monster
「ギンゲン! ゴロス! クウ!」
目の前に、突如現れた緑の鱗に覆われたそれは、背中に突き出た黒い羽のようなものを羽ばたかせながら、聞き取りにくいヒビ割れた声で叫ぶと、手にしていた大きな鉈のようなものを振り上げた。
「ギンゲン! ゴロス!」
叫びながら降り下ろされる鉈。梶尾は濱名の攻撃をかわした時と同じように難なくそれを避けて後ずさる。鉈が、空を切る凄まじい音が唸る。
「ゴロス! オバエゴロス!」
直ぐに梶尾から俺に向き直る怪物。
「ゴロス!」
言いながら、腕を再度振り上げる。俺は、驚愕と恐怖で腰が抜けていて身動きがとれずにいた。
「喜一郎さん!」
梶尾の声が頭の中で突如響いた。
「自分の力を信じて!」
梶尾の声が続く。俺は腰を地面に落としたままジタバタと後ずさる。股の間に、鉈が降り下ろされる。耳をつんざく衝撃音と土煙が目の前で弾ける。
「何だってんだ! クソヤロウ!」
俺は叫びながら這うように逃げ惑う。
「ゴロス!」
再度、怪物が鉈を振り上げる。
「クソヤロウ!」
言いながら俺は梶尾を見詰めたが、梶尾はこの状況を楽しんでいるのか、薄く笑ったまま動こうとはしない。
「ゴロス! オバエ! コロス!」
唸りながら鉈を振り回す怪物。俺は、その攻撃を必死にかわし続けた。そして、声が聞こえた。
今までに聞いたこともない声だった。酷く落ち着いていて聞いている俺まで冷静になることが出来るような澄んだ声だった。
声に従い身体を動かす。すると、身体の僅か数ミリ先で怪物が振り回す鉈が空を切る。繰り返す毎に自分が冷静さを取り戻して行く事を自覚する。暫く、声に従い声に身を委ねて鉈から逃げていた俺に声が告げた。
"右手を突き出せ!"
俺は無意識にそれに従っていた。身体ではなく心が従っていたいたのかも知れない。
我に返ると怪物の身体の中に自分の手のひらが存在している実感で卒倒しそうになった。
「何だ! 何だってんだ!」
俺は手のひらに触れるものを握りしめながら、それを引き抜いた。怪物の目から生気が消えて、手を引き抜いた場所から深紅の液体が噴き出す。
俺は、それを全身に浴びながら呆然と立ち尽くした。
「喜一郎さんの覚醒は信じられない速さで進んでいるのかも知れない。」
梶尾が俺の肩をポンポンッと数回叩いた。つい最近に似たような光景を目にした気がして、僕はそのまま空を見上げた。
空は、どこまでも澄んでいて僕は現実と空想の狭間に立っているような気がした。
仮題 【 SOLID 】 @carifa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。仮題 【 SOLID 】の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます