第51話 ごめんなさい 3

 木山さんのお店を後にして、私は家路を辿った。

 たくさんの人に思われて、たくさんの人に心配をかけてしまったことを心に留め、正直な自分の気持ちをぶつける先に目を向ける。

「タイちゃん」

マンションのエントランスで、忠犬君のように待っていてくれたタイちゃんへと駆け寄る。

「話、出来た?」

訊ねるタイちゃんへ大きく一つ頷いた。

木山さんとの事にケリをつけ、私は直ぐそばにある温もりに手を伸ばす。私から繋いだ手をタイちゃんが握り返す。繋がった手と手を見てから、大きなタイちゃんを見上げれば穏やかな瞳で見返されることがとても幸せだった。

「葵さん。週末、俺に時間くれないかな?」

マンションの渡り廊下を歩きながら、僅かな躊躇いと覚悟を決めたような雰囲気で、タイちゃんが私へと訊ねた。その瞳には、タイちゃんらしからぬ真剣みがあった。

「週末?」

 訊き返すと、タイちゃんは真っ直ぐな瞳で私を見つめ頷いた。

 私は、そんなタイちゃんへと同じように頷きを返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る