第39話 今日も 5
携帯を耳から離し、ふーっと深く息を吐き出すとシラッとした顔のタイちゃんと目が合った。
「また、飯の誘い?」
タイちゃんが私に向かって、完食した肉じゃがのお皿を差し出して訊ねる。お代わりをくれと言うことだろう。ついでに言うなら、空になった缶ビールもフリフリしているから、それも一緒にと言うことみたいだ。
私は家政婦か?
突っ込もうと思ったけれど、私の突っ込みよりも先にタイちゃんが口を開いた。
「今日は、返事。訊かれなかったみたいだね」
会話の内容から読み取ったタイちゃんは、木山さんとのことにあまり興味もないのか、表情筋を動かすことなく言った。
「うん。電話が鳴ったときはどうしようかと思ったけど。とりあえずほっとした」
安堵してヘラヘラとしている私を、さっきまで顔の筋肉などどこかへ置き忘れてきちゃったみたいに無表情だったタイちゃんは、なんとなくムッとしたような、呆れたような顔で見てきた。
「食事に行ったら、さすがに訊かれるんじゃない? 告白のこ・た・え」
語尾の答えをわざとらしくいうあたり、なんだか嫌味くさいんだけど、まあ、いいか。
それよりも、木山さんの話だよ。
「やっぱ、そう思う?」
タイちゃんの言い方が嫌味くさいなと感じつつも、同意を求める私の問いかけに深く頷く顔に向かって、肉じゃがのお代わりと冷えた缶ビールを差し出すとニコリと受け取った。
木山さんの話には関心を持たないか、若しくはムッとしたような顔つきをしていたのに、食べ物に対してだけは愛想がいいらしい。なんて解りやすい。
「どうすんの? その店長さんとのこと」
肉じゃがをつつくタイちゃんに問われても、答えの出てない質問に応えられるはずもなく言い淀んでいたら、またも無表情でこちらを見てくるんだ。
その顔は、なんだか能面みたいで。ほら、田舎の古い旅館とかに飾ってありそうな、真っ白い顔をしたあの恐いお面ね。あんな感じの顔つきなんだよ。
けど、タイちゃんが怒るわけないから、能面みたいな顔って言うのもおかしな話だよね。なのに、今のタイちゃんには、それがピッタリと当てはまるんだ。
もしかして、何か怒ってる?
首を傾げてみても、タイちゃんの怒る理由が思い当たらない。
なんなだろう。どうしてそんな顔してるのかな?
タイちゃんが何を考えているのかを考えていたら、次の質問が飛んできた。
「その店長さんと、キスしてるところとか。それ以上のこととか、想像できたの?」
なんともこっ恥ずかしい質問だというのに、タイちゃんてばなんの躊躇も恥じらいもなく訊いてくるものだから、こっちもついノリで応えてしまった。
「全然。全く想像できない。いや、うーん。想像はなんとなくできるのよ。よくよーく考えると、ちょっと恥ずかしいなって」
言いながら、後半はキスシーンを想像して顔が熱い。
照れて思わず頬を染めている私の顔を、能面度を増したタイちゃんがマジマジと見ている。
あれ。やっぱり怒ってない?
タイちゃんの様子がおかしい気がすると思いながらも、私は会話を続けた。
「けど、なんていうか。したいって、思わないような、思うような?」
「だからっ。何で自分の事なのに疑問符ついてんの!」
「だって~」
タイちゃんが怒ったような雰囲気で、不機嫌そうな顔を向ける。
やっぱり、怒ってるみたい。どうして?
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