第7話 奇妙な関係(二)
それから3日が過ぎた。ゆりこは彼のことが頭から離れることがなく、次に彼が訪れたときはどうしようかと思いを巡らせていた。仕事の方は新しい企画が持ち上がり、来月から取り組む準備で徐々に忙しくなっている。残業カット令によってそのしわ寄せが及ぶのを皆気にしている。
前日、早く切り上げたお陰で今日も帰りが遅くなった。アパートに到着して荷物を片付け着替えを準備しているとき、ケンジからの呼びかけを感じた。
「あらら、タイミング悪っ」
ちょっと疲れていたし外出着のままだが、ふふっと笑ってキッチンのテーブルに着いた。
「こんな時間に、ごめんね。会いたかったんだ」
「いいの。私もそうだったから」
「そう。良かった。ね、何してたの?」
「あのね、お風呂の準備」
「そう。こんな時間に?」
「ちょっと仕事で遅くなって」
「頑張り屋なんだね。疲れてないかい?」
「大丈夫よ。気にしないで」
「ああ…」
「何? どうかしたの?」
彼は何か言いにくそうにしているので、ちょっと不安になった。
「今日は大事な事を話そうと思ってさ」
「大事な事?」
「ね、サユリ、僕のことどう思う?」
唐突に恋が舞い込んで来たようにも思えたが、大きな期待を心に感じていた。嬉しい反面、戸惑いの中に堕ちてしまった。
「…それは…」
「僕はサユリが好きだ。君はどう? 僕のこと」
「…好きよ」
正直に話せばそうなので、他に言いようがない。
「そう。良かった」
「ふふっ」
「僕と、その…付き合って欲しいんだ。どうかな」
「…うん。どう…かな」
「君の心配は僕も同じ、普通の恋人じゃない。でも、君以外に考えられないんだ。愛してる」
「うん…そうね」
「いつか本当の出会いが来て、きっとうまく行く。だから…ね」
「うん…。へへっ。そうね」
「キスしても、いいかい?」
「…うん。いい…かな?」
彼はゆりこの頬を大きな手で包み、静かに唇を合わせた。現実の口づけと変わらず彼の吐息を感じ、鼻が軽く当たった。
「今夜はありがとう。遅いから帰るね」
「うん」
「次は週末のあの時間に、いいかい?」
「いいわ。待ってる」
「じゃあ、また」
ケンジが去り、キッチンで頬杖をついて余韻に浸った。
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