第81話:描写の役割

 1枚のJPEG形式の海が写った写真データがあったとします。

 そのファイルを配った時に、ある人は「海が灰色だった」と言います。

 ある人は、「海が水色だった」と言います。


 これは極端な例かもしれませんが、人間は個々で色相が違います。

 同じ色を見ているつもりで、脳ではまったく違う色として認識していることがありますね。

 さらに言えば、ファイルデータにはAdobe RGBやsRGBなどにより、再現できる色空間が変わります。


 まあ、要するに、あれだけ情報が詰まったJPEGファイルのデータでも、正しく情景が伝わるとは限らないわけです。


 それなのにですよ?


 情報量が遙かに小さいテキストデータで、正しく情景が伝えられるわけがないと思いませんか?

 形だって色だって、たぶんほぼ作者の意図する通りに伝わっていません。

 もちろん、これが心情にでもなれば、なおさらです。

 形がないものを少ない情報量の形にして伝えるなんて、できるわけがありません。


 では、描写は意味がないものなのか……というと、そういうわけではもちろんありません。

 役割が違うのです。


 描写は、「情景を伝える」ものではなく、「情景を想像させる」ものなのです。

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