lucky
監守の後を追いながら辺りを見回す。薄暗く長い廊下は狭くなったり広くなったりを繰り返していた。壁に設置されている扉も同じものが並ぶ事は無い。良く見ると壁や床も、酷い段差が生じていて油断すれば段差に蹴躓くに違い無い。
「古い建物なんだな……」
俺の独白に似た問いに、監守は鼻で小さく笑うと抑えた声で答る。
「ここは、増築工事を何百回と行ってきた建物だ。敵の侵入を困難にする仕掛けや、逃げ延びる為に必要な仕掛けが増築の数だげある。お前は幸運なんだよ」
「幸運?」
「そうだ、幸運だ」
監守が言っていることが、全く理解出来ずに俺は再度聞き返した。
「敵の侵入とか、幸運とか、俺には意味が分からない……」
「お前は選ばれて、ここに来た。だが、やるべき事を最終的に決めるのはお前だ」
監守は俺の戸惑いなど気にもせずに歩きながら喋り続ける。
「やるべき事?」
「それは……まだ、分からない。それは……お前が決める事だ」
監守は、言葉を選ぶように言うと、その後、口を閉ざした。それから、どのくらい歩いたのか分からないが迷路のような通路をひたすら歩き、問いかけるのを諦めた時に、監守は大きな扉の前で立ち止まった。
「ここだ」
言って、監守が扉を開ける。高い壁に囲われた野球場程の空間。良く見ると、それは建物の外壁に四方を囲まれた中庭のような空間で青い空を見上げる事が出来る。運動場に面した外壁の窓からは囚われた人間なのか、何人もの男達が身を乗り出してが下の運動場を眺めている。
視線の先には男たちが数十人単位で固まり、怒声をあげながら殴り合っている。
「なんだ、これは……」
俺は、呻くように呟いていた。
「この中の数人が戦士となりクリエイターと戦う」
監守が殴り合っう男たちを眺めながら言う。
「クリエイターって? 何を言ってる?」
「クリエイターは敵だ。人類の敵だ。新たな生命体の創造者にして人類根絶を狙う悪魔だ」
俺は混乱していた。拉致監禁されたこの場所には自分が暮らしていた長閑な気配は微塵も感じられない。何の為に、梶尾は俺と濱名をここへ導いたのか。
そして、ここで何が行われているのか理解出来ない。俺達は、地表の浄化を確かめに坑道を出ただけだ。それも、逃げるのではなく。ただ、一瞬。確認したかっただけだ。
「分かるように……説明してくれ」
俺は、すがるように監守を見詰めた。
「今から、総帥の話がある。お前は本当に幸運だ。総帥の話を良く聞けば、お前のやるべき事も見えてくる筈だ」
監守は言って運動場の真ん中に設置されたステージを凝視した。
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