第2話 カーバンクルと少女
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名前 :グリム
種族 :アニマン
クラス:ノービス
Lv :1/1
HP :25/25
Stm:20(100%)
MP :10
パッシブスキル:
アクティブスキル:
ポテンシャルスキル:
『翁のガイドライン』
称号:
『異世界から来た男』
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ステータス巻物を閉じる。
巻物は、閉じると消えた。
「うーん……」
見ても良く分からなかった。
自分のステータスのことながら、他人事のように思ってしまう。特別なスキルがあるわけでもなし。ありがちな、レベル1のステータスである。はっきり言って、ほとんど参考にならなかった。
ただ一つわかったことは、あの老人は、どうやら『翁』と呼べば良いらしい、ということだけである。
さて、翁は言っていた。
【ウィザード】になりたいなら遺跡に、【ファイター】になりたいなら町に行け、と。ざっくりすぎてよくわからないが、あれが、翁の精一杯のガイドラインなのだろう。
【ウィザード】。
魔法を使うクラスのことだろう。遺跡に行けばそれになれるらしい。
【ファイター】。
剣士等の、肉体派のクラスのことだろう。町に行けばそれになれる、らしい。
どちらが良いか?
そんなのは、【ウィザード】に決まっている。
まな板の上の魚さえ上手くさばけないというのに、人やら魔物やら、生き物を相手に刃物なんかで戦えるわけがないのだ。仮に、とんでもないレアな魔剣を手に入れたとして、自分には絶対に扱えないだろう。
遺跡に行こう。
遺跡に行って、【ウィザード】なるものになろう。
ところで、遺跡はどこだろうか。
なぜ翁は、地図くらい宝箱に入れてくれなかったのだろうか。
――きっと、忘れたのだな。
さて困った。
周りは森。鳥や獣の鳴き声が、さっきからひっきりなしに聞こえてくる。
木々に反響して、近くから、遠くから。
今はまだ昼間だからよいが、日が暮れたらここは、猛獣なんかが徘徊にするに決まっている。それまでに遺跡を見つけなければならない。
遺跡でなくてもいい。
どこか、人里を。
と、グリムは早速歩き出そうとしたがやめた。
遭難した時の心得を思い出したのだった。
動かない事が大事なのだ。
そして、パニックに陥らないこと。
その場にどっかり座り、パンをかじる。
なぜパンなのか。
そしてなぜ、半分だけなのか。
さっぱりわからない。
そうしていると、小動物がやってきた、
栗鼠のような、狐のような、謎の生物。耳が四つあり、ふんわふんわした尻尾。そして――額の真ん中に赤い宝石が輝いている。
「まさかこれは、カーバンクル!?」
思わず興奮してしまう。
ここ、本当にファンタジーの世界じゃないか。
カーバンクルが、膝の上に乗って、自分の掌に顔をうずめてパン屑を突いている。
頭を撫ででも嫌がらない。
可愛いなぁ、とグリムは思った。
ペットにしたい。
ペットにしちゃおうか?
――と、近くから人間と思われる声が聞こえてきた。
「⨃⨢⨓~! ⨃⨢⨓~!」
声は同じ言葉を繰り返し、やがて、茂みから声の主が現れた。
栗色の髪の、女の子だった。
杖を持ち、茶のローブを着ている。
少女は、こっちを見ると目を見開いた。
「⨃⨢⨓! ⟐⟤⟟⨀⟟⩈⨓!?」
何か言っている。
目線でわかった。彼女は、自分に言っているのだ。
しかし一体、何と言っているのだろうか。
カーバンクルは我関せずと、パン屑を食べている。
少女は、杖をこちらに向けた。
体が強張る。
これは、彼女は何か、攻撃用の魔法を使うかもしれない。
明らかに少女は、自分に敵意を向けている。
なぜなのか?
と、目線を落とすと、そこに答えが転がっていた。
つまり――このカーバンクルは彼女のペットで、自分はそれを、誘拐したと思われているのかもしれない。頭に宝石のある動物である、盗もうとする輩がいるのだろう。
その輩の一人だと思われたのだ、きっとそうだ。
ということは、ここは大人しく、無害をアピールするしかない。
しかし、言葉を発したところで、それは伝わらないだろう。
グリムは両手をあげ、ゆっくりと立ち上がった。
すーっと、冷たい風が裸の股を吹き抜ける。
ローブの下は、裸である。
少女を前にして、布一枚。
妙は興奮を覚えてしまう。そして、罪悪感が襲ってくる。
カーバンクルは、ととととっと少女のもとにかけ寄り、ぴょんと膝に飛び乗ると、肩の上に乗っかった。そこがあの小動物の定位置なのだろう。
「怪しいものじゃありません」
一応言ってみる。
案の定伝わらない。
少女は、警戒の目線でじっと見つめてくる。
冷や汗が流れる。
戦いになれば、間違いなく自分は、負けるだろう。
「⟣⩈⨡⟕⨐⟖⟟⦀⟢⩈⟜⟕?」
わからないよ、言葉が、全然わからない。
召還しただけで、あの翁は、何一つ自分にプレゼントしなかった。
普通こういう時は、気を利かせて現地の言葉が理解できるくらいのアフターサービス的なスキルを用意するものではないだろうか。
しかし、嘆いていてもしょうがない。
こういう時のために、ボディーランゲージというものがあるのだ。
複雑なことは伝えられなくても、単純な事ならきっと、伝えられるだろう。そしてまた、人間がここにいるということは、この近くに人の町か村があるということだ。
まさかこの少女が、恐ろしい魔物だった、なんてことはないだろう。
ない、だろう……?
腹を空かせ、倒れていた、というジェスチャー。
両手を合わせ頼み込む。
『お腹がすきました、食べ物をください』
伝わるだろうか。
少女の表情が綻んだ。
――伝わった。
「⟠⟕⟗⟥⦠⟟⟛⦀⩂⨐⟕⩈⟐⨑⩀⟜。⟑⟡⨪⟛⨌⨪⟥⟖⩀⟜⟕?」
言葉は分からない。
が、どうやら、許されたらしい。
そして、どこかへ連れて行ってくれるらしかった。
グリムは、少女の後を大人しくついてゆくことにした。
カーバンクルが、きゅるるると鳴いた。
果たしてどこへ連れられてゆかれるだろうか。
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