第13話 あまりにもひどすぎます
───駄目な亭主とその妻と、子供───
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今日の暴落は……あまりにもひどすぎます。
それが原因で、私の家庭が崩壊していくのですから――。
ここ数日の苛立ちも頂点をきわめた私は、妻にむごいことをしてしまいました。
「もう株などやめて、働きにでてください」
誰に言うともなく、妻は小さな声で呟きます。
その言葉に一瞬向かっ腹が立ち、
「言いたいんならはっきり言えよ!」
平手を喰らわしたのです。
妻はもう何も言いませんでした。昔から無口な女です。
そんな無口な、私より一回り年下の妻は、いま奥の部屋で普段よりは濃い化粧を
しています。
客を引くというのです。
私はそれを止めません。
止めれば、あす喰う米にも困るのですから。
さっき長男が帰ってきました。
中学三年生です。
からばかりがデカくて……しかし、親思いの優しい息子です。
その息子に、どつかれました。
「父親らしいことをしろ!」
眼鏡にひびがはいりましたが手加減してくれたのでしょう、 鼻の骨は大丈夫のよ
うです。
息子は、高校受験をやめると言い出しました。
いまからバイトを探してくるといって飛び出していきました。
私はいまこれを書いていますが、書き終わったら焼酎をあおって寝てしまうつも
りです。
いいえ、あすのことなど考えません。考えても仕方ないです。
それより妻が……
妻がうまく客をとれるかどうか……それが少し気にかかるだけです。
なに、化粧さえうまくできれば体はまだまだ張りがあるので大丈夫ですよ。
いいですよ、あなたでも。
で、いくらもっているんですか?
嗚呼、なんという……
(了)
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