第2話 絶望に希望

真人「は、はは、なんだよ、能力者って、俺は一般人だぞ?」

巨漢「しらばっくれるな、元は取れてる」

真人「え、ああそれを言うなら裏は取れてるでは」

言い切ると同時に腹に蹴りを食らう。

真人「ぎっ!」

巨漢「なんでわしがこんな小僧の相手をしなきゃならんのだ?あの坊主で良かったろうに」

真人「ふ、不服かい?」

巨漢「当たり前じゃ、わしは力に満ち溢れた獰猛の能力者。いかなる時も強者との闘いの為、精進をする。故にその標的も強者で無ければならん。が、飯を食い漁るときよりも弱者が相手とは、奴も冗談がきついのう」

呆れた顔をして、溜息をつく。

真人「はぁ…?意味わかんねぇこと言ってんじゃ、ねぇぞ…」

クソデブが、と付け足そうと思った。そんなくだらない理由で、命を狙われてたまるか。

だが力はでない、能力を使いすぎた。

さっきの連中の仲間だったら完全に作戦負けだ。俺がここを通ることを予期していたのだから。

真人「で、用件は…なんだよ」

振り絞った声で虚勢を張る。

巨漢「あ?」

ゴォッと正拳突きを寸止めしてきた。

巨漢「喋るな、話すな、語りかけるな。お前は今ここで死に、その命の儚さを憂え」

真人「まてまて、理由ぐらい教えてくれよ、俺が狙われる理由をさ」

巨漢「理由?」

うーんと巨漢は拳に顎を乗せ考え始めた。

巨漢「いや、その有無も、義理も、人情もなく人知れず堕ちるのだ。理由などいるまい」

真人「へー、教えられてないんだ、可哀想ぶっ!!」

今度は普通に殴られた。

巨漢「おうおう、思い出したぞ、訊いておこうと思ったんだがな?」

真人「なに、それを答えたら、生かしてくれるのか?」

巨漢「何を言っている、殺すに決まってるだろ」

真人「せやろなぁ…、で、なんなんですか?」

巨漢「『薬』はどうした、ってことだ」

財布を顔にめがけてぶん投げる。

それが直撃し、巨漢の男は怯んだ。

呻き声が聞こえる中、無我夢中に走り、交差点に辿り着く。

真人「こっから一直線…か!」

諦めと覚悟。死ぬくらいなら吐いた方がマシだ。3回地面蹴る、同時に高速で道路を走り抜ける。それを何回も何回も、相手を撒く、それだけしか考えず。

真人「ぐぎぎ」

真人「ごばばば」

真人「おえっぷ…」

真人「あ、これでるやつ」

真人「オロロロロロロ」

真人「ゲロ百烈けんororororororor」

真人「だいぶ、離したな…」

直線の道から曲がった道になった。

この道で能力を使ったら確実に川に落ちるか、ガードレールにぶつかる。スピードに慣れてもそれにぶつかるということはやはり怖い。ちなみにやったこともない。チキンじゃないぞ!

そんなことはいい、とりあえず公園に逃げ込んで息をひそめよう。

真人「野球場は…見つかるな、とりあえずこの木にでも登って…」

掴みにくい樹皮。だが思ったより丈夫な枝のおかげで登ることが出来た。

真人「ここで夜を明かすの?ひもじいよ…ありえないんだけどほんまに…」

お金を大量に失った失望感と空腹感が彼を蝕んでいった。


真人「撒いたか…?」

人気もなく、木が風で揺らぐ音だけ。

体感で何分、いや何時間待っていたんだ?

逃げ切れたのか…

真人「なんだぁーよかt」

強烈な地響きと揺れに恐怖した。

あの男が、多目的広場に、上から、落ちてきた。

真人「良くねぇな…」

巨漢の男は息をたんまり吸うと大声を発した。

巨漢『おい!!!!!小僧!!!!!居場所はわかっている!!!!!今殺しに行ってやるぞ!!!!!』

げぶげぶげぶと笑い声をあげ、明らかに彼がいる方へと歩いてくる。やばい。確実に殺される。

高いけど…降りよう!!

ドス、という音が体全体に響く。高い木の上から降りたわけだからやはりその反動で脚が痛い。

いやそれだけでは無いのだろう。おそらく着地失敗したせいだ。足首まで激痛が走る。

痛みに感情を揺さぶられる前、木から降りた瞬間、彼は見た。巨漢の男はさっきいた場所におらず、バキバキと木が折れる音がした。

その真下には目が血走った先の男。


逃げなきゃ、死ぬ。だが足が。これで能力を使えば保たないだろう。

振り向かず、前へ前へ。走る走る。一本道は通らずジグザグに走る。

木が折れていく。自分が通りかかった木が全部。隠れるところを探したい。どこか、どこか。


もう一度大きい道路に出よう、直線の道にさえ出てしまえばこっちのもんだ。足の痛みさえ我慢すればいい。クッソ痛いが。

ここから出れば道路に出れる。ここを出て、左行って、そうしたら!元の場所!!!

真人「なーんで?!」

白目になりそうな気持ちだ、なぜだ!なぜここから出れん!もう一回。

ここを出て!左行って!そうしたら!!元の場所!!!!!

真人「だからなーんで?!!」

いやこうしてる間にも奴が迫ってくる。違うルートを通るしか無い。道路を出ず木々を抜けてく。

走り抜けた先は公園、近所の子供達が遊ぶような小さなものではなく大人数で遊べるような公園だ。

隠れる場所は、ない。まだあるはずだ。

見落としている場所。

駐車場…コミニュティセンター…プール…

室内か、もし建物が壊されて瓦礫の下になるのは勘弁だ。

階段…あの連絡通路からなら周りの様子も伺える。


あそこにしよう。駆け上がったその時だった。

巨漢「おい!小僧!鬼ごっこは終わりだぁ!」

巨漢「わしも暇じゃ無いんでね、げぶげぶげぶ」

巨漢の男が公園に入ってきていた。くそ、こっちは攻撃手段がない。万事休すか。

???「よくやった、ここまで逃げ切ったことは褒めてあげる。」

真人「あ…なん、だ?」

???「 助けてほしい?」

真人「ていうか誰だよ、どっから話しかけてんだよ」

???「助けてほしい?」

真人「だから誰なんだって!ふざけるのも大概に…」

???「助けてほしい?」

真人「同じことしかいわんのか!天気予報聞いてんじゃないんだからさぁ!」

???「今日の天気予報は…」

真人「わざわざいいよ!見りゃわかるよ!」

???「胡椒と砂糖が降るでしょう」

真人「天気予報かと思ったらキューピーなのね?!」

???「イット ウィルビー レイン トモロー」

真人「そんな気の抜けた天気予報があるか!!」

???「もうめんどくさいんで助けなくていいですか?」

真人「お前からやり始めたんだろ!!!いやちょっと待って、ほんと困るからまじで助けてほしいんだよこっちは、藁にもすがりたいの!猫の手がほしいの!!」

???「背中でも痒いんですか?」

真人「それまごのて!!!!てかもういいからさ…本当に、助けてくれるなら、助けてくれよなぁ…」

???「じゃあ、助けてみさえもんって行ってもらっていいですか?」

真人「金曜の夕方の話はしてないんだよ!!!もういいよ!グッバイシーユーアゲイン!!!」

???「いや、そんなこと言われても電話じゃないんだし貴方から切ることは出来ませんよ?」

真人「…」

???「シカトか」

無視無視、もうこうなったら俺1人でどうにかするしか無い。もう一回覗いてみよう、あいつが帰ったかもしれない。

恐る恐るしたを覗く。見渡す。

巨漢の男の姿は見えなかった。よかった、逃げ切った、本当に良かった。

真人「はぁー」

俺は仰向けに倒れてこの余韻に浸った。

だが仰向けの視線の先には俺を見下ろしたデブがいた。

巨漢の男は振りかぶって俺を殴ろうとしていた。

真人「うおああああああ!」

鈍重な音と振動が連絡通路にヒビと共に現れ、運良く気づき逃れた俺は反対側の階段から逃げようと思った、しかし今の一発で橋が落ちてしまい、瓦礫の下とはならなかったが、瓦礫に埋もれることとなった。

真人「あっぶね、すでに落ちてるけど。とりあえずここから離れて…」

抜けない、足の周りには石が積み上がり足首の周りだけ小さな空洞があり、その空洞に靴が引っかかっていた。

まずい。脱いででもいいから逃げなきゃ。

何度も試すが一向に抜けない。すると巨漢の男が近寄ってきた。

巨漢「よし歯を食いしばれ」

真人「へ、へへ」

終わった。今日をもって死す。

平凡な1日だった。今日はあってないような日。

そういって目を覚ます。何度も何度もその繰り返し。自堕落がこんなにも尊いなんて知らなかった。この状況に置かれて初めて気づく。生きるって素晴らしい。俺はもっと生きていたかった。なんなら明日の天気予報でも聞いとけばよかった。逃げてる間に。そうしたら明日は晴れなんだな、と希望で心が和らいだかもしれない。金曜の夕方のアニメを見てこんな便利な道具があれば、と夢に妄想を膨らませ、それでデブを倒そうみたいな、そんな甘い考えも出来たかもしれない。

???「最後の忠告です。助けてほしいですか?」

真人「…けて」

???「ん?」

真人『助けてええええええ!!!!みさえもおおおおおおん!!!!』

青い光線。目の前を突っ切り、巨漢の足に刺さる。げぶおおおおと声を荒げ、のたうちまわっていた。転がるたびに地が揺れる。

そんなことより誰だ?さっきのみさえもんってやつか?未来型ロボットか?5歳児のお母さんか?それは無いだろうけど…

その光線の飛んできた方角を見る。

居たのだ。紅いロープで編まれた遊具の1番上。

1人の少女。俺が昼間ナンパした女性。

拳銃とは言い難いが、見た目は変なドライヤー。それを構え、こちらに向かって一発で当てたのだ。相当な手練れだ。俺は、その現象を目の当たりにしてこう言わざるを得なかった。

真人「みさえもおおおおおおおおん!!!!」



???「テレレテッテレー、偽る姿は道化の如く(フォーミングウエポン)」

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その目に映るものだけが答えではない コリー @roki-novel

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