第6話 夢のようなランチ 1

 午前中の社内で、私はいつものように雑務をこなしていた。もちろん、瀬戸君から飛んでくる雑務が大半だ。終わりそうになると次を持ってくるという、雑務のエンドレス。抜け出せない地獄に、やっぱり瀬戸ハラを広げるべきだと固く誓う。

 しばらくして、朝一から大会議室で行われていた会議が終了した。ゾロゾロと社員が出て行くと、課長から会議室のあと片付けを頼まれる。瀬戸君からの雑務をひょいっと机の端に避け、お盆片手に大会議室のドアを潜れば、中にはまだ篠田先輩が一人だけ残っていた。

「あ、お疲れ様です」

 もう誰もいないと思っていたので嬉しい驚きだ。

 ぺこりと頭を下げると、書類を抱えた先輩がにこりと返してくれた。

「いつも悪いな」

 コーヒーのカップを片付けていると、先輩が爽やかに労ってくれる。

「いえいえ。これもお仕事のうちですから」

 なんて。これが瀬戸君相手なら、文句をぶーたれているところだけどね。

 篠田先輩は、書類とノートブックを抱えて出口へと向かう。

 社内で交わすたったこれだけの会話だけれど、私の心はウキウキになる。先輩と話が出来ただけで、今日も一日頑張れるというもの。瀬戸ハラなんて、なんのその。

 嬉しさに頬を緩ませながらコーヒーカップを次々に手に取り片付けていたら、一旦出て行った先輩がすぐに戻ってきた。

 あれ? 忘れ物?

 書類でも忘れたのかと、すぐさまテーブルや椅子を見渡していたら訊ねられた。

「西崎さん。お昼、空いてる?」

 お昼?

 訊かれている意味がわからず、思わずキョトンとしてしまう。

「ランチ、一緒にいかない?」

 ランチ?

 えっ! ランチ!?

 篠田先輩とこの私がランチ?

 驚きすぎて、持っていたカップを落としそうになった。

 だって、入社してこのかた。さっきみたいな短い会話を交わすことはあっても、ランチなんてそんな大それた事態になったことなどないのだ。

 これは、夢ではないだろうか。なんならまだ目覚めていなくて、今ここでほっぺをぎゅうなんて古典的な行動をとってしまったら、自宅のベッドで目を覚ましちゃいそう。

「私と、ですか?」

 訊き間違いかもしれないと、思わず自らを指差し再確認する。

「そう。西崎さんと」

 けれど、否定の否の字もなく飛び切りの笑顔を向けられた。

 ヤバイ、秒殺だ。心臓打ちぬかれて即死です。

 余りの衝撃に即答できない。

「あれ? 先約でもあった? もしかして……、瀬戸?」

 えっ? なぜにここで瀬戸君の名前が出てくるのですか。

 別次元の衝撃に、私は慌ててしまう。

「まっ、まさか。ないです、ないです。先約なんて。しかも、瀬戸君なんて、ありえませんっ」

  力いっぱいにきっぱりと言い切ったら、先輩はおかしそうにクツクツと笑っていた。


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