第3話 ボウボウ鳥とオロオロ鳥
裏庭にキンモクセイの樹があって、秋には黄色くて小さな花を咲かす。
香りは、とてもよい香り。けれどもその芳香が我が鼻に届かないのは、背が高くなりすぎて二階の大屋根を越して花を咲かすからである。
そのキンモクセイの花が、一夜の雨に打たれて落下すると、翌朝は庭一面がオレンジ色の雪景色となる。見て美しいものだが、厄介なのは
まだ、花の時期ではないけれど、葉は年中落ちてくる。剪定しなければならないのだけれど、私はすこぶる怠惰な人間である。
ああ……また梅雨の季節がやってくる。鬱陶しいことに、最近では知らない鳥まで遊びに来るじゃないか──。
では、『ボウボウ
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「ギェ~ッ!!!」
それは明らかに悲鳴だった。
しかも、女性の……。
ただ、すこぶる汚い声である。
最初は、放っておこうと思った。
しかし、やっぱり確かめてみたい……。
縁側に出て、庭を見渡すと――。
ああ……やっぱり、あいつか。
キンモクセイの木の枝に、一羽のボウボウ鳥がとまっていた。
私の顔を見ると、
「ケケケケケッ」
と笑いやがった。
まったく虫唾(むしず)の走る奴である。
なぜ、ボウボウ鳥というのかは知らない。
が、時々拡げる羽の付け根と股の間に、
白くて長い羽毛が生えている。
しかも、異常なほどボウボウと……。
一見、カササギのように見えるが、実はボウボウ鳥だ。
頭はザビエルのように地頭なのに、アソコには毛がボウボウ――。
そんなヘンな奴が庭に棲み付いては困るのだ。
追っ払おうと、縁石の庭下駄をつっかけたのだが……。
片足が、うまく履けずにオットット――。
よろついて、石灯籠にガッシャ~ン!
「ケケケケケッ」
また、笑いやがった。
同時に、石灯籠の陰から新たに一羽の鳥が飛び出した。
こっちも驚いたが、相手は相当驚いたのだろう。
右に行ったり、左に行ったり、右往左往している。
目的意識のないままに、ただ走っているようだ。
逃げているのだろうが、気が動顚しているらしく、
石灯籠や私などは、まったく眼中にない。
悲壮感漂う表情で、もう私の前を二度ばかり駆け抜けた。
つまり、こいつはオロオロ鳥だ。
気の小さい、心配性の鳥で、ちょっとのことでパニックになってしまう。
また、妙な奴が隠れていやがった。
しかし、こいつは落ち着けば、自分が飛べることを思い出して、
きっとどこかへ飛び去って行くのだろう。
まあ、とにかく奇妙な鳥が増えたものだ。
人間だって、おかしいのが増えてきてるのだから、
鳥だってそうなのだろう。
「ギョギョギョギョギャッ~!」
あ、またヘンなのが飛んできやがった!
(了)
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