやはりゆりこの髪をかき分けてうなじに触れる。そしてケンジが包容すると二人、衣服をまとっていないことを知覚する。抱き合うと、圧し潰された胸に彼の筋肉の動きが伝わり、うなじに注がれる唇の感触に高揚した。
「サユリ、好きなんだ。いいかい?」
「うん、ケンジ。ねえ、ちょっと待って…」
「…」
「ベッドに行きたい…」
「ああ。待ってる」
ケンジは一度、接続を切ってくれた。ゆりこは目を覚ましたキッチンからハトの時計を抱えてベッドに座り、ドレッサー代わりの小さな机に置いた。そしてベッドに身を沈めると薄い夏布団をかけ、胸で手を組む。ドキドキと大きな鼓動と共に天井を見つめたが何も浮かばず、そのままハトをめがけてケンジの元に戻った。
「ケンジ…」
「サユリ」
二人でベッドを思い描いているのか、そこは温かくて広い布地に横になったように感じた。彼はゆりこの身体に被さると、その手で小振りな彼女の胸を撹拌した。そして精一杯のキスを彼女の胸元に浴びせかけ、ゆりこを官美の中に誘い込んでいく。何も聞こえるものはなく、ゆりこの声だけが空間を漂う。乳房の先が高揚し、悶える腹にキスが這い廻ると、この空間ですがるものがないゆりこはケンジの髪に指を絡め、その身をよじった。
「サユリ…」
「ケンジ…」
そして、疑いもなく受け入れるゆりこに自信を深めたケンジは、やさしくゆりこの身体を這い上がり、彼女の中に入る。ゆりこは官能の声を押し殺し、ケンジの背中にすがる。強く優しく押し寄せる波に呑まれ、やがてゆりこが達すると、それを認めたケンジも一息の声と共にその動きを止めた。呼吸を伴った二人の声が次第に小さな笑い声に変わると、ケンジはもう一度唇を重ね愛情を分かち合う。
「気分はどう?」
「うん。大丈夫よ」
二人はそのまま抱き合い、言葉を交わし続けた。それはたわいのない、会話とはつかない言葉のやり取りだったが、こうして居られるのなら何でもよかった。
「明日は?」
「明日は買い物の約束があるの。ごめんね」
「そう」
「夜ならいいわ」
「そうするよ」
二人でフフフと笑い、キスを交わした。
「このままで接続を切りたいんだ。いいかい?」
「ええ、いいわ」
「じゃあ、また」
ゆりこは目を覚まし、辺りを見回した。ベッドの目線から見つめるいつものアパート。ハトの時計が横の机にちゃんと乗っている。けれど、掛けたはずの夏布団はベッドの下にはがれ堕ち、横向きに寝ているTシャツは背中がめくれていた。むくっとベッドに起き上がりシャツの淫れをササッと直すと、両手で顔を覆った。
「は〜っ…」
不思議と身体に何の変化もなく、昼寝から目覚めたかのような感覚。
「でも、暴れたのかしら…」
笑みをこぼしながら、もう一度両手で顔を覆い、赤らむ頬を押さえながらつぶやいた。
「こんなの先生に言えないよ…」
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