第7話 夢のようなランチ 2
ランチに先輩が連れて行ってくれたお店は、なんとあの木山さんのカフェだった。今日も大変な賑わいだけれど、席はかろうじて空いていた。
「ここ。女の子が好きな店だって、うちの課の奴等が言ってたんだ」
確かに。ここは、女子に人気のお店だと思う。店内を見渡せば、七割が女性だ。女子受けするメニューだっていうのもあるけれど、木山さん人気も否めない。
だって、木山さんてば、控えめな男前なんだよね。しかも、ただかっこいいだけじゃなくて、仕事がら料理もできちゃうわけだから、付き合ったときの得点としては申し分ないわけで、人気も出るというもの。
この辺りのOL間では、彼氏にしたい男ベスト5はかたいと思う。※西崎調べ
「あ、西崎さん。いらっしゃい」
入口に立っていると、私に気がついた木山さんが弾むように明るく声をかけてくれた。一緒に来た篠田先輩が、あれ、知り合い? というような表情を向けてくる中、木山さんが会話を始める。
「昨日は、すみませんでした」
「いえいえ。今日は、座れそうですね」
「はい。ご案内します」
にこりと笑顔をくれたあと、木山さんは隣に立つ篠田先輩を見る。
「……お二人、さまですか?」
「はい」
篠田先輩と一緒ということに照れくさくなり、私は若干の上目遣いになって応えた。ちょっとランチに誘われたくらいで、浮かれている自分が恥ずかしいのだ。
「では、奥のテーブル席へ」
木山さんに案内されて席に着き、早速メニューを訊ねる。
「今日の日替わりは、なんですか?」
レモン水をテーブルに置く木山さんを見れば、目じりにしわを寄せ、優しく微笑みながら応えてくれる。
「今日は、シーフードのリゾットにサラダです」
「いいですね、リゾット。じゃあ、私はそれで。篠田先輩はどうしますか?」
壁に掲げてある手書きメニューの黒板に目をやってから、篠田先輩が注文をする。
「俺は、ボロネーゼのパスタセットで」
「かしこまりました」
丁寧に頭を下げた木山さんが厨房へと戻ると、その姿を確認するようにしてから先輩が喉を潤すようにレモン水を口にした。
「西崎さん、顔が広いね」
先輩に釣られるようにして、レモン水を口にしてから首をかしげる。
「さっきの店長さん、知り合いなんでしょ?」
「うーん。知り合いって言うか。実はこのお店、結構通ってるんです」
せっかく篠田先輩が誘ってくれたお店が、実は行きつけだったなんて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
「そうなんだ」
「ここの料理が美味しくて、あまりに顔を出し過ぎたせいか、顔を覚えてもらえて」
私は、照れくささに肩をすくめた。
「とっても親しげだったから、元々の知り合いなのかと思ったよ」
「いえいえ。よく話をするようになったのは、つい半年くらい前ですよ。私があんまりよく来るんで、ご近所さん的な親近感が湧いたんじゃないですかね」
「ふーん。彼、厨房担当でしょ? それがわざわざフロアを案内するなんてね」
そういえば、そうだ。篠田先輩に言われて、初めて気がついた。フロア担当の人は他にいるのに、気がつけばいつも木山さんが注文を訊きに来てくれている。
たまたま?
思わず厨房へ目を向けると、フライパンを振る木山さんの姿が目に入った。ピッと背筋を伸ばして料理を作る姿は、高感度が高い。カウンター席に座っている女性たちは、そんな木山さんの姿に注目しているように窺えた。容姿のかっこよさもそうだけれど、手際のいいスマートな料理の仕方にも注目しているのかもしれない。
「西崎さんの注文をわざわざ訊きに来るのは、ご近所さん的なサービスなのかな?」
篠田先輩は、なんだか含んだような言い方をする。
確かに厨房担当ではあるけれど、他にも料理を作っている人はいるし。ここは木山さんのお店なのだから、フロアに出ることがあってもおかしくないとは思うのだけれど。
そういうことじゃないのかな?
余り深く考えるのは得意じゃないし、ランチ前の空腹で余計に頭が回らない。今は木山さんが作る美味しい料理を待ち、満腹になってから考えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます