第14話 エレメンタリスト

14 エレメンタリスト


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名前 :ロッカ

クラス:エレメンタリスト

 Lv:18/30

・期待の魔法少女

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 爆風と熱線で、ゴーレムが仰け反った。

 そこへ再び、爆発――『エクスプロージョンLv2』。

 ゴーレムが倒れた。

 深紅のローブを纏った少女の後姿が、炎に照らされる。


 ゾンビたちは、彼女を標的にして襲い掛かった。

 少女の周りに炎の矢が出現する。そのスキルが『ファイヤーアローLv2』だとわかる。炎の矢は襲い掛かってくるゾンビを射抜くと、矢を受けたゾンビはたちまち燃え上がり、消滅した。

 続けざまに『エクスプロージョン』。

 起き上がろうとするゴーレムは追い打ちをかけられて、再び地面に打ち付けられた。


 圧倒的じゃないか、あの子は。

 ロッカという名の【エレメンタリスト】。

【エレメンタリスト】はやっぱり規格外に強いようだ。火力と言えば、だいたいどのゲームでも、ソーサラー等の魔法職――特に炎の魔法を操るクラスが、瞬間火力は最強と相場が決まっている。


 一騎当千というが、まさに、彼女はたった一人で状況を変えてしまった。

 あれだけいたゾンビが、『エクスプロージョン』と『ファイヤーアロー』で一掃され、残り十匹程度。ゴーレムは倒れたまま、起き上がることすら許してもらえない。


 残るは、レッドライカン・レヴァナントだった。

 レッドライカン・レヴァナントは巨大な剣をぶんぶん振り回し、一声吠えると、少女――ロッカを睨み据えた。ロッカの体から湯気のように、深紅のオーラが立ち上る。

 ロッカは、その右手に持った木杖の柄をビシッとレッドライカン・レヴァナントに突きつけた。オーラが杖の柄の先に終結し、そして――ガスバーナーのような紅蓮の炎が噴出した。

『フレイムブレスLv1』

 まさに【エレメンタリスト】と言うべき、ド派手な魔法だった。あたりが一瞬、昼間のように明るくなり、凄まじい炎風はレッドライカン・レヴァナントを飲み込み、建物を巻き込んでなぎ倒した。


 炎が落ち着き、再びあたりに程よい暗さが戻ってきた。

 のっそりとゴーレムが起き上がる。

 それを、ロッカは『エクスプロージョン』の三連発で仕留めた。


 助かったという安心感をまず覚えた。

 次に、少しだけ、出る幕がなかったことへの物足りなさ。

 しかし一番は、【エレメンタリスト】強ぇ、である。あれだけの魔物を相手にして、まさに無双。チートもいいところである。


 うぉぉ! という雄たけび。

 傭兵たちである。

 彼らは各々剣を抜き、残りの魔物に斬りかかった。ハーナもそれに加わろうとするから、俺はその腕を掴んで止めた。この子は、顔に似合わずとんだお転婆さんだぞ。


 なぜ、みたいな顔をしてこっちを見てくるハーナ。

 俺は言葉がわからないから、とりあえず掴んだままでいることにした。彼女は、きっと正義感とか義務感に駆られているのだろう。そして今の状況は、人間側に勢いがある。事実、ゾンビは次々に狩られている。


 しかし、である。

 ゾンビが倒されてゆき、人間たちが勢いに乗っている中でも、その牙や凶刃に倒れる戦士たちもいるのだ。どんな時でも、戦っている以上は死と隣り合わせである。そんな中に、わざわざハーナのような、まだ幼い少女が加わる必要はない。

 そういうことは、荒い男連中に任せておけばいいのである。


 それに、勝負はもうじき決するだろう。

 ゴーレムも、レッドライカン・レヴァナントも失った今、魔物の軍勢に勝機はない。魔物よりも、むしろ火事の方が心配である。


 そろそろ戻ろうかな、と思ったその時だった。

 アオォーン、という鳴き声が、瓦礫の中から、夜空に突き抜けた。

 直後、瓦礫の一部で爆発が起こった。それに巻き込まれた数名の戦士は、人形のように宙を舞い、地面に転がった。

 砂塵が風でゆっくりと飛ばされ、そこには、レッドライカン・レヴァナントが立っていた。


 近くにいた戦士たちは、勇敢にも立ち向かっていった。

 今なら倒せる、そう思ったのだろう。

 レッドライカン・レヴァナントの毛のような炎が、オレンジに輝く。そして――。


 グオォォォォ!


 口から炎を放射した。

『フレイムブレス』である。巻き込まれた人間は、その炎の中で、灰になった。目をそむけたくなるような光景である。


 ロッカは『エクスプロージョン』を二発、『フレイムブレス』を一発、レッドライカン・レヴァナントに撃ちこんだ。それぞれに、効いているようではあった。

 しかし、倒れない。

 レッドライカン・レヴァナントは再び、今度はロッカに向けて『フレイムブレス』を放つ。ロッカはそれを、『マナバリア』で防いだ。


 おぉ、すごい。

 と思ったのもつかの間、ロッカは、膝を地面に突いてしまった。

 肩で息をしている。

 もしかしなくても、スタミナ切れのようだった。まだ戦えそうだが、レッドライカン・レヴァントに勝てるかどうかは、怪しい。もしかすると、彼女にはまだ切り札的な魔法があって、それを残している可能性もある。

 しかしそうでなかった場合は、厳しいだろう。

 厳しいということは、つまり敗北である。

 敗北はつまり――死を意味する。

 彼女が死ねば、この場にいる戦士たちもこの町も人間も、魔物に蹂躙されることだろう。地図上からこの町が消えるのは、明日か、明後日か……。


 この町の事はどうでも良いが、やっぱり、死ぬかもしれない人間を放っておくことはできない。なまじ、自分に何とかできるかもしれない能力があるために、強くそう思ってしまうのだろう。


 だが、レッドライカン・レヴァナントは強い。

 体力もあるし、肉弾戦における攻撃力も相当なものだ。その上、『フレイムブレス』を放つ。ちょっとやそっとで勝てるような相手ではない。【エレメンタリスト】の魔法でも倒しきれないのだから、よっぽどである。

 とはいえ、一つ考えられるのは、相性である。

 レッドライカン・レヴァナントの毛は、火でできている。そして『フレイムブレス』を使えるところを見ると、火には強いのかもしれない。ある程度の火耐性があって、ロッカの『フレイムブレス』のダメージが、大幅に軽減されてしまったのではないだろうか。


 だとすると、火は通用しない。

 俺の『ホーリーアロー』や『テレキネシス』はどうか。いや、通用する気がしない。やってみる価値もない。スタミナの無駄遣いである。

 とすると、勝てないじゃないか。

 今のままでは。

 ――そう、今のままでは。


 じゃあ、逃げるか?

 いやいや、俺にはまだ可能性がある。クラスエンチャントの可能性が。

 クラスを変えたからといって勝てるわけではないだろうが、こればっかりはわからない。ただし、一つ言えるのは、【エレメンタリスト】にエンチャントしても勝てない、ということだ。

 ロッカは、18レベルの【エレメンタリスト】である。その炎の魔法が通用していないということは、俺が【エレメンタリスト】になったところで、勝てるわけがない。他の属性魔法を覚えることができればまた違うのだろうが、果たして、彼女の『フレイムブレス』を超える魔法を習得できるかどうかは、甚だ怪しい。


 というか、できないだろう。

 残るは【セージ】、【サマナー】、【ダークメイジ】。

 回復職の【セージ】では厳しい気がする。【サマナー】はどうか。わからない。【サマナー】と【ダークメイジ】はわからない。


【サマナー】

 ・召喚魔法の専門クラス。上位クラスにはルーナー、エンチャンターなどがある。

 ・特殊な魔法体系を持ち、未知の部分が多い。


【ダークメイジ】

 ・黒魔術に特化したクラス。上位クラスにはネクロマンサーなどがある。

 ・大陸での大規模な黒魔術師狩りがあったため、黒魔術の多くは失われた。

 ・術の危険性から、存在自体が忌避されている。


 事典が、この二クラスに関しては、説明を諦めている節がある。

 この世界の人間でもない俺が、この説明で理解できるわけがないのだ。

 しかし、考えている時間はない。

 なんでこう、いつも猶予がないのだ。


 俺は、ハーナの手を引いて、来た道を戻った。


『戻ってきたか』


 祠の主の声がした。

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