第24話 想像? 2

「頑張って想像してみたらいいじゃん」

 チョコを摘んだタイちゃんは、「コーヒーにチョコって最高だよね」と付け足しながら、更に別のチョコを摘んでいる。食べるペースが速くて、思わず怯む。

「想像って、頑張ってするものなの?」

 私は呆れながら、あの瀬戸君がくれた貴重で高級そうなチョコをバカ食いされる前にと、そっと箱を横の方へとずらした。タイちゃんの目がチョコの箱を追う。

「だいたい、どんな風に想像すればいいわけ?」

「付き合うわけだから、あんなことしたりこんなことしたりでしょう」

 タイちゃんは、イタズラに言って口角を上げ、私の反応を楽しんでいる。

 そうして、私はまんまとタイちゃんの思う壺。

「あ、あんなことや、こんな事って、ばっ、ばかっ! 何言ってんのよ、タイちゃんっ」

 アワアワする私を見て、タイちゃんは楽しそうだ。ちっ!

「だって、付き合ったら、当然そういうことするでしょ?」

 タイちゃんに訊かれて思わず素直に頷くと、クツクツと笑われた。もおっ、顔が熱いよっ。

「その木山さんと、それができないって思うんだったら、まず無理でしょ」

 な、なるほど。案外、的を射てるよね。

「あとさ。前の、なんだっけ? なんとか言う先輩の事は?」

「ああ、篠田先輩ね」

「その先輩と付き合いたいとかはないの?」

「先輩と付き合う?」

 その質問に、私は心底驚いた。

「それこそ、想像を超えてるよ。先輩は、なんて言うか、憧れだから。憧れの人って、遠くから見てキュンキュンしてるくらいで丁度いいんだよね。しかも、壁バンのこともあるから、下手に近づいたら、今度こそ命亡くしそうだし。先輩とは、時々話して、たまにランチに誘われるくらいが丁度いいんだよ」

 先輩の爽やかな笑顔を思い出し、ニヤニヤしながらコーヒーを口にする私を、タイちゃんが何故だか微笑みながら見ている。

 な、なに? その神様や仏様みたいな、見守るような笑みは。タイちゃんらしくないよ。

 なんだか急に居心地が悪くなりモゾモゾとして、誤魔化すみたいに横へと避けた箱の中からチョコを摘み、一口で頬張ったら、思いの他大きくて口の中いっぱいになり話せなくなってしまった。

「欲張りすぎ」

 タイちゃんは、そのままの観音菩薩みたいな微笑みを崩すことなく、頬を目一杯膨らませてチョコを食べている私を見ている。私は、何か言ってやりたいのだけれど、チョコのせいで反論できず。無念。反論できない代わりに、チョコの蓋をそっと閉めて反撃すると、タイちゃんが若干悲しそうな顔でそれを見ている。

「気持ちがよく判らないなら、返事は待ってもらえば? そんで、あんなことやこんな事が想像出来て、その人としたいって思うなら、答えを出せばいいじゃん」

 木山さんと、したい……?

 わ、判らないっ?!

 私は、頭を抱える。ついでに恥ずかしくなって、きっと面白がっているだろう目の前のタイちゃんを見られず、テーブルにうつ伏せた。そして、口の中一杯のチョコをモグモグと咀嚼する。

「想像し過ぎて頭が爆発した?」

 うつ伏せている私の頭の上から、タイちゃんがやけに冷静に訊ねる。私は咀嚼したチョコを飲み込んでから、うつ伏せたまま、うんうん。と頷いておいた。

 実際は、木山さんとキスやらなんやらを想像してみようとしてみたらうまく出来なくて。何故だかタイちゃんが想像の相手として出て来て、焦ってしまったんだ。きっと、こうやって余りにも頻繁に現れるから、想像しやすい対象になっているんだろうけれど。よりによって、何故にタイちゃん? タイちゃんとキスとか、まず無いからっ!

 心の中で力一杯否定する。

「と、とにかくっ」

 ガバッと顔を上げたついでに、ダンッとテーブルをグーで叩き、私は体制を立て直す。だけど、タイちゃんはいたって冷静なまま。

「とにかく?」

 真顔で訊き返されると、思わずぐっと言葉に詰まる。けれど、やけくそのように言い切った。

「しばらく、保留!」

 そんな答えを出した私を見て、タイちゃんはまた可笑しそうに笑っていた。

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