第3話 ボウボウ鳥とオロオロ鳥

 裏庭にキンモクセイの樹があって、秋には黄色くて小さな花を咲かす。

 香りは、とてもよい香り。けれどもその芳香が我が鼻に届かないのは、背が高くなりすぎて二階の大屋根を越して花を咲かすからである。

 そのキンモクセイの花が、一夜の雨に打たれて落下すると、翌朝は庭一面がオレンジ色の雪景色となる。見て美しいものだが、厄介なのはひさしといに落ちたやつである。それが落ち葉とグルになって樋をつまらせてしまうのである。


 まだ、花の時期ではないけれど、葉は年中落ちてくる。剪定しなければならないのだけれど、私はすこぶる怠惰な人間である。

 ああ……また梅雨の季節がやってくる。鬱陶しいことに、最近では知らない鳥まで遊びに来るじゃないか──。


 では、『ボウボウどりとオロオロちょう 』をお楽しみください。


*************************************



「ギェ~ッ!!!」


 それは明らかに悲鳴だった。


 しかも、女性の……。


 ただ、すこぶる汚い声である。


 最初は、放っておこうと思った。


 しかし、やっぱり確かめてみたい……。


 縁側に出て、庭を見渡すと――。


 ああ……やっぱり、あいつか。


 キンモクセイの木の枝に、一羽のボウボウ鳥がとまっていた。


 私の顔を見ると、


 「ケケケケケッ」


 と笑いやがった。


 まったく虫唾(むしず)の走る奴である。


 なぜ、ボウボウ鳥というのかは知らない。


 が、時々拡げる羽の付け根と股の間に、


 白くて長い羽毛が生えている。


 しかも、異常なほどボウボウと……。


 一見、カササギのように見えるが、実はボウボウ鳥だ。


 頭はザビエルのように地頭なのに、アソコには毛がボウボウ――。


 そんなヘンな奴が庭に棲み付いては困るのだ。


 追っ払おうと、縁石の庭下駄をつっかけたのだが……。


 片足が、うまく履けずにオットット――。


 よろついて、石灯籠にガッシャ~ン!


 「ケケケケケッ」


 また、笑いやがった。


 同時に、石灯籠の陰から新たに一羽の鳥が飛び出した。


 こっちも驚いたが、相手は相当驚いたのだろう。


 右に行ったり、左に行ったり、右往左往している。


 目的意識のないままに、ただ走っているようだ。


 逃げているのだろうが、気が動顚しているらしく、


 石灯籠や私などは、まったく眼中にない。


 悲壮感漂う表情で、もう私の前を二度ばかり駆け抜けた。


 つまり、こいつはオロオロ鳥だ。


 気の小さい、心配性の鳥で、ちょっとのことでパニックになってしまう。


 また、妙な奴が隠れていやがった。


 しかし、こいつは落ち着けば、自分が飛べることを思い出して、


 きっとどこかへ飛び去って行くのだろう。


 まあ、とにかく奇妙な鳥が増えたものだ。


 人間だって、おかしいのが増えてきてるのだから、


 鳥だってそうなのだろう。


 「ギョギョギョギョギャッ~!」


 あ、またヘンなのが飛んできやがった!


                               


                                  (了)  



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