おまけの話 星に願いを


「ママ、ママ~!……」


おとうとが悲しそうな声でママを呼んでいる。


「どうしたんだよ? 怖い夢でも見たのか?」


と、二段ベッドの上からおにいちゃんが顔を覗かせる。


「違うよ。ママに、ママに逢いたいんだ!」


泣き出さんばかりにおとうとが言う。


「ママに?……」


おにいちゃんは困った。


実は、おにいちゃんだってママには逢いたいんだ。


でも、おにいちゃんは、もうママには逢えないことがわかっている。


「ママはね、お星様になったんだよ」って大人たちは言うけれど、そんなの嘘に決


まっている。


でも、おとうとはまだ小さいからそれがわからない。


おにいちゃんはベッドを降りると、


「お星さまにお願いすればいいんだよ! さあ、おいで!」


泣きべそをかいているおとうとの手を引いて窓際へ連れて行く。


カーテンを開けると満天の星々がきらめいている。


少し、窓を開けてみる。


「寒くないかい?」


「うん。にいちゃん」


「お星様にお願いすれば、きっとママに逢わせてくれるさ」


「うん。わかったよ」


ふたりは、お星様に手を合わせ、そっと目を閉じた。


「はやくママに逢わせてください……」


「おとうとの望みを叶えてください……」


ふたりが目を開けてみると、


「あっ、にいちゃん! あれ、ママなの?」


大きな赤い星が尾を引いて飛んでくる。


「そ、そうだよ! きっと」


おにいちゃんも、驚いた顔で叫ぶ。


神様が、ママに逢わせてくれるんだ───。


その赤い流れ星は、次の瞬間、数百万度の白い炎の玉となってふくれあがり、二人


の寝室の中へ飛び込んできた。遅れてやってきた衝撃波と爆風が、地上のすべての


ものを破壊尽くす───。

                               (END)



「ちょっと! 純粋な子供を酷い目に合わせちゃダメじゃない!」


ブログを書く俺の背中にもたれて、うしろから覗き込んでいた女が言う。


「ダメじゃない! って言うけどよ、ミサイルは大人と子供の区別はできないん


だ」


「そんなことわかってるわよ。でも、あんた人間なんだからさ、あんたが区別すれ


ばいいじゃん」


「いや、区別するも何も、これはストーリーなんだから子供のほうがインパクトが


あるの!」


「たとえストーリーでも、そんなのは書いて欲しくないわけ!」


女は帰り仕度をしながら言う。


「じゃあ、どんなのだったら気がすむんだよ?」


私は、この記事に該当するような核ミサイル攻撃の可能性をweb上で調べながら訊


く。


「たとえば、あんたみたいなろくでなしの屑野郎がさあ……」


「あん? なんだって? 俺みたいなろくでなしの屑野郎が、どうしたって?」


「深夜に……路地裏で……野良猫とケンカしながら、ゴミ箱を漁っているときにミ


サイルが飛んでくるというシチューエーションならいいけど」


「ふ~ん。すると何かい。お前みたいな阿婆擦れ女の股ズレ女が、酔っ払って、


バッグ枕にバス停のベンチで眠りこけているシチュエーションならいいってわけ


だ。うん? なに、それ? 平和?」


私の前に、かしこまって正座する女は、私に向かって笑顔でVサインをしている。


「なに言ってるのよ! はい、2万円。頂戴!」


「おまえこそなに言ってるんだ!」


契約では、1時間話し相手をしてもらって1万円である。時間だってオーバーして


いない。


「1万円だろう?」


「いいえ、2万円よ。さっきサービスしたじゃない。おちちのサービス」


「おちちのサービスって、へんなこと言うなよ!」


私は女には指一本触れていない。


「そんなことないわよ。背中にもたれてあげたじゃないの」


「え? もたれるって……」


「ブログ覗きこみながらサービスしたじゃない」


「あれが、その、おちちのサービス? で、1万円もするって……」


「とにかく、はやく頂戴!」


「ダメだ。1万円だ」


「じゃあ、1万5千円」


「ダメダメ。1万円ポッキリ」


「ケチ。1万3千円は?」


「頼みもしないオプションに金は払えない」


「払ってよ!」


払え、払えない、ケチ、ブス、バカ、しこめ、鼻糞、インガスンガスン……と罵り


あいながら、福沢諭吉に何人の野口英世をお供させるかでもめていると、


「わっ!」


「えっ!」


一瞬、視界が完全に白ずんでしまうほどの光が拡がって───。


                               (END)




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