第5話 何で居るの? 2
争奪戦の末、三人共がお腹を満たした頃。買い込んで来たアルコールも底をつき始めていた。
「葵さん。ビールこれでラストだよ」
人んちの冷蔵庫を当たり前のようにして開けたタイちゃんが、最後の一本になったビールを嬉しそうに持って席へと戻る。
「あのさ。別にいいんだけどね。たださ、よそ様のお家に来るときは、何か一つくらい手土産を持ってくるとか。冷蔵庫を勝手に開けないとか。そういう礼儀は、覚えておくべきだと思うのよ」
タイちゃんに若干呂律の怪しくなった口調で言ったら、何を真面目にー。なんて指をさされてゲラゲラ。
イヤイヤ、笑うところじゃないから。呂律怪しいけど、脳内しっかりしてますんで。
「涼太、タイちゃんとの付き合い考え直しな」
諭すように言ったら、テレビに夢中な我弟は「了解」なんて、思ってもいない返事をしたあとに、「何を今更」と付け加えている。
確かにそうなんだけどね。
タイちゃんはタイちゃんで私が言った事は聞こえているはずなのに、涼太と一緒にテレビを観てケラケラと声を上げて知らん顔だ。
あれだけ食べたのに買い置きしてあったスナック菓子を見つけた涼太とタイちゃんは、なくなった缶ビールの代わりにペットボトルのジュースを開けて、ボリボリ・グビグビとお菓子とジュースを胃袋へおさめている。まるでブラックホールのようだ。放っておいたらこの家にある食べ物という食べ物が、全部あの二人のお腹の中へと吸い込まれてしまう気がする。恐い、恐い。
昨日コンビニで買った新作のチョコレートを冷蔵庫の奥の奥へと隠し、タイちゃんに見つかりませんようにと祈りを込める。
二人は相も変わらずテレビを観ながらポリポリ、グビグビ、ゲラゲラ。
腐れ縁のようなこの二人が離れるわけないか。
楽しそうにしている、二人の背中を眺めて苦笑い。
ていうか、人んちで寛ぎ過ぎでしょうよ。
後片付けをしながら恨めし気にねっとりと見てから、この先も度々起こるだろうこの二人からの集りに一人天を仰いだ。
「姉ちゃん、そろそろ帰るよ」
散々食い散らかし、飲み散らかした涼太とタイちゃんが立ち上がる。どうやら、面白い番組が終わってしまったようだ。ついでに言うなら、ペットボトルのジュースもスナック菓子も空になってしまったから、ここにいる意味がなくなったのだろう。
ちっくしょー。
「お邪魔しましたー」
タイちゃんが、涼太の後について玄関へと向かった。
「葵さん、また来るね」
「もう、いいから」
「またまた~」
イヤイヤ、マジで。
まだピカピカの革靴を履いたタイちゃんが、遠慮しないでよ。なんて、笑っている。
空気が読めないのか、嫌がらせなのか。もう、笑うしかない。
「今度は、手土産くらい持ってきなさいよね」
「じゃあ、俺の愛を持ってくるよ」
だから、そういうの要らないってば。
満面の笑みにゲッソリ。
「涼太、気をつけてね」
「うん。ごちそーさんでした」
二人を玄関で見送り、とりあえず一息。
空いた缶ビールの数やスナック菓子の空袋の量を見て、やれやれ、なんて私はまた肩を竦めた。
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