第23話 想像? 1
「なんか。あまりにも予想していない事態になって、どう考えればいいのか全く見当もつかないんだよね」
最近買ったデロンギのエスプレッソメーカーで、二人分のコーヒーを淹れながら私は首を捻る。香ばしい香りが漂い始めると自然と頬が緩んでいった。
そういえば、頂き物の高そうなチョコレートがあったっけ。
キッチンの棚をあさると、少し前に珍しく瀬戸君がお土産と言ってくれたチョコレートの箱が出てきた。瀬戸君がお土産なんて、あれでも一応、私を小間使いのようにこき使っていることに、少しばかりは申し訳ないと思っているのかもしれない。
「これこれ」
思わず声に出して取り、そのチョコレートをテーブルに置いた。
「で?」
「でって、訊かれても。なんて言うかさー。イケメンなのは、確かなのよ。料理はもちろん、美味しいし。気遣いだって、半端ないわけ。こんな私相手に、そこまでしなくても。なんて言うくらいなの。だけど、木山さんが私の彼になったイメージを一度も抱いたことがないから、想像を超えてる?」
「なんで自分の事なのに、最後疑問形なの?」
タイちゃんは席に着いて若干呆れたように息をつき、私が淹れるコーヒーを待っている。出来上がったコーヒーの入ったカップをタイちゃんの前に置き、自分の分も置いて座った。
「チョコ、食べていい?」
タイちゃんはコーヒーを一口飲んだ後、あちっ。と舌を見せてカップを置くと、チョコの箱に手を伸ばす。
「うん。いいんだけどさ。なんて言うか、今日も自然とうちに居るよね」
目の前に当たり前のようにして座っているタイちゃんを、私はほっそい目で見た。
何の躊躇いも感じることなく、今日もタイちゃんは私のことを玄関先で待ち伏せていた。エントランスは、他の住人の後にでもついて入ってきたのだろう。
呼んでもいないのに現れて、またかと思う反面。満面の笑顔で「お帰り」と迎えられてしまうと、ついつい「ただいま」と笑顔で返してしまうから不思議だ。
こうやって、少しずつ馴らされていくような気がする。そう考えたら、僅かに頬が引き攣った。
そんな私の心情など今日も察することのないタイちゃんは、「丁度通り掛かったから」なんて、真顔で返す始末。
「そればっかじゃん。知ってる? ここタイちゃんの家じゃないんだよ」
悔しいからこっちも真顔で返したら。
「葵さん、何言ってんの。当たり前じゃん」とゲラゲラ笑っている。
オイッ、そこ。笑いすぎ。
しかも、目じりに涙を溜めて笑い続けるタイちゃんに相手に、私ってば買ったばかりのコーヒーメーカーと高級チョコでもてなしてるし。これ、可笑しいよね? 私の方が呆れてため息だよ。タイちゃんのこと、涼太に管理しておくよう言ったのに。もうっ。
不貞腐れながらも、先日のことを訊いてくれる相手がいることには助かっていた。会社で瀬戸君に相談なんてできるわけないし。まして、篠田先輩にはもっと言えない。かと言って、涼太に話したら鼻で笑われそうだ。
姉ちゃんに告るなんて物好きな奴が居たんだ。とか。やっと、男できるじゃん。とか。ゲラゲラと指をさしながら笑われるのが落ちだろう。
まー、タイちゃんもそこそこ私のことバカにするけど、それなりには真剣に相談に乗ってくれるから、意外と便利?
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